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05:裏の目的


 湯煙が立ち込める王宮の浴場に二つの人影。レイとジンである。

 蛇口どころか洗い場もなく洗面器すらなかったので、桶を用意してもらった。

 こっちの人は湯に浸かるだけらしく、体を洗う時は粉石鹸を浴槽にぶち込むそうだ。だからか、浴槽が三つ並んでいる。しかも異様に深い。


「シャンプー欲しくね?」

「ボディブラシも欲しい。背中の真ん中が洗えない。レイの髑髏な神紋グロいな」

「もっと柔軟しろよ。ジンの翼みたいな神紋カッケーな」

「レイが異常に柔らかいだけだ。羨ましいなら交換するぞ?」


 器用な会話をするレイとジンは、風呂を共にする日が少なくない。

 レイの家は格闘技ジムを営みジンの家は剣術道場を営むため、学校終わりで互いの家へ行きトレーニングないしは稽古をするからだ。

 そして近所にある昔ながらの銭湯へ行くとこまでがルーティーンになっている。


「朝メシ食ったら街に行ってみようぜ」

「言うと思ってフィオに頼んであるが、先に国王と面会して欲しいそうだ」

「あー、ラノベでよくある謁見ってやつか」

「いや、非公式かつ内々だとさ。俺たちの召喚は秘匿されてるらしい」


 召喚されたレイたちはいい迷惑だが、召喚したフィオたちも一大決心であった。

 どんな輩が召喚されるか判らないため、悪党の類であったら拘束監禁するつもりだったとか。

 しかし昨日の会談後にフィオとレパントが協力的と判断しその旨を報告したため、国王との面会が決まったという。


「つーかさ、この服ってどうなん? 微妙にサイズ合ってねぇし」

「似合ってるじゃないか」

「キャラじゃねぇわ」

「そこはお互い様だろ」

「ジンはスーツ的なもん着慣れてんじゃん」

「これはスーツの類じゃないけどな。ま、お互いその内に見慣れるさ」


 フィオが見立てたという略装を着て浴場を出ると、そこにはメイド服に着替えたミレアが控えていた。

 彼女の隣には、ジンに付いているメイド兼護衛のシャシィもいる。

 ミレアは深い緑色の髪だが人間で、シャシィは明るい栗毛のハーフリング。

 ユアに付いているシオは、濃紺っぽい黒髪の猫人だったりする。


「ミレア大丈夫か? 特に左の腿と膝」

「治癒しましたので問題ありません。素晴らしい体験でした」

「そりゃ良かったけど、ミレアは本気じゃなかっただろ」

「いいえ、本気でした。全力ではありませんが」

「そうっすか」


 フロントチョークを極めた瞬間、彼女の筋力が爆発的に上がった。

 瞬間的なものだったため継続したが、フィオが言っていた魔力による身体強化だったのではないかとレイは予想している。

 あの感覚からして、全力のミレアがレイに筋力で勝るのは間違いない。


 知りたがりのジンが質問すると、ミレアは魔力の何たるかを解説し始めた。


 この数百年で魔力器官と呼ばれるようになった魔力機関は、肉体質量重心の逆位相空間に在るとの説が有力視されている。

 どうやら肉体質量重心とは臍下丹田のことらしく、そこには魔力機関と肉体を繋ぐゲートが存在するそうだ。


「王女殿下からは未覚醒だと言われたんだが、レイが覚醒してる可能性は?」

「レイ様も未覚醒だと思います。ただ、魔力感受性が特異的に高いのか、無意識的に魔力を流動させている可能性はあります」

「こっちでもレイは変態か」

「お、ケンカだな? てめぇどこ中だ? あん?」


 覗き込むようにメンチを切るレイの顔を鬱陶しそうに押しのけたジンが『おな中だろ』と返しつつ、ミレアに話の続きを促した。


 魔力感受性は種族差が大きく、精霊を種の起源とするエルフやドワーフといった妖精種は、何を教えられなくとも自ずと覚醒する者が大半を占める。

 五感が鋭い獣人種にも自然覚醒する者が多く、いわゆる人間に分類される者は外力によって覚醒を促すのが常套である。


「人間の場合は五歳頃に能視の儀と覚醒の儀を受けるのが慣例です。稀に自力で覚醒する天才もいますが」

「あのさ、腹減ったから取り敢えず移動しね?」

「移動してもユアが出て来るまで待つんだぞ?」

「いやいやいやいや、アイツ二時間くらい出て来ねぇじゃん」

「良く知ってるな?」

「お前も知ってんだろ!」

「あの浴槽なんだから直ぐ出て来るさ」

「あぁ、ユアだと肩の高さくらい深いもんな」


 能視の儀とは、魔導器なる器具を使って魔術適性と固有能力を鑑定する。

 儀式はエルメニア聖皇国を本拠地とするエルメニア聖教会の領分であり、重要な資金源にもなっている。


「魔導器とレリック(神遺物)の違いは?」

「アーティファクト《古代遺物》を含む魔導具と魔導器は人工物で、レリック(神遺物)は神代に降臨した神々の創造物と云われています。鑑定の魔導器は、鑑定のレリック(神遺物)を手本に聖教会が開発したそうです」


