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55:皇帝マウント


 見込み通り五日目の午前中に帝都オルザンドを視界に収めた一行は、聖都ハシュアとはまた違った衝撃的な光景を前に唖然とする。


「部分的に時代間違えてね? つーか世界を間違えてんだろ」

「雰囲気はアレキサンドリアという感じだが、流石にアレは予想外だ」

「あんなに高い建物がよく倒れないわね」

「あの大きくて屋根が丸い建物ってなに?」

「屋根を丸くすると柱や梁が不要になると聞いたことがあります」


 都市の中心部に皇宮があるのは構わないが、その横にはモダンな高層ビルがドーンと聳えている。


 そして海岸線へ目を向ければ、全天候型多目的施設に違いないドームがある。

 レイとジンは「おもっきり東京ドーム…」と、半目で眺めている。

 何しろ、ドームには〝オルザンド・ドーム〟という文字型看板が掲げてある。


「魔装を見た時に思っちゃいたけどよ」

「いるな、地球人が。それも現代日本人の線が濃厚だ」


 レイたちは通行の邪魔にならないよう街道脇から眺めているのだが、行き交う馬車は全てがゴーレム馬車である。

 農民までもがゴーレム馬で荷車を牽いていることから、かなり安価でゴーレムを販売しているのだろう。


 しかも、アンセスト辺りのゴーレム馬が軍馬並みのサイズ感なのに対して、見かけるゴーレム馬はコンパクトだ。ジンは常々「俺ならもっとコンパクトに造る」と思っていたため、設計思想が理想的とさえ思える。

 世界が異なり国土や道路がいくら広くとも、〝小型高性能高出力〟の潜在ニーズが大きいのは間違いないのだ。


 これが技神の神性紋章を持つ神匠の仕業なら、嫌が応にも日本人の可能性を疑ってしまう。返品する戦隊モノ魔装に鑑みれば断定してもいいくらいだ。


 本来なら同郷人の存在を喜ぶところだが、ジンとレイは「面倒くさくなりそうだ」と、ここでも思考がシンクロした。なぜなら、尤もらしい口八丁が通用しない可能性が高い。


 そうこうしていると、帝都から五頭のゴーレム馬が駆けて来た。

 先頭には帯剣した騎士、背後で二列縦隊を組む四人は紋章旗をはためかせているが、ここでもレイとジンは半目になる。


「あの騎士が着けてんの魔装臭くね?」

「真っ当なデザインと仕様だな。軽装の上から部位装甲的に装着して運動を補助する。汎用性と生産性を考えれば俺もああいう風に造る」


 なんちゃら戦隊的なカラフル魔装は何だったんだと思っていると、騎士たちは街道を逸れ真っ直ぐレイたちの方へ向かって来る。

 少し離れた場所でゴーレムから降りると、二メートルほどの位置で片膝をつき口を開いた。


「オルタニア近衛騎士団にて騎士長を務めるアベル・メルカドと申します。不躾ながら、神紋勇者様ご一行であられましょうか」

「勇者ジンセン・カブラギです」

「ご尊顔を拝しますは恐悦至極、皇帝陛下より丁重に案内せよとの命を享け参上仕りました。皇宮へご同道くださいますよう、何卒お願い申し上げます」

「承知しました。よろしくお願いします」

「勿体なきお言葉、先導いたします故ご乗車ください」

「少々時間を頂きたいのですが、構いませんか?」

「無論にございます」


 御者台に座ったミレアの目配せでシャシィとノワルも御者台に上る。

 ジンが歩きながら『極鋼はここに置いて行こう』とレイに囁き、頷いたレイがコンテナから極鋼を取りす。


「ゆっくり静かにな」

「なんか分からんけど了解」


 ソロリと置いても沼地に石を放り込んだが如く、極鋼はズブズブと地面に埋まっていく。


 ジンとレイがキャビンに入ると、騎士長が進発した。


 帝都内の道路は左側通行になっているようだが、紋章旗を目にした街の人々が道を空け控えていく。高層ビルとドームはあっても民主主義はないんだな、とレイは思うのだった。


 丘の上からは皇宮の隣に建っているように見えた高層ビルも、近づくとそれなりに離れている。ジンは宮殿の類がいいとこ三階建て程度で、前後左右に長い構造の理由が採光目的だと知っているため、近すぎると日陰を作るからだろうと納得した。宮殿の中は意外と暗いのだ。


 皇宮に着くと、エントランス前にはハルバードと紋章旗を持つ重装兵が左右交互に並んで道を作っていた。


「従者殿も勇者様方に続いて入宮を」


 騎士長の声を聞きながらジン、レイの順でキャビンから出ると――。


捧げ礼! ガツン! ザッ!――


 ハルバードが頭上で交差され、紋章旗が高く掲げられた。


(面倒くせぇノリしやがんなぁ…)

(ミレアたちが同行……謁見じゃない?)


