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93:ボロスの彼是


 レイが座標登録しているのはボロス郊外の丘影なので、五人は街道へ出て数キロ先に見えているボロスへ向け走り出した。


 どこぞからボロスへ帰るのだろうシーカーたちを追い抜くと、シャシィが『くふふ♪』と笑い声を漏らした。


「どうしたの?」

「後ろの三人連れが驚いてただけー♪」

「シオたち速いから驚くの」

「以前なら私も驚いています」


 今やノワルでさえ、走るだけなら時速五〇キロ超で二〇〇キロくらい余裕だ。

 純魔術師でブーストを修得しているのはシャシィとノワルだけだろう。


「なあミレア、ボロスの中で座標登録できるとこねぇかな?」

「マスターに頼めばクランハウスの空き部屋を使えると思うけど、そういうことじゃないのよね?」

「そういうことじゃないな。俺クラメンじゃねぇし」

「安い部屋を借りたらいいと思うよ?」

「誰でも借りれんの?」

「戦士の四等級なら問題ありません。何なら私と愛の巣ぅばあっ!?」


 レイの光速足払いでノワルが盛大にすっ転んだ。

 誰も待つ気はないので走り去る。


「認定試験を受けてシーカーになる人だと思われるの」

「なーる」


 借り手が付かないような安部屋なら即日契約ができるとのことで、帰り際に商人ギルドへ寄ることになった。不動産売買はボロス都市機構の領分だが、賃貸契約は商人ギルドが仲介するらしい。


 サクッとボロスに着いたレイは、取り敢えず腹が減ったからメシと言い出した。

 三人にオススメの店を尋ねると、『食堂に詳しいのはアレ』と言ったミレアが親指を背後に向けた。無表情な銀髪が泥だらけで走って来る。


「不可解です。なぜ待っててくれたのですか?」


 ノワルもイイ感じに常識が壊れている。


 美味い店に連れて行けと言われたノワルが、『私は都合の良い女です』と自虐か皮肉か本心か判らないことを言って、大衆焼肉っぽい店へ案内した。


 店は小さく小汚いが、三つある大きなテーブル席は中途半端な時間帯にも拘らず二つが埋まっている。テーブルの中央が炭箱になっている炭火焼肉で、頑固そうなオヤジが独りで切り盛りしているようだ。


