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63:コンドームと武装


 レイヌスが残した木箱には極鋼を加工したレイの武装と白銀の小球、なぜかセシルの生活用品だろう品々が山ほど入っていた。


「あ……セシルを連れて帰るの俺ってこと?」


 食堂へ戻ったレイがセシルを問い質すと、彼女はガバチョとレイに抱きつき裏事情を話し始めた。

 セシルは皇帝にレイが実弟であることを伝え、帝都からアンセストまでの往復四ヵ月と、滞在期間一ヵ月のトータル五ヵ月を公休として認めさせた。


 皇帝は近衛騎士団一個大隊を護衛に付けようとしたが、セシルはこれを固辞。

 目付役だが実はセシルに忠誠を誓うセルベラ大佐と、ラボ専用エレベーター前にいた重魔装兵四名で十分だと説き伏せ帝都を発ったらしい。


 四名の重魔装兵は帝国屈指の猛者であるため、皇帝も渋々ながら承諾。

 だがしかし、その四名も皇帝や帝国ではなくセシルに忠誠を誓っている。

 帝都郊外でレイヌスと合流したセシルたちは、エルメニアの辺境都市へ転移。

 セルベラ大佐をはじめとした五名は、そこで五ヵ月間の休暇という話である。


「五ヵ月以内に転移魔法をマスターしてね♪」

「お前なぁ」

「レイが転移魔法? どういうことです?」


 セシルを放り投げたレイが再びジャージを脱ぎ、左腕のバングルを見せながらレイヌスとの一連を語り聞かせる。

 ついでに預かったスクロール二枚をユアに渡し、今後はコレで結界装置を造れと言われた旨も伝えた。


「凄いじゃないかレイ、ドルンガルト戦もメイズ攻略もハードルがぐっと低くなった。出来れば一ヵ月以内にマスターしてくれ」

「俺のハードルは超上がってんだが…」

「レイなら出来るよ! 頑張ってね?」

「勇者の彼女が何か言ってんだけど誰か助けてくんね?」

「恥ずかしいからそんなこと言っちゃダメー!」


 顔を赤くするユアの隣で照れるジン。全員がジトっとした目を向けた。


「あっ! ユアユアとジンセンくんにプレゼントがあるの忘れてた!」


 セシルが工場へ駆けて行き、ピンク色の小箱を何十個も抱え戻って来た。

 レイも木箱を開けて気になっていた代物だ。


「はい、どーぞ♪」

「ありがとうセシル姉。っていうか、これ何? Usuいんです…?」

「要るでしょ? コンドーム♥」

「「っ!?」」


 ユアとジンがビシッとフリーズした。レイは「確かに要る」と思い、セシルに向けサムアップする。セシルがキリっとした顔でサムズアップを返す。


「ねえレイ、こんどーむって何かしら?」

「俺らの世界の避妊用品。男がナニに填めて使う」

「えっ、どれくらい効果があるの?」

「破れなきゃ一〇〇パーじゃね? つーかミレアも欲しいカンジ?」

「誰がという話じゃなく、女性シーカーの妊娠は結構大きな問題なのよ」


 この世界は性交渉に対して大らかと言うか、動物としての本能に忠実である。

 生死を懸けて日々メイズに潜るシーカーともなれば、その傾向はより強くなる。

 クラン瑠璃の翼でもメンバー同士が相思相愛になったり、その日の気分やムードでワンナイトスタンドをすることが間々ある。


 しかし、妊娠してしまうと動きが悪くなってしまうため、妊娠を知らぬままメイズに潜り魔物に殺される女性シーカーが後を絶たない。

 運良く妊娠に気づいたとしても、ミレアたちのような中堅以上のパーティーが活動を休止すると、探索や攻略の効率が低下する。

 無事に産んだ後もどうやって育てるかという問題もあるし、長期間のブランクを抱えて潜るなど死にに行くようなものだ。


「避妊術式とかねぇの?」

「流産させる術式なら闇系統にあるわ。でも…」

「懐妊直後じゃないと後遺症が出るんだよ。知り合いが何人も引退してるし」


 中々に深刻な問題だと感じたレイが、セシルに目を向けた。


「ゴムの木があって、元素の【抽出】とガラスを【造形】できる錬金術師がいれば結構簡単に造れるお。って言っても、今のとこ0.1mmが限界だけどね。日本のコンドーム製造技術は凄いって思ったよ。薄さを実現する薬品の配合が」

