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57:神匠セシル


 オルタニア皇家の紋章色と同じ黒と赤の外壁が特徴的な高層ビルは、当初、手狭になった皇宮外廷を拡張するだけの計画だった。


 しかし、神匠は外廷が皇宮内である必要性は低いし、どうせならオルタニアのランドマークになる複合ビルを建設する計画に変更したという。

 因みに、以前は離宮と迎賓館があった場所で、区画としては皇宮の隣だ。


 ビル一階には特設会場を設営できる広大なホールがあり、ホールを取り囲むように各官公の出張所が並び、天井から吊られた大型魔導モニターにはフロアインフォメーションなどの各種情報が映し出されている。


 二階から一五階は商業施設エリアになっており、飲食店はもちろんのこと各種専門商会がテナント出店し、一〇階から一五階はホテルになっているそうだ。

 一六階には五大ギルドの総本部が置かれており、一七階から二五階にオルタニアの外廷機能が移された。西側諸国の国際会議が行われる会議場なども完備されているらしい。


 二六階から二八階は迎賓フロアになっており、二九階には皇族と賓客だけが利用できる展望レストランとラウンジ、ダンスホールや晩餐会場が揃っている。

 そして最上階となる三〇階は皇室専用フロアで、皇帝と同様に年若い皇后が入り浸っているという話である。


 極鋼を片手に相変わらず足取りの重いレイの背を押すシャシィは、煌びやかなエントランスホールに目をキラキラ輝かせている。


「ねえねえレイ! 人が箱の中に入ってくよ!?」

「エレベーターだな」

「人が乗れる昇降機なの!? すごい!」

「シィさん、奥には動く階段もあります。私はあれに乗ってみたいです」

「ホントだ! すごーい!」


 一般人用エントランスの左右に並ぶエレベーターは一六階専用が二基、二階から一九階の各階用が四基ある。正面奥には二階へのエスカレーターがあり、小綺麗な恰好の帝都民だろう人々が魔導モニターを眺めながら昇っていく。


「観光は後回しだ。行こうか」


 ビルの外周をぐるっと半周した皇宮側には、やんごとない身分専用の豪奢なエントランスがある。

 左右には皇宮で出迎えた重装兵ではなく、騎士装を纏いサーベルを腰に佩く衛兵八名がビシッと立っている。


 案内役を用意しておくと言われているジンがエントランスに歩み寄ると、中から軍服姿の女性将校が姿を現した。


「お待ちしておりました勇者様方。小官はオルタニア軍魔導技官、モニカ・セルベラ大佐であります。ご案内いたしますのでお入りください」


 敬礼する彼女に向け頷いたジンを先頭にエントランスを抜けると、正面には二〇階から二九階用のエレベーターが八基、ペントハウス専用が一基ある。

 それらをスルーして奥へ歩を進めるセルベラ大佐に追従すると裏手にもエレベーターがあり、左右には重魔装の衛兵四名がハルバードを手に立っていた。


「俺がイメージしてたパワードスーツだぜ」

「せめてこれを送ってこいって感じだな」


 セルベラ大佐がエレベーター横のパネルに掌を近づけると、パネルが緑色に光りドアが左右に開く。

 優に二〇人は乗れるだろうエレベーターに乗り込むと、セルベラ大佐は胸元から紫水晶のような六角柱形状のペンダントを引き出し、六角形の穴に挿入。

 すると、地下五階まである各階の表示パネルが点灯し、大佐は地下一階の表示部に触れた。


(やっぱこの波動…似てる…ハァ…)

「どうしたんだよレイ、さっきから変だぞ?」

「いやまぁなんつーか、違うといいなぁって…」


 レイが答えたところでドアが開き、異様にサイバーな光景が目に飛び込む。

 真っ白な直線廊下の左右にはガラス張りのラボがあり、白衣姿の研究者たちがスタイリッシュな魔導装置を操作している。


「神匠様は最奥の研究室で皆様をお待ちです。どうぞお進みください」


 二〇〇メートル走が出来そうな廊下の突き当りまで進み、大佐がインターフォンでレイたちの来訪を告げた。

 研究室のドアが横スライドで開くと、そこには笑顔満面の美女が…


「よしキタッ! やっと会えたねレイきゅん♥」


ドゴゴゴガッッ!!!


