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08:最強の親友


 ジンの魔剣もユアの魔弓も、この世界には前例のない特殊仕様だ。

 必然的に長納期が確定的で、工程の進捗に応じ逐次確認・協議という作業が必要になる。


「レイ様は手甲と足甲を使わないのかしら?」

「俺がやってたのは観戦される格闘技だから武器は使わない」

「東帝国が闘技場で催す興行の無手で殺さない形式かしら?」

「たぶんそんな感じ」


 いるのかグラディエーターと興味を惹かれつつ、ウンウンと頷いた。

 すると、アルベルトがミレアに「どんな模擬戦をやったのか」と問う。

 ミレアが掻い摘んで説明すると、アルベルトは顎先を摘まんで思案し始めた。


「ミレアは魔導兵装を知っているかい? 略して魔装と呼ばれているのだけど」

「メイズでたまに見かけるわ。西帝国が開発した代物よね?」


 この大陸には二つの帝国があり、俗に〝西帝国〟〝東帝国〟と呼ばれている。西帝国は魔導工学発祥の国であり、魔導兵装を生み出す以前はオルタニア魔導公国という小国であった。

 アルベルトの説明を聞いているレイは、近未来バトル系のマンガやアニメに登場する、サイバーちっくなパワードスーツをイメージしているが、さておき。


 オルタニアは魔装を以て大陸西部を十数年で平定し、国名をオルタニア魔導帝国と改めた。

 魔装は魔力制御技能の基礎を修得すれば戦士も装備可能で、高機動な上に経戦能力も非常に高いと評判だ。もちろん魔術師用の魔装もある。


 魔装の動力源は魔力であり、メイズでしか採掘されない魔晶を内蔵するため、イニシャルコストもメンテナンスコストも怖ろしく高い。

 しかし、無限魔力炉などという非常識な魔力機関を持つレイであれば、比較的に低コストな魔装でも必要十分ではないかというアイデアである。


「ここで重要なのは、西帝国がアンセスト王国に対して友好的という点だね」

「初代オルタニア公は、何代目だかのアンセスト大帝の実弟よね。お兄様の目論見には察しがついたけど、敵国の目を掻い潜って魔装を運び込むなんて幾らケンプ商会でも無理があるわ」


 そう、現在のアンセスト王国は、周辺を六つの敵国に囲まれている。

 六ヵ国中の二ヵ国から政商の認可を受けているケンプ商会と雖も、アンセストへの荷を検閲なしに運び込むなど不可能である。


「確かにそうなのだけど、検閲を受けない国と団体があるだろう?」

「あっ、エルメニア聖教ね!」


 アルベルトが、やり手商人然とした笑みをミレアに向け頷いた。


「流石はケンプ商会の跡取り。ミレアの頭じゃ思いつかないね」

「なによシィ、私が馬鹿だとでも言いたいの?」

「メイズ馬鹿?」

「否定したいけど出来ないわね」

「ミレアは物知りで賢いの」

「ありがとうシオ! 愛してるわ♪」

「シオもミレアとシィを愛してるのー!」


(なんだこれ。百合百合しいラブコメか?)


「レイとジン君はそんな顔しない! 女の子は愛を確かめたい生き物なの!」

「女脳だな」

「面倒だな」

「ジン君は言葉を選ぶ!」


 クールで端正な顔立ちのジンはかなりモテるのだが、告白した女子の尽くを轟沈させる悪癖があり、男子の間では「鬼神」をもじって「鬼仁」と囁かれている。

 冷たいとこもイイ! という女子が多いのもまた事実ではあるが。


 レイは誰もが認めるハンサム君なのだが、才色兼備で巨乳なユアが常に傍らで女神の微笑みを浮かべているため、正面切ってアプローチしてくるのはユアの姉のミユくらいという悲しい現実がある。

 レイ本人は恋愛脳が小鳥の脳サイズなので気づいてない。


 そんなこんなでレイの武装は別途協議となり、一行はケンプ商会を後にして昼食がてら王都観光を楽しむことに。


 流石に五〇〇〇年の国史を誇るだけあって、アンセストの食文化は発展している。王宮の料理は手間暇を惜しまず繊細な味を引き出すといった風情だが、庶民の食文化は多種多様なソースや調味料で好みの味を楽しむといった方向性だ。


