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72:やはり姉弟


 レイとジンは運転を交代しながらノンストップでホワイトライノを走らせ、凡そ一七時間で王都へ帰着。


 夜間の帰着が初めてだったため、煌々と照らされるヘッドライトに驚いた南外郭門の守備兵が警鐘を打ち鳴らすという一幕もあった。


「クソ眠ぃ…」

「全くだ。でもまあ、オートパイロットの信頼性が高そうで安心した」


 ホワイトライノには、魔力充填装置の集束魔力を基準とするオートマッピング機能を試験的に導入している。

 帰路ではオートパイロットを使ってみたものの、GPS並みの精度が期待できるかは未知数であった。

 モーションセンサーやサーモグラフィとの連動で軌道を変更し修正するセーフティ機能も盛り込んではいるが、まかり間違って人身事故など起こしたら目も当てられない。


 二人は気を抜くことなく走らせ、歩行者や野生動物を感知したホワイトライノが軌道変更と修正を問題なく実行できるとの検証結果を得た。


「つっても全員で爆睡するワケにはいかねぇだろ」

「高速道路のようなインフラを整備しない限り、絶対的な安全保証は無理だな」


 そんな話をしながら、レイとジンは気持ち良さそうに眠るユアを見遣る。

 ユアは『二人が眠くならないようにお話するね!』と言ってフロントシートに乗り込んだのだが、サスペンションの緩衝性が良すぎるのか夢の世界へ旅立ってしまった。セシルとミレアたちは普通にキャビンで寝ている。