 敢えて投げた極鋼が廊下を破壊し、膝から崩れ落ちたレイが四つん這いになる。


「セ、セ、セ、瀬詩流セシルさん!?」

「ジンセンくん久しぶり~♪ あれ? ユアユアは?」


 ジンの目が点になり、ミレアたちの頭上に大量のクエスチョンマークが浮かぶ。

 セルベラ大佐も困惑するが、神匠は足取り軽く四つん這いになっているレイへと歩み寄り、『元気そうで良かった♥』と呟きレイの頭を抱きしめた。


 神匠の正体はセシル・デ・ヴィルト。何を隠そうレイの実姉であった。


「最悪すぎる…セシルお前…お前なんでいるんだよっ!?」

「そんなのレイきゅんたちを追いかけたからだよ? お姉ちゃんだけ四〇年くらい前に出ちゃったけど。アレは大誤算だったよぉ~、でも会えたねん♪」


 レイたちが召喚された日、三人は地元を一望できる御神岩の前にいた。

 街を一望できるということは街中からも見える訳で、モデルのバイトを終え帰宅している途中だったセシルは遠目に三人を見つけた。


 母親から「レイが網膜剥離に…」とのメッセージを受けていたセシルは、焼肉でも奢って元気づけようと神社へ向かった。そして境内の裏手へ行った時、光の柱が天から落ちてきた。


「もしかして跳び込んだのか? お前アホなの? いやアホだけど」

「アホ言うなし。跳び込んだっていうか、引っ張られた感じ?」

「親父と母さんどうすんだよ…」

「んー、たぶん大丈夫だと思うよ? マミーには〝レイきゅんたちが御神岩のトコにいる〟ってメッセしたから」

「それの何が大丈夫なんだよ!」

「あの光の柱を目撃した人たくさんいるんだよ。レイきゅんたちが空に浮かんでいくのを見た人も多いはず。アレは絶対ニュースになってるね。たぶん動画も拡散してると思う。私も撮ったし?」

「オマエどんだけ余裕だよ…」


 ポケットから出したスマホには、ユアの腕を掴んだまま天へ昇るレイとジンの動画が映し出されている。直後には映像がブレて地上が離れてゆき、そこには空へスマホを向けている人々が映り込んでいる。


「神匠がレイのお姉さんだった…ってこと?」

「そうなのでしょうね。目元が似ているし」

「召喚のレリックは意外と融通が利くようです」

「ぐ、愚者様が神匠様のご実弟…であられるのですか…?」

「そゆことー。いつだったか言ったことあるよね? 家族が神紋持ちかもって」

「伺いましたが…」

「っていうかさ、レイきゅん愚者ってウケるんだけどw」

「うるせぇわ!」

「あとさ、廊下の修理代払ってね? 半分わざとやったでしょ」

「くっ……出世払いで」


 状況を把握し落ち着いたセルベラ大佐が、「念のために実弟の証明は可能か」とレイに尋ねた。至極面倒くさそうなレイは仕方なしに語り始める。


 当時二一歳で工学部建築学科の学生だったセシルは、内々定だが大手ゼネコンへの就職も決まっていた。が、問題なのはステージ4の中二病患者という事実。

 家では臙脂色に白線が入ったジャージと黒縁の丸メガネを着用し、「私の聖装だけど何か?」と言って家族を沈黙させる。

 因みに、メガネは度なしの伊達で髪は三つ編みのお下げだ。


 しかし外面モンスターな彼女は超メジャーなモード系ファッション誌のモデルもやっており、「フッ、これは世を忍ぶ仮の姿さ」と言いつつ稼いだギャラをラノベやアニメ関連商品に費やす。

 モデルとしての名はCherryチェリーなのだが、大学生故の身バレ防止策かと思ったら、変身系魔法少女のキャラ名(変身後)だった。

 自分が載っている雑誌を見ながら、「Cherryちゃんカワユス!」などと騒ぐ迷惑な姉だ。


「理解できない言葉が多いのですが…」

「だよな。家の中と外の画像を見せる」


 ポケットからスマホを取り出し、数少ないセシルの画像を探す。


「これが家に居る時」

「えっ!?」


 ジャージ姿でテヘペロのポージングをしている画像なのだが、無理矢理に腕を組まれている母親は死んだ魚の目をしてる。

 大佐がスマホと本人を交互に見ながら、余りの落差に驚愕する。


「私の聖装姿だけど何か文句でも?」

「と、とんでもございません。失礼いたしました…」

「で、こっちが外面」

「あぁ、確かにセシル様です。お美しい…」


 成人式の晴れ着姿なのだが、そこはかとなくコスプレ臭が漂っている。

 確かに外面モンスターである。


「つーかさ、セシルのルックス変わってなくね? 四〇年もいるんだろ?」

「ふっふっふっ、超アンチエイジング魔法薬なのだ! 違法成分たっぷりん♪」

「「「「「「………」」」」」」

「ドン引きしないでジュークだから。ホントは神紋効果なの。不老不死ね」

「はあ!? マジで言ってんのか!?」

「マジっす。召喚神紋限定の効果だと思われるん」


 ちょいちょいウザいセシルも過去の被召喚者を調べたらしく、驚くべきことに賢者と邂逅したそうだ。賢者は共に召喚されたドベルクとアンティについて語り、『私は今尚後悔と未練を抱えている』と自嘲したという。


「ドベルクとアンティは十分生きたからって自死したの。勇者の激光魔法で」

「あー、ジンが皆殺しにしたやつか。アレは死ねるな」

「人殺しみたいに言うなよ」


 セルベラ大佐が納得したところで一同は防諜対策済みの執務室へ場を移し、これまでの話と今後のアレコレを相談することにした。


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