「こういう店嫌いじゃねぇ。おっちゃん、盛り合わせ二〇人前とスープ一〇人前」

「あいよっ! へ?」

「私は肩肉を一〇人前とスープを五人前ね」

「あたしも肩肉にするー。五人前とスープは三人前でー」

「シオは腿肉を八人前にするの。スープは一つでいいの」

「私も盛り合わせにします。辛子を振って五人前ください。スープは二つで」

「あ、あいよ」


 店のオヤジが「こいつら只者じゃねぇ」と戦慄し、周囲のシーカーたちも『瑠璃の徽章だ』とヒソヒソ話し始めた。

 強化が出来る戦士系はそれなりに食べるのだが、そもそもボロスの飲食店は一人前の量が王都辺りの一人前半くらいあるため常軌を逸した量である。

 王都なら「冷やかしですか?」などと聞かれる場面だが、驚きながらもすんなりオーダーを受けたここのオヤジに皆が好印象を抱いた。


「それで? レイは何をする気なのかしら」

「メイズでも魔法が使えるか試す」


 聞き耳を立てていた周囲のシーカーが『はあ!?』と叫びながらレイを見た。

 ミレアが眉間を摘まみながら口を開く。


「そう、あの魔法染みた特殊スクロールがちゃんと発動するか試すのね?」

「あん? 俺は――」

「レーイー♪」


 立ち上がったシャシィがレイの耳に口を寄せ、『魔法なんて言うと面倒なことになっちゃうよ?』と囁いた。漸く気づいたレイが周りを見回す。


「いやまぁ初めて使うスクロールだから…みたいな?」


 ミレアたちが一斉に「よろしい」と頷いた。

 ライセンスがないとか色々あるが、ミレアは棚上げして話題を変える。


「ついでに他のパーティーメンバーを紹介するわ。いればだけど」

「三人だっけか。ナニ職?」

「重戦士と長剣士と結界術師よ」

「結界術なんてあんのか」

「系統外の稀少職よ。ボロス全体でも二人しかいないらしいわ」

「ブラックライノの時に来てたよ。マスターの妹。すごい人見知りするけど」

「へぇ、ずっとシェルナに絡まれてたから見てねぇわ」

「マスタより髪が白くて可愛い子なの」

「強敵です。あの揺れる柔らか巨乳は脅威です」


 レイが死力を尽くして反応を抑える。が、四人にジト目を向けられた。

 やっぱり大きいのが好きなのかよコラ、と。


「へいお待ちどう。兄さんは徽章を付けてないが瑠璃の翼じゃないのかい?」

「違うな。クランに入るつもりもねぇし」

「そうなのかい。よければ名を教えてもらえるか?」

「レイだ。美味かったらまた来るよ」

「店は狭いし汚いが、味ならどこにも負けやしない。まあ吟味してくれ」


 結果、かなり美味かった。

 レイはノワルの真似をして辛子を振った盛り合わせ三人前を追加し、店のオヤジに『今度は常連にだけ出す煮込みを食ってくれ』と言わせた。


 腹を満たした一行は都市中央へ行き、ミレアたちはライセンスを提示しながら『肩慣らしだから直ぐに出るわ』と職員に告げ入って行った。

 四人で石室の奥へ行き、レイが跳ぶスペースを空けて視線を送る

 レイは周囲や職員の視線が外れた瞬間に跳んだ。


「さんきゅ。直ぐ帰るとか言わなきゃダメなん?」

「本格的な探索や攻略の時は、目標階層と予定日数を申告する決まりなの」

「等級とか星の数に見合わないと許可してもらえないこともあるよ」

「下層からはギルド本部に予定表を出す決まりなの」

「帰還予定日を過ぎると、ギルドホールに暫定死亡者として掲示されます」

「なぜに?」

「稀に彷徨体が出るからよ」


 レイには『Prowler(プロウラー)』、〝うろつき回る者〟と聞こえた。


 領域の魔獣と同じく、メイズの魔物も出現階層を積極的に出ることはない。

 しかし、稀に階層を無視して彷徨う個体がいるという。

 五階層くらいなら大きな問題にはならないが、一〇階層を超えてくるとシーカーの遭遇死確率が高くなる。


 例えば、ディナイルのような猛者が、通常三五階層に出る魔物と二一階層で遭遇しても、何ら問題なく対処できる。

 しかし、並みの新人が一九階層に出る魔物と五階層で遭遇してしまうと、殺される可能性はかなり高い。


 ギルドホールに暫定死亡者が掲示されると、シーカーたちは彷徨体の発生を念頭に置いて潜るという話である。

 また、暫定死亡者よりも深い階層を狩り場とするパーティーが、捜索をしてくれることもある。

 但し、これは本気のクランに所属している者だけであり、慈善活動ではなく貢献度を稼ぐためだ。


 暫定死亡者の捜索には二つのパターンがある。

 一つは遺品を持ち帰って暫定の文字が消されるパターン。

 もう一つは救出まで成功するパターン。

 当然ながら救出成功で得られる貢献度の方が高く、救出階層が深ければより高い貢献度を獲得できるという仕組みだ。


「メイズは時間経過で死者を飲み込むから、遺品が見つかるのは稀よ」

「生きてれば飲み込まれないから、浅い階層だと救出合戦になるよね」

「なんか色々あんだな。とりま下に行こうぜ」


 言ったレイは、床にぽっかりと開いた大きな穴の階段をワクワクしながら降りて行った。


 上層と呼ばれる一階層から一九階層までは、まるで遺跡のように人工的な構造になっていて異様に天井が高い。おまけに壁・床・天井は仄かに発光している。

 話には聞いていたが、実際に来てみると嫌が応にも興奮する。


「すげぇなオイ!」


 ミレアは人が来ないような場所へ移動すべく、はしゃぐレイの腕を引いて歩き出した。レイはキョロキョロしながら歩きつつ、壁や床を触っていく。


「言っておくけど検証したら帰るのよ? 分かってるわよね? ねえ!」

「はいはい分かってるって。ぶっちゃけ感覚的に予想はついてる」

「そうなんだ。どんな予想?」

「転移だけ使えない予想」


 言ったレイが消えた。ミレアたちが周囲を見回す。


「上だ上」


 見上げると、レイが床上五メール程の高さに静止していた。

 と思ったら右手にプロテイン入りゼリー飲料が出現し、左手にユアがストックとして創った魔晶が出現した。


「やっぱ転移だけできねぇ。メイズって隔離されてんな」

「地下なのだから当然でしょう?」

「違う違う。魔力的にも魔法的にもって意味。ちっと調べてみっか」


 レイが指向性魔力感知をしながら、くるっと三六〇度回転した。


「おん??」

「なになにどうしたの?」


 どうやら魔力的には隔離されていない可能性がある。

 なぜなら、指向性魔力が壁を貫通する場所があった。


「なあ、メイズって壁の向こうに空洞があんの?」

「「「「!?」」」」


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