70:vs 領域主
本話にて連投終了です。
Guryuryuryuryuryuryuryuryu…
モスグリーンの巨塊が喉を鳴らしながらレイたちを睥睨する。
レイの脳裏に、アメリカの採石場で見た巨大なダンプカーが浮かんだ。
これぞマッシヴ・ヘヴィ・デューティー。
形態はトリケラトプスの頭をティラノサウルスと交換した感じで、前頭に極太の一本角が生えている。
四足歩行なんだからそんなに長い尻尾は要らないだろうと言いたいそれは、半ばから二又に分かれ、其々の先端が大鉈を彷彿とさせる形状だ。
近傍に専用の湧水泉があり、半径五〇メートル程は巨木の尽くが薙ぎ倒され朽ち果てている。
「お前らなんぞ余裕って感じだなぁコノヤロォ」
「これを見てそれをジャージ姿で言えるレイにも余裕を感じるんだが…」
「歴とした竜種みたいね…初めて見たわ…」
「あたしも…」
「恐いの…」
「本気で漏らしそうです…」
縦に割れた両眼は鮮やかな琥珀といった黄色。
魔獣は漏れなく紅眼であるため、この緑竜は竜種として領域を支配している。
「初めましての挨拶くらいしとくか」
瞬間、レイが消えた。
ゴォンッ!
素手で横っ面にショートフックを叩き込んだレイが元の位置に戻る。
痛痒は感じずとも慮外の一撃を食らった緑竜が、伏していた巨躯を持ち上げた。
「くっそ硬ぇわ。こりゃフル装備で全力強化しねぇと歯が立たねぇな」
「ユアは後方待機のまま再生スタンバイ! 開幕から全力全開で駆逐するぞ!」
「っしゃ行くぞ隊長!」
ストライカーのレイとミレアが一直線に駆け出し、遊撃のシオが側面へ展開。
ジン、シャシィ、ノワルが機先を制すべく術式を発動する。
「百式02【爆炎撃】! 百式01【蒼炎弾】!」
「百式ノ一【尖氷礫】! 百式ノ二【凍縛】!」
「百式ノ四【百旋刃】! 百式ノ三【鋭石獄】!」
ドゴォオンッ! ズドンッ! ドスッ! ギシッ! ヒュヒュヒュヒュヒュヒュッ! ズドドドドドドドドドドドドッ!
「グルォアアアアアアアアアアァオオオオオオオオォッ!!!」
緑竜の血煙が舞い、意外な痛手に激怒した緑竜は重低音の咆哮を上げた。
フル装備に換装したレイが鮮血よりも赫い鮮紅を噴き上げて跳び、追従するミレアが双剣を抜き放つ。
「喰らっとけやぁ!」
ドギャッ!!! メギメギメギメギィッッッ!!!!!
「はぁあああああっ!【双刃裂破】!」
ズシャシュンッ!
渾身の後ろ回し蹴りが緑竜の左眼を潰し、眼底骨を砕き膝まで突き刺さる。
一拍遅れてミレアの双剣が比較的に柔らかい喉笛を切り裂いた。
透かさず地を這うようにミレアの足元を抜けたシアが、ククリのような長曲刀を腰裏から左逆手で抜き、柄頭に右掌を添える。
「【心刺し】」
ドシュッ!
「っしゃあ! オマージュ・テコンドー! 直下型一〇八〇スピンキィークッ!」
ゴリュッ! ブッチィィィッ!!!
