表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

君は僕を好きで、僕はそれを疑ってる

「おはよう、碧斗」


その声は、朝の空気を軽やかに揺らした。

振り向かなくても分かる。氷室沙耶だ。

僕の幼馴染で、誰が見ても“完璧な”女の子。


彼女は僕の隣に立つことを、何の迷いもなく選ぶ。

昔からそうだった。

でも今は――違う意味を持つようになった。


「今日も一緒に行っていい?」

「……いいよ」


返事は短くなってしまう。

意識しているから、じゃない。

意識しすぎて、どう接していいか分からなくなるからだ。


彼女は、僕のことが“好き”だと言った。

冗談でも、気まぐれでもない。

目をそらしたくなるほど真剣なまなざしで。


でも、僕はその気持ちを、まっすぐには受け取れない。

なぜなら――


「氷室さんってさ、マジで全部できるよな。あとは彼氏がまともなら完璧なのに~」


そう言ったのは、クラスの男子だった。

特に悪意はなかった。軽口の一種だ。

本人もすぐに「あ、ごめん、冗談」って笑ってたし。


でも、その“冗談”が、やけに胸に刺さる。


「……なあ、沙耶」


「うん?」


「……やっぱ、俺たち、目立ちすぎてるかもしれない」


言葉を選びながらそう告げると、

彼女はふっと目を伏せて、ゆっくり歩調を緩めた。


「……うん、知ってるよ」


その声には、強さも、優しさも、かすかに滲んだ寂しさもあった。


「でもね、碧斗。私は“目立ちたい”んじゃない。

 “隠したくない”の。私があなたを好きなことを」


「でも、言われるだろ。いろいろ」


「言われるよ? でも……それが“正しい”とは限らないでしょ?」


彼女は立ち止まり、僕をまっすぐに見た。


「“ふさわしい”って言葉がね、最近ちょっと怖いなって思うの。

 私たちの関係まで、誰かの理想に合わせなきゃいけないみたいで」


僕は言葉を失った。

沙耶はいつだって、僕より先を歩いている。

でも今、彼女の歩幅は僕とぴったりだった。


「ごめん、……俺が弱いせいだよな」


そう言うと、彼女はほんの少し口をとがらせた。


「違うよ。それって“優しい”んだよ。

 周りの目を気にできるってことは、誰かを傷つけたくないってことでしょ。

 私は、そういうとこも好きだよ」


「……ほんと、ずるいよな。沙耶は」


「うん、ずっとずるいよ。だって、好きになったら簡単にやめられないから」


その笑顔は、春みたいにやわらかくて、

でもたしかに、少し怖いくらいに強かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