 また、現在のアンセスト国土は小さいながらも南北に細長いため、季節によって様々な食材が流通している。

 世界最大のメイズで得られる食材も豊富に供給されるとあって、日本さながらに世界中の料理や珍味を味わう楽しみ方もある。


「あーっ! あれケーキじゃない!? 生クリームじゃない!?」

「ええ、生乳脂肪を使った冷菓子よ。やっぱりユア様も好きなのね」

「脂肪っていう言葉はキライだけど生クリームは大好き! 大人買いしたい!」

「おもっきり脂質の塊だろ」

「甘ければ糖質もだな」

「むぅ…」

「ユア様は下着を買いたいんじゃなかったの?」

「シオちゃん恥ずかしいから普通に言わないで! 必要だけど!」

「月流れの品も要るわよね?」

「それ何ですか?」

「あら通じないのね。毎月流れるでしょう? 血が」

「っ!?」

「おいジン、コーヒーの匂いがするのは気のせいか?」

「いや、俺も同じことを考えてた。探してみるか」


 コーヒーだろう物が飲める店の見当は既についているのだが、赤面するユアの心情が居た堪れないレイとジンは逃げるようにその場を離れる。

 シャシィが『二人は任せて』と告げてレイとジンを追い、ミレアとシオがユアの買い物に付き合うこととなった。


 コーヒーは立ち飲み屋っぽい小さな酒場で提供されており、シャシィによるとアルコール度数の高い蒸留酒を紅茶やコーヒーで割る人も少なくないそうだ。

 因みに、コーヒーの現地発音は〝ケフェム〟である。


「これ俺好みだわ。苦味が強いケフェム」

「俺はもう少し酸味が欲しい。というか、全く酸味を感じない」

「二人の故郷にもあるんだね」

「コーヒーが飲めない国はないんじゃね?」

「へぇ~。ところでさ、レイ様とユア様って婚約とかしてるの?」

「ぶふっ! ゴホゴホッ!」

「似たようなもんだ」

「おい!」

「やっぱそっかー。残念残念」

「おーい」

「シャシィはレイのような男が好みなのか?」

「魔力が大きくて強い子を産めそう。見栄えもいいし」

「おーーーい」

「なるほど、動物としては正しい選び方なのかもな」

「他に選ぶ基準なんてある?」

「ぅをい! 無視すんな! 魔力と強さならジンでもいいだろ!」

「ジン様は無理だよぉ」


 ジンがピクリと反応した。


「俺が無理な理由は何だ?」

「え、そこ掘り下げるの?」

「俺が無理な理由は何だと訊いている」

「もぉ怖いってばぁ。理由はジン様が勇者だからだよ。畏れ多いもん」

「口が堅いな? 王家は王女に勇者の子供を産ませたい。だから無理、だろ?」

「わお、マジかよ」

「ジン様は知って…うんん、気づいてたんだ?」

「余ほどの間抜けじゃなければ気づく」


 微塵も気づいてなかったレイが死んだ魚の目になる。愚かな間抜けかよ、と。

 そんなレイを見たシャシィが苦笑する。


「次の質問だ。勇者の能力は遺伝するのか?」

「いでん?」

「子供へ受け継がれるのか?」

「あぁうん、そういう伝承はあるよ。この辺の国がアンセストを攻め落としたいのは、召喚のレリックが欲しいからっていう噂もあるし」

「神紋持ちの巫女がいなければ使えないんだろ?」

「たぶんけど、魔力量が多い魔術師なら使えるんじゃないかな?」


 シャシィをジッと見詰めたジンは、得心した表情で視線を虚空へ向けた。

 星詠の巫女の能力が神の啓示や宣託を享けることに特化しているという話からして、神紋を持つ魔法士ならずともレリックを使えるとの予想は筋が通る。

 魔法士ないし魔術師に限定されるのは、魔力量と神秘への理解度ではないか。


「王家は俺たちを舐め過ぎだな」

「ねえジン様、怒るのは当然だけど、憎悪を膨らませると闇に堕ちるよ?」

「なんだそれは。まるで前例があるような言い方だな?」

「この目で見た訳じゃないけどね。お師匠の受け売りで召喚絡みの伝承だよ」

「あー止め止め! ジン、俺らはメイズを攻略して魔王に頼んで日本へ帰る! それでいいじゃないか。もしジンが闇に堕ちそうな時は俺がぶん殴って目ぇ覚まさせてやる。歯をインプラントしたくなきゃ堕ちんな! 何か悩んでんなら全部吐き出せ! 出来る出来ないじゃなく、俺たち三人で何とかする! だろ!」


 言ったレイは大きな手でジンの後頭部を鷲掴みにし、ゴツと額を押し当て強く見詰めた。歪んでいたジンの顔が緩み、苦笑と微笑を混ぜた笑みを浮かべる。


「(レイが嫌な奴だったらどんなに楽か…)ったく、暑苦しい奴だな?」

「てめっ!」

「冗談だ。いや冗談じゃなく暑苦しいが、お前は最高で最強の親友だよ」

「フン、分かりゃいいんだよ分かりゃあ。まぁ俺に任せとけってな」

「ふふふっ。ねぇレイ様、ユア様じゃなくあたしにしない? 何でもするよ?」

「な…何でも? マジで何でも?」

「うん、何でも。レイ様がして欲しいこと全部してアゲル♥」

「顔が堕ちてるぞ愚者」

「むっ、助けてくれてありがとう勇者。ダークサイドが手招きしてたぜ」

「ちぇ、つまんないの。イケそうだったのに」

「幼気な青少年の純心を弄ぶなっつーの! シィはチビッ子のくせに危ねぇな!」

「それ失礼! あたしレイ様たちより年上のお姉さんなんだからね!」

「「それはない」」

「むっかーーー! 女を背丈と胸の大きさで図るな馬鹿ぁ! 死んじゃえ!」

「シィがキレた! ってか何だこのプレッシャー!?」

「これ氷か!? 逃げるぞレイ!」


 虚空に幾つもの氷礫を出現させたシャシィを見て、レイとジンが脱兎を置き去りにする速さでダッシュする。

 シャシィはミレアやシオと違って足が遅く、『あたし護衛なのにぃー!』と叫びながらレイたちを追う。王都にレイとジンの笑い声が響くのだった。




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