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06:王都アスラ


(なに考えてんだか知らねぇけど、大事なことなんだろうな)


 過去にもジンが自身を貶めるような発言をしたことは幾度かある。

 しかし、後になれば「なるほど」と呻ってしまう結果を生み出すため、レイとユアは困惑を抑えジンとフィオの会話を見守る。


「フィオも一緒に行くか?」

「私が同道しますと騒ぎになりますので、ミレアたちをお連れください」


 アンスロト王家は淡い蒼が混ざる金髪の家系であるため、街へ出ると人々が群がってくるそうだ。仮に髪を染めたとしても異様に容姿が整っているとあって、衆人の目を惹くのは間違いない。


「王宮内で黒髪を見かけないんだが、この辺では珍しいのか?」

「黒髪は珍しくありませんが、ジン様のような濃い虹彩は稀かと。ユア様のような鳶色の虹彩は多くいます。不躾ですが、レイ様は民族が異なるのですか?」

「俺は色んな血が混ざってんだわ」


 レイは父が赤髪のオランダ人で、母がイギリスと日本のハーフとあって珍しい髪色をしている。強いて言うなら、ダークチェリーブロンドといった風だ。

 おまけに虹彩が青灰色なので、小学校や中学校の入学時には色々と面倒なことが多かった。


 ミレアたちに先導され王宮のエントランスを出たレイたちがギョっとする。


 エントランス前のロータリーには馬車が横付けされていた。馬車で行くと聞いていたのでそれはいい。いいのだが、メタリックな馬が陽光を反射している。

 レイは馬体をコンコンと叩き、ユアはブルーサファイアを埋め込んだような円らな瞳をジーっと見詰め、ジンは脚の球状関節を興味深げに観察する。


「皆様の故国にゴーレム馬はないのですね。馬はご存じですか?」

「馬はいるけど実物を見たのは二回か三回だなぁ」

「ミレアさん、この目って宝石ですか?」

「はい、アンスロト王家のゴーレム馬には青玉ブルーサファイアを使います」

「これだけの技術があるなら馬車じゃなくてもいいと思うんだが」

「と言われますと?」

「車輪を回転させる動力源を造ればいいじゃないか」

「それは魔導四輪のことでしょうか?」

「なんだ、あるのか」

「ありますが、利便性が非常に悪いのです」


 レイたちは顔を見合わせ、「意味不明」という点で合意しつつ乗り込んだ。


 馬車の内装も豪奢な造りで、サロンにあったような長椅子が設えてある。

 お世辞にも乗り心地が良いとは言えないものの、蹄の音を響かせゆったりと走る馬車には趣きがある。利便性については謎のままだが。


「幾つか案を考えてありますが、皆様は行きたい場所がありますか? 名所も多くありますので、名所巡りでも結構です」


 ミレアが誰となく問うと、レイがスバっと手を挙げて口を開く。


「関係ない質問なんだけど、ミレアたちって王宮の人じゃないよな?」

「はい、私共は〝瑠璃の翼〟というクランから派遣されたシーカーです」

「やっぱそっち系か。そろそろ本性出してみね?」

「それは……ジン様とユア様も同様のお考えなのでしょうか?」

「お互いのためだ。王家の流儀を全面的に受け入れるつもりはないんでね」

「うんうん。私たちは召喚されただけの一般人だもんね」

「そうですか。じゃあ、そうさせてもらうわ」


 朝食の後で小一時間ほど三人になったレイたちは、今後の方針を相談した。

 その際、ミレアたちは王宮外の人だろうとレイが言い出した。


 そもそもの話、護衛なら近衛騎士でも付ければ良く、身の回りの世話は歴とした内廷侍女がいる。しかし侍女たちがミレアに対して余所余所しかったり、当のミレアも早朝トレーニングを共にしたりと妙な展開であった。

 シャシィとシオから戦闘経験やら何やらを尋ねられたとの話を聞いたレイは、彼女たちがメイズの案内役、もしくは戦闘技術の指導者じゃないかと考えた。


「今回の勇者召喚は二年ほど前に持ち上がった計画よ。王室から内々の依頼を受けたクランマスターが私たちを選抜して、この一年は王宮儀礼だとかの指南を受けていたの。他にも二人いたけど、レイ様たちが三人だったからメイズ都市へ帰らせたわ。正直なところ精神的に辛かったのよ」