 工場の敷地へ入ったレイとジンは、女性陣を起こすだの何だのは面倒だと意見を一致させ、バケットなのにリクライニングするシートで眠ることにした。


 明けて翌ド早朝――。


 さがっぽい習慣なのか、夜明け前に目が覚めてしまうレイたちは日課のトレーニングを敢行している。セシルは未だに爆睡中だ。


「あー、何気に寝違えたくせぇ」

「バケットシートで寝るもんじゃないな。リクライニングする時点でおかしいが」

「寝ちゃってごめんなさい…」

「謝ることなんてないさ。寝顔が可愛かった」

「やだ恥ずかしい…」

「今朝も熱いわね」

「クソ熱いな」

「眠くなるのは仕方ないよねー」

「あのベッドは気持ち良すぎるの」

「柔らかいだけのベッドより数段上です。アレも売れます」


 シャシィやシオの意見は尤もだし、レイも恨み節を歌う気などない。

 だがしかし、事ある毎にイチャつき始めるジンとユアにジト目を向けるなというのは無理な相談である。


 ダッシュ込み持久走、筋トレ、かなりガチの模擬戦といったメニューを熟して事務棟の食堂へ入ると、快眠丸出しのセシルが朝食を食べていた。

 傍らでは神匠信奉者のメイが、侍女も斯くやと甲斐甲斐しく世話を焼いている。


 レイは何度か「セシルの世話なんぞしなくていい」と言ったのだが、本人が好きでやっているようなので言うのをやめた。


「皆さんお帰りなさい」

「ただいまメイさん。おはようセシル姉」

「ユアユアおはよぉー」


 気の利くメイが皆の分も朝食を作ってくれたらしく、セルフサービスで配膳して食事を始めた。一頻り食べたところでジンがメイへ目を向ける。


「通信で伝えた慰安旅行の件はどうだ?」

「みんな最初は戸惑ってましたけど、凄く喜んで全員参加したいと言ってます」

「でしょうね。ケンプでも慰安と言えば幹部食事会が精々だもの」


 貴族ですら気軽に旅行が出来る世界ではないため当然である。


 メイが作成した参加者リストをジンに手渡す。

 社員の大半が家族持ちとあって、総勢七五名の団体旅行になる模様。

 ジンたち七名を合わせれば実に八二名だ。


「セシルさん、帝都で泊まったホテルを押さえてもらえます?」

「超余裕だけど、私たちが帰った翌日に来てね?」

「もちろんです」


 セシルの護衛役五名は、エルメニアの辺境都市でのんびりしている。

 レイが行ったことのない都市であるため、サクッと転移できない。

 諸々を勘案しつつ旅程を相談した結果、出発は明後日に決まった。


 今日は午後から宮廷でアレジアンス株式会社の信用証札登録を行い、その足で東軍用地へ向かって魔導砲の演習をしなければならない。

 が、エルメニア聖都ハシュアのホテルもさっさと押さえねばならない。

 聖都で泊まった高級宿サーベンズ・サーフに泊まりたい旨は通信でロレンティオ枢機卿に伝えたものの、全てを任せて借りばかりが増えるのも上手くない。


 ということでレイ、ジン、ユア、セシルの四人で聖都へ飛ぶこととなった。


「従業員への通達はメイに任せる。宮廷から戻り次第で新商会の概要説明を行うから周知も頼む」

「分かりました」

「昼まで正味五時間…エルメニアは夕食時だな。レイ頼む」

「あいよ」


 四人が【質量転移マストランスファ】で消えた。


「ホント忙しいわね」

「シーカーって生き死に以外は気楽なんだね」

「あと三月くらいずっと忙しいの」

「確かに忙しいですが、私の人生で最高に充実した年月になると確信できます」


 ミレアたちはノワルの言葉を茶化すことなく、深く頷き微笑んだ。


「うっは、マジ聖都だし!」

「お前来たことあんだ?」

「ないお?」

「久しぶりみたいな言い方すんな!」

「えへ♪」


 聖皇宮の脇へ転移したレイが【格納庫ハンガー】から魔導通信ユニットを出し、インカムを装着したジンがロレンティオへ発信する。

 スリーコールで応答したロレンティオに斯々然々と説明すると、暫くの後にロレンティオ本人が聖皇宮から出て来た。フットワークの軽い枢機卿である。


 セシルが自己紹介をしてレイの実姉だと伝えると、ロレンティオが青天の霹靂といった表情を浮かべた。


「よもや神匠様がレイ様の姉君とは。因果律の成せる業でございますな」

「バッドラックな災難だ」

「レイきゅん? お姉ちゃん泣いちゃうぞ?」


 そのまま聖皇宮の控室へ案内され、暫く待った後に遭逢の儀が執り行われた。


「わお! 聖皇ちゃんガチのピンクブロンドじゃん♪ 超カワユス♥」

「セ、セシル姉…」


 既視感満載の無礼にジンがレイを見遣り、レイは白目を剥き天井を仰いだ。


「ふふっ、ふふふっ…私としたことが失礼いたしました。神匠セシル様、ならびに聖者ユア様との遭逢を喜ばしく想います。エルメニア聖皇国聖皇、アナシェリル・ルゥネイ・エルメロードスと申します。お見知りおきください」


 セシルとユアは聖皇が屈託なく声を漏らし笑んだことに驚き、冒頭から妙なやり取りをしているジンとレイへ目を向けた。


「初見の時、レイがセシルさんとほぼ同じことを言ったんだよ」

「あ~」

「やだレイきゅんと相思相愛♥」

「やかましいわ! 押してんだからさっさと挨拶しやがれ!」


 早くもグダグダな雰囲気で名乗りを終え、ジンが取り繕うように対ドルンガルト戦の予定を告知した。

 その辺はコステルからロレンティオ経由で報告されていると判ってはいるが、流石のジンも他に取り繕う言葉が見つからなかった。


 楽し気に微笑む聖皇が口を開き、一五通の勧告状は既にコステルの手元へ届いたはずだと告げ、ロレンティオへ目を向けた。


「聖下が仰せの通りにございます。聖宮騎士団も大隊規模で順次進発しており、ヴライク卿からはジン様の下知を待つのみとの報を得ておりますれば」

「貴国のご高配に感謝を。我々も最低限の流血で平定するよう努めます」


 事が成った暁にはゆっくり話をしたいとの言葉を受け、ジンたちはロレンティオと共に遭逢の間を辞した。


 聖皇宮から真っ直ぐサーベンズ・サーフへ向かうと、ロレンティオを見たドアマンの一人が慌てふためきホテルへ駆け込んで行く。

 直ぐさま総支配人らしき壮年男性が姿を現し、聖教の礼法でロレンティオを迎えた。レイが言うカメハメ波の初動から云々である。


 鶴の一声も斯くやと、ロレンティオの言葉で二七室の確保が確約された。


「ありがとうございました、ロレンティオ枢機卿」

「此れしきの事なれば何時なりとお申し付けください」


 空気を読ませればエルメニア随一ではないかと思わせるロレンティオは、何を詮索するでもなく役目は果たしたとばかりに聖王宮へ戻って行った。

 ジンは内心「アレジアンスに欲しい人材だ」と思いつつ、ユアと二人で部屋割りの確認を始める。


「んじゃ行ってくるぜ」

「ああ、頼むよ」

「ちゃんと迎えに来てね?」

「大人になるまで来るなってフリか?」

「ちちち違うよ! もぉレイのバカ!」

「デキちゃうからゴム使うべし♥」

「セシル姉までっ!」


 煽り上手な姉弟がイイ笑顔でサムアップして外へ駆けて行く。

 建物の影に入ったレイはセシルの腰を抱き、高空に視点を定め跳んだ。

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