「えぇっ!?」
「うっわ、レイきゅん蹴り千切っちゃったんだけど……もう終わり?」
ドスンッ、ズズズーーーーーーンッ……
高空を蹴って落下加速度をつけ、錐揉み三回転を加えたっぷりと遠心力を載せ、直上から頸椎へ落とされた極鋼製ブーツが緑竜の首を圧し千切った。
装備総重量三〇トン超えの質量に運動エネルギーを付加した凶撃だ。
角先から地に落ちた頭が地面に突き刺さり、ゆっくりと横倒しになった胴体が大地を揺らした。体感でマグニチュード四くらいである。
まあ、どこが首だか判らない太さなのだが。
「何と言うか…意外とあっけないもんだな?」
「レイの初撃で視界が半分になったよねー」
「レイ様がいなければ苦戦必至です。私たちの攻撃は大して効いてません」
「っていうかさ、ジン様は何で魔法使わなかったの?」
「スマン、単体攻撃用の熟練度を全く上げてない」
「そっかぁ、ジン様とユア様はずっと忙しかったもんねぇ」
「言い訳にならないけどな」
「それは違うと思います。お二人が尽力したからこそ、レイ様は鍛錬に没頭することが出来たのです」
まともなことを言ったノワルに、ジンとシャシィが驚愕の目を向ける。
「何ですか? そんな目で見ても脱ぎませんよ?」
「「……」」
一方、レイはミレアとシオの指示でお仕事を始めた。
「レイ早く! 先に胴体を収納して!」
「なぜに? ちっとは完勝を味わっても良くね? 写真くらい撮ろうぜ?」
「新鮮な竜の血は高く売れるの。最上級の錬金溶液も作れるの」
「へぇ、じゃあしゃあねぇな」
「片目を潰したのは少し惜しいわね」
「そーゆーのは先に言っといてくれ。で、竜の肉って食えんの?」
「食べれるんじゃない? 竜種を倒した話なんて聞いたことないから判らないわ」
「ユア様が、建国王ドベルクは竜種の肉を絶賛したって言ってたの」
レイの中で「強いのは美味い」の法則が成立していく。
頭部を収納しながら結構な量の血液が血溜まりになっているのを見たレイが、「なんかイケそうな気がする」と考え血液だけを選択する。
ものの見事に血液が【食料庫】へ転送された。
「えっ……あ、収納したのね?」
「便利だよなあ。どうやって出すんだって話はあるけど」
そこへジンたちがやって来て口を開く。
「黒色ガラス瓶を造って密封保存だろ。凝固は当然ながら、おそらく酸化も拙い」
「真空引きすれば尚ヨシだお。私も魔獣の血はたまに使うし」
「ならジンとセシルに任せる。超腹減ったし戻ろうぜ」
「お姉ちゃんにも少しちょうだい?」
「ジンと相談しろよ。ミレアたちもそれでいいか?」
コンドームを含めた各種生産設備の製作でセシルの貢献度は高いため、皆が当然とばかりに頷いた。
セシル本人も腐るほど金を持っているので丸ごと買い取ってもいいのだが、レイたちのギルド貢献度を考慮し、敢えて「ちょうだい」と言っている。
帰路でちょいちょい襲ってくる魔獣にイラっとしたレイが、圧縮した超高強度魔力を広域拡散する。人は腹が減るとイラつくものだ。
魔獣は脱兎を追い抜く勢いで逃げたのだが、全員が魔力酔いを起こし、セシルに至っては虚弱なお嬢様よろしくぶっ倒れてしまった。
「おのれ人外めぇ…」
「人外言うな。おんぶしてやっから我慢しろって」
「おんぶヤメテ…お姉ちゃん死んじゃう…」
元凶のおんぶを拒否したセシルをミレアが背負って先行し、真っ赤な夕陽が山の稜線に沈む頃ホワイトライノに帰着した。
三つあるシャワーブースを順番で使うことになったのだが、ミレアたちは極々普通にジンとユアを最後に回す。時間がかかるでしょ?と。
悪乗りセシルが『夢の近親相姦♥』などと宣いレイのデコピンで再び撃沈。
結局はセシルとユアが最初に入り、ユアはセシルに揉みしだかれたそうな。
「ジン大変だ、蚊取り線香がない」
「こんなデカい蚊がいてたまるか。蛾だ」
鹿を食べるか竜を食べるか議論の結果、鹿に決まり解体すべく外へ出た。
とっぷり暮れた暗闇でホワイトライノのサーチライトを点灯した途端に、ちっちゃいモスラが大挙して来襲。
ジンが暴風魔法を展開してセーフティエリアを確保し、「BBQは炭火焼きこそ正義!」の旗の下にシカ焼肉パーティーが開幕した。
「くっそ美味いぞコノヤローーーっ!」
「これはちょっと驚くほど美味いな」
「鹿のお肉は太らないから嬉し…太らないよね?」
「ユアユアそれ以上育ったらジンセンくんが持て余すよ?」
「セシル姉っ!」
「何度食べてもこのソースは絶品ね」
「売ってたら買うよね」
「シオもユア様のソースは大好きなの」
「アレジアンスは売る物に困りませんね。私は借金塗れですが?」
「誰も催促してねぇだろ」
「レイ様が私を買ってください」
「いいぞ、サクッと狩ってやる」
「話が嚙み合ってませんけど、それも悪くないです」
どこに喜びを見出しているか知らないが、ノワルは完全にぶっ壊れている。
レイは日本語の「買って」に「狩って」を被せただけだ。
「やべぇなコレ。家のベッドよりいい。絶妙にサイコー」
「だろ? 高密度ウレタンを芯材にした高反発マットレスだ。再現に苦労した」
鏑木家愛用のマットレスを再現したフルリクライニングシートが、これまで開発した製品の中で最大級に傾注した会心作なのはジンの秘密だ。
レイはノワルの夜襲を撃退しつつ一夜を明かし、月森の里へと向かった。
ここまでの70話、楽しんで頂けたなら幸いです。
今後は月森→社員旅行→戦争という流れになります。
戦争を血塗れにしたくないなぁと考えているので、プロットに悩んでいます。
余りにもアッサリだと書いてて楽しくないし。
不定期更新になりますが、気長にお付き合いください。