「ホントそうだよねぇ。高額報酬に釣られたのは失敗だったと思ったよぉ」

「シオはマスター恨んだの。美味しい物いっぱい食べられるって言ったのに、使用人と同じ物しか食べれなかったの」


 三人して遠くを見詰める姿にレイたちが苦笑する。


 ミレアが選抜されたのは大商家の娘でそれなりの教育を受けて育ち、並みの近衛兵を圧倒する程に腕が立つ双剣士だから。

 シャシィは光と水に適性を持つ魔術師で、回復支援と水氷系攻撃魔術に長け、魔力制御技能にも精通している。

 シオは隠形を得手として斥候を熟す遊撃手であり、夜目も利けば嗅覚や聴覚もずば抜けている。


「俺らも大変だけどミレアたちも大変だったんだな」

「レイ様って不思議な人ね。あれだけ戦えるのに少しも偉ぶらない」

「シオはミレアが負けてびっくりしたの」

「驚いたよねぇ。戦闘のせの字も知らない者が召喚されるって聞いてたから」


 ジンが『へぇ…』と声を漏らした。


 アンスロト王家がそんな前情報を出したのは、ドベルクと共に召喚されたアンティなる女性がずぶの素人だったからだろう。

 そんな二人が十数年でメイズを攻略できたのなら、能力の覚醒時期次第で想定期間を短縮できる可能性がある。

 ジンが考える目下の懸念事項は、実戦で命のやり取りが出来るか否かだ。


「んじゃあとは勇者ジンに任せた」

「勇者を付けるな愚者」

「愚者上等ぉ! 頭良くねぇのは自覚してる!」

「私思ったんだけど、タロットカードの愚者ならそんなに悪くないんじゃないかな? レイのキャラと合ってるし」

「そうなん? つーか、ユアって占いとか好きだったっけ?」

「私じゃなくて穂乃香が占い大好きなの」

「あー、『占ってあげる!』とか言われたことあるわ」

「タロットの愚者は〝無限の可能性と好奇心に満ちあふれ、新たな一歩を踏み出そうとしている者〟だったか」

「うわ、ジンお前なんなのキモイんだけど」

「うるさい」

「ジン君がタロットの意味知ってるなんて意外だよ?」

「何となくネットで見た内容を記憶してただけさ」


 レイは茶化しながらも、ジンが占いに頼るほどの悩み事を抱えてるのかと内心で心配する。普段のネットサーフでタロットの意味には辿り着かない、と。


「何の話か判らないけど、根本的にはメイズ攻略を第一に考える、という理解でいいのかしら?」

「今はそれで構わない。出来れば早急に武装を手に入れたいし、メイズやシーカー関連の知識も欲しい。次点は過去に召喚された者に関する情報だな」

「メイズとシーカーなら私たちで教えられるけど、過去の召喚は難しいわね」

「ねえミレア、王宮の大書庫に何かあるんじゃない? 古い国なんだし」

「冴えてるわねシィ。書庫はお伺いを立てるとして、先ずはウチへ行きましょう」

「ウチ? ミレアの家に行くって意味?」

「そうよレイ様、私の生家はケンプ商会なの」


 ケンプ商会は主要都市に支店を持つ大商会で、アンセストを含めた近隣三国から政商認可を受けている。元々は鉱物売買で財を成した商会だけあって、貴金属や金属製品においては大陸有数の豪商と評判だ。おまけに貴族家相手に金貸しもやっているため、ケンプ商会にケンカを売る者はいないに等しい。


「なんで金持ちのお嬢様がシーカーやってんだ?」

「双剣士が出て魔力も使えて、男に守られるだけの生き方に疑問を感じたからよ」

「家族は反対しなかったん?」

「お母様には大反対されたわ。でもメイズでしか手に入らない鉱物もあるから、お父様とお兄様が賛成してくれたの。実際にクランとして鉱石を卸してるわ」


 そんな話を他所に、ユアは王都の街並みを見て目をキラキラさせていた。

 初めて電車に乗った子供の如く車窓に齧りついている。

 王宮の正門を抜けるのに三〇分ほどを要し、貴族街区を抜けるのには小一時間ほど。そして内郭門を抜けると街並みが一変した。


「凄い凄い! キレイ! フィレンツェみたい!」


 フィレンツェって美味しいの状態なレイとジンを尻目に、ユアのボルテージは鰻登りである。内郭門の先には円形広場があり、大聖堂をはじめとした巨大で壮麗な建築物が目を惹きつける。

 速度を落とした馬車が大通りを一五分ほど走り、角地にある六角形の建物前で停車した。


 ミレアに先導されて建物に入ると、ユアが『キャーッ♪』と奇声を上げた。

 王宮にあったような高級調度品の売り場だ。


「ケンプ商会へようこそ♪ 何かお探しのお品はございますか?」

「素敵な笑顔ね。会長と副会長にフェルミレアが来たと伝えてくれるかしら? 三階のサロンで待たせてもらうわ」

「っ!? フェ、フェルミレアお嬢様とは知らず失礼しました! 直ぐにお伝えして参ります!」

「おぉ~~~」

「本物のお嬢様だぁ」

「有名デパート経営者の令嬢といった感じか」


 二階は化粧品とアクセサリーの売り場で、ミレアを見た店員が胸に手を当て軽く目を伏せる。ミレアも気さくに声をかけたり手を振って階段を上っていく。

 三階には武器や防具が種類ごとにズラズラズラーっと展示されており、三部屋あるサロンの前には、店員とは別にメイド服の女性が控えていた。


「これはフェルミレアお嬢様、お戻りなさいませ」

「久しぶりねアンナ。元気そうで嬉しいわ」

「ありがとうございます。こちらのサロンをご使用ですか?」

「ええ、お茶は自分たちで淹れるからいいわ。軽食の用意だけお願い」

「畏まりました」


 暫く待っていると恰幅のよい男性が、ミレアと同じ髪色の青年を伴い入室して来た。どうやらここでの装備調達は決まっていたらしく、二人は『勇者様方』の言葉を使い丁寧な挨拶を述べた。


「お父様また太ったんじゃない? 早死にしちゃうわよ?」

「勇者様方の前で言うことではないだろうに…」

「ミレアの口調からして、勇者様方には本音で話す方が良いということかな?」

「お兄様は話が早くて助かるわ。私ね、模擬戦でレイ様にあしらわれたの」


 装備に関してノーアイデアなレイのハードルが勝手に上げられた。




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