 資金源というだけあって結構な金額を寄進の名目で取られるらしく、貧民階級は自分の能力を知らないまま人生を終える者が殆どだという。

 逆に、大半の国家は貴族家に鑑定を義務づけており、複数系統の魔術適性やレアな能力は家門の栄枯盛衰に大きく影響するそうだ。


「覚醒の儀は高位聖職者による魔力導入です」

「高位聖職者は漏れなく魔術師ってことか」

「ジン様の仰るとおりです。魔術適性がない者は司祭になれませんし、光系統への高い適性がなければ司教へ職位を上げることも叶いません」

「つーことは、俺らも教会で儀式を受けんのか」

「それはないな。おそらくレパント老がやる」


 ジンが確信的に言うと、ミレアが一つ頷いた。

 彼女の隣にいるシオが「脳筋なの?」みたいな目をレイに向けている。


「あ…みんな私待ちだったり?」

「次回から風呂は十五分以内な」

「ムリー。髪と肌は女の子の命だし。シャンプーとコンディショナーとボディソープが欲しいの。レイ作って?」

「乙女か!」

「乙女だよ!」

「バカやってないで行くぞ」

「へーい」「ハーイ」


 盛りつけは美しいが美味いんだか美味くないだか判らない朝食を終えたレイたちは、王宮内廷の最上階にある国王専用サロンへ案内された。

 サロンとは応接室なのだが、国王専用サロンは学者や芸術家、職人、魔術師などの有識者を招致し、市井の最新情報を得る場にもなっている。

 凝った意匠の彫刻を施した扉が開けられると、国王だろう老年男性とフィオ、レパント、そして国王に似た青年と老爺がレイたちに目を向けた。


「ご紹介します。ジン様、レイ様、ユア様です」

「よくぞ参った。礼法などは気にせず腰を下ろすがよい」


 もっと堅苦しい場を予想していたレイたちが安堵しながら長椅子に腰を下ろすと、フィオが王家面々の紹介を始めた。


「ヴィルフリート十八世父王陛下、王太子クリストハルト兄上、宰相マンフレート大伯父上です」


 名を覚えられる気が全くしないレイが頬をヒクつかせる中、勇者ジンを中心とした会談は和やかに進んでいく。


 元来は剣士の家系だとジンが自己紹介すれば、五つの魔法に適性を持つ類稀な存在だとレパントが捕捉するといった具合だ。

 ユアが聖者で錬金と付与と弓聖まであるといった話も出るが、誰一人としてレイの愚者に触れようとはしない。


 すると、王太子がレイに目を向け口を開いた。


「レイ殿は瞬く間にミレアを打ち倒したと耳にしたが、ジン殿と同じく武門の出かな?」

「親父が格闘家ってだけ。ミレアが魔力を使ってたら負けただろうし」

「謙虚なのだな」

「ただの事実だよ」

「レイは私よりも強いですよ。十戦して一勝できるかどうか。愚者ですが」

「オーイ勇者」

「只の事実だろ?」

「まぁタダの事実だな」

「はっはっはっ、貴殿らは気の置けない仲ということか」

「そうですね。レイとユアは気が気がじゃない程じれったい仲ですが」

「ジン君!?」


 あわあわするユアの横で、レイが静かに瞑目した。

 聞こえなかったことにするらしい。


「ジン様は…その、どのような女性を好まれるのですか…?」


 レイとユアがキラリと目を光らせジンをガン見する。

 二人の口は大きく弧を描いており、顔には「吐け!」と書いてある。


 一方で、ジンは国王たちの反応を訝しんでいた。

 巫女の神紋を持つ王女がとんでも質問をしたにも拘らず、彼らの表情には微塵の驚きもない。むしろジンの答えを待っている観さえある。


(なるほどな、レイが勇者じゃなくて良かったと考えるべきか)


 一度俯いて僅かに嗤ったジンが、顔を上げ口を開く。


「なるべく頭が悪くて貧相な子が好みですね。思考せず言いなりで、体を売って稼いで来いと言えば黙って従うような」

「おいおい」

「ジン君…」

「「「「「…………」」」」」


 王家の面々は瞬間的に顔を顰めたものの、なぜか沈黙を守っている。

 困惑したレイとユアが目を向けると、ジンは肩を窄め自嘲気味に笑った。


(ほぼ確定だな。召喚した勇者に王女を当てがい子供を産ませる。おそらくそれが勇者召喚の裏目的。人の欲は異なる世界でも似たり寄ったりか…面倒な)


 被召喚者の異能に遺伝性があるのか否か。それをどうやって調べるか。

 逡巡の色を目に浮かべる国王たちとの会談は、暫くの後に終わった。

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