「普通にゴムなのか」

「天然ゴムラテックスだお。やっぱレイきゅんチェリーなんだね♥」

「うるせぇよ」

「大丈夫ですセシル様、今夜にでもレイ様の初めてを私がっ…」


 渾身の神速デコピンをくらったノワルが轟沈しピクピクしている。


「造れるのなら売って欲しいわ。それなりに儲かると思うわよ?」

「どうするよジン。……………ってオマエいい加減にリブートしろや!」

「痛っ!? あ、うん、いや、スマン。えーと…何の話だ?」


 盛大に溜息をつくレイに代わり、ミレアが斯々然々と説明する。

 セシルが技術供与してくれるならいいんじゃないかとの話になり、メイに十分な報酬を支払うという条件でコンドーム生産が可決された。

 ミレアたちも天然ゴムなどの素材収集を手伝い、ケンプ商会を商社的に使って販売することとなった。


 セシルは利益を全部あげると言うが、ジンは二〇億超の運転資金があるため不要だと返答した。

 既に多重結界装置と魔力充填装置、魔導砲のプレオーダーも獲得しており、遅くとも一年後の資金は二〇〇億を軽く超えると予想している。


「私も含めてだけどさぁ、この金銭感覚で日本に帰るとヤバいよねぇ~」

「言えてますね。セシルさんの年収ってどれくらいです?」

「分かんない。預金が一〇〇〇億を超えたとこで確認するのやめちゃったよ」

「「「「「っ!?」」」」」


 ミレアたちとメイが口をパクパクさせ驚愕する。


「お前そんなに稼いでんのかよ」

「セシル姉すごーい」

「一年も経たずに自力で二〇億稼いだレイきゅんたちの方が凄いと思うお」

「因みに一〇〇〇億を超えたのっていつ頃でした?」

「ん~、二〇年くらい前だたかな?」

「ですよね」

「「「「「「「………」」」」」」」


 予想していたジン以外がポカーンと口を開けた。

 今頃は小国の一つや二つサクッと買える額が貯まっているに違いない。


「経済的な話はここまでにして、レイの武装を確認しておこう」

「それなんだけどよ、セシルまた勝手に仕様変えただろ」

「改善だから! お姉ちゃんはレイきゅんの命が懸かってる物で笑いを取ったりしない! っていうか、カッコ良かったでしょ?」

「まぁ悪くはなかった。微妙にキャラじゃねぇ感はあるけど」


 工場から木箱ごと運んで来たレイが、テーブルに武装を並べていく。


 帝都で相談した仕様と大きく違うのは、メイズナイフがガントレット風の手甲になっていること。

 レイは掴んで投げたり極めたりするため、指が金属で覆われた武装は使えないと眉間に皺を寄せている。


「とりまコレ。ダメじゃん」

「ダイジョブだから着けて魔力を流してみ?」


 セシルに言われるまま装着して覆魔で手甲を覆う。


「じゃあ始めよっか。手を開いたまま親指の付け根にある突起を打ち合わせて」


ガン! カシュシュン!


「おおっ!?」


 指を覆っていた装甲がスライド格納され、第三関節の位置でナックルダスターを形作った。


「もっかい同じことして」


ガン! ガシュン!


 格納されていた装甲が一気に展開され指が覆われた。


「すっげ」

「まだまだぁ! 手首の内側にある突起を強く押し込んで」


ジャキ! ガチンッ!


 上腕部分に格納されていた幅広な両刃ナイフが突き出てロックされた。

 手の甲に沿って真っ直ぐ出ているため、二〇センチ近くリーチが伸びる。


「おいこらセシル、やるじゃん」

「ウフ♥ でそ? 突起の押し込みで突出と格納が出来るし、内部部品も極鋼製だから戦闘中に叩きつける感じでも壊れないお」

「ワンアクションで両方とも出せるってのがイイ」

「そゆこと。気に入った?」

「何気にサイコー」

「ヨシ! レイきゅんフル装備してみてはよはよ」


 膝下まであるロングブーツも常軌を逸した部品点数を組んだ極鋼製で、ガントレットの上腕にある赤い突起を叩けば靴裏からスパイクが突出し、黄色い突起を叩けば爪先から両刃ナイフが突出する。覆魔と殻化に合わせた特殊仕様らしい。


 服の上下は白基調に赤い縁取りで詰襟の騎士装デザイン。極鋼製の部位装甲が仕込まれているが、伸縮性は高く体温調節の機能まである魔装仕様だ。ボトムスの膝にも極鋼装甲が仕込まれている。

 雨風を凌ぐ外套風のフード付きマントもあり、羽織ると小綺麗な騎士に見える。


 レイが「キャラじゃない」と言う所以は騎士装っぽい点で、セシル特有の中二臭が漂っている。しかし白基調に赤のラインや、スカルをモチーフにした白銀の留め具が多用してあるのは、ちょっと派手だがカッコイイと思っている。

 レイは白基調に赤ラインのトランクスで試合に出ていたので馴染み深くもある。


「悪い白騎士様っぽくてカッコイイ♥」


 皆が言うまいと我慢していた言葉をシャシィが口にした。

 薄々気づいていたレイが棒立ちになり目を瞑った。


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