 皇宮へ入ると貴族正装を纏った巨躯の壮年男性が待ち構えていた。

 彼は目礼した後に手振りで案内を始め、通されたのは控えの間。


「挨拶申し上げる。イグナシオ・バルバ・デ・アレンシア公爵、現在は宰相を務める身。武器をお預かりした後に内廷サロンへ案内いたす。従者も随行せよ」


 内廷は王や皇のプライベートエリアであるため、やはり謁見ではない。

 聖皇の配慮なのか、オルタニア皇帝が非公式にしたいのか。


 ジンは真意を量れないまま頷き従う。ミレアたちも同様の疑問を抱きつつ、皇帝との面会が確実になり緊張を隠せない。尚、レイは何も考えていない。


 長い廊下を歩いて階段を上り、角部屋になっているサロンの扉が開かれた。

 宰相が入来を告げながら身を躱し、彼の前を通ってジンとレイが入室。

 そこで宰相が追従し、その後ろをミレアたちが追従する。


 一人掛けの長椅子に座っている皇帝だろう男は想像よりも若く、どこかクリスに似た面影がある。薄っすらと蒼い金髪もクリスを想起させる要因だ。


「よくぞ参られた勇者殿。聖皇殿より堅苦しい儀礼は控えてくれと願われた故、無作法ながらこの場を選んだ。気兼ねなく楽にせよ」

「陛下のご高配に感謝を。勇者ジンセン・カブラギです」

「レイシロウ・デ・ヴィルトです」

「うむ、アドルフィト三世・ボナパルト・ソル・オルタニアである」


 聖皇の配慮を逆手に取り、非公式にしつつマウントを取りたい。

 ジンはそう読み「厄介だ」と内心溜息をついた。

 聖皇の親書に、神匠との面会要請が盛り込まれていたのは間違いない。

 しかし完全非公式にされては、国家として秘匿している神匠の顔さえ見れない可能性が高くなる。


 どうしたものかと考えながら、取り留めのない会話で時間だけが過ぎていく。

 皇帝の横に立ち控える宰相も、今や瞑目したまま微動だにしない。

 皇帝にしても、ジンやレイより後ろに立ち控えるミレアたちに話しかける回数の方が多い始末だ。おまけに楽しんでいる雰囲気が微塵も感じられない。


 ジンの眉間に細い筋が浮かんでいる理由を漸く悟ったレイが、ソファに預けていた背を持ち上げ、ズイっと前のめりになって口を開く。


「神匠に会いたいんだけど?」


 宰相がカッと目を開きレイを睨みつけた。

 瞬間、レイが口角を上げながら立ち上がる。


「強化したな? 戦るなら受けるぜ?」

「「っ!?」」


 皇帝と宰相が驚愕の色を目に浮かべた。

 見てとったレイはここぞとばかりに煽り始める。


「アンタ宰相ってガラじゃねぇよな。ぶっちゃけ宰相が何なのか知らねぇけど、アンタは初っ端から戦気ダダ漏れで笑いそうになったぜ」


 ジンは威圧的な雰囲気を感じ取りはしたが、戦気がダダ漏れとまでは判らなかった。この場はレイに任せるべきと判断したジンが、ソファに背を預け腕を組んで瞑目した。


 すると、ジンの意図を悟った皇帝が薄く笑みながら口を開いた。


「控えよイグナシオ、余は勇者殿との敵対は望んではおらぬ。愚者殿、貴殿も矛を収めてくれ」

「んー、神匠に会わせてくれるなら」

「はっはっはっはっ、否と言えばどうする?」


 言われたレイはニヤリと嗤って壁をビシリと指差し、その指をスーッと下げ床に向けた。


「高層ビルの地下に居るのはバレバレなんだが?」

「「「「「「っ!?」」」」」」


 この発言には全員が驚いた。

 ジンまで驚いたことに気を良くしたレイがドヤ顔を極め、再び口を開く。


「俺に限って言えば許可を取りに来たワケじゃねぇ。会わせねぇなら会いに行くだけだ。邪魔するヤツぁ空の果てまでぶっ飛ばす、つったらどうするよ?」


 そしてレイは圧縮と循環を繰り返し、内包魔力の強度を高め始めた。

 覆魔から殻化ではなく放射に移行したレイが更に強度を上げると、空気の質量が急激に増大していくかの如きプレッシャーが全員に圧し掛かる。


 皇帝とイグナシオが慮外の威圧を受け、戦慄に顔を歪めた。

 ジンたちは「そんなことも出来るのかよ」といった風情で半目を向ける。


「陛下、私…我々ではお守りできませぬ」

「戦士の神紋がこれ程の物とは……抜かったわ」


 皇帝がおもいっきり迂遠な表現で謝意を示し、ジンが耳打ちで『今のナシだとさ』と通訳をしたところでレイが威圧を止めた。

 こうして、皇帝との腹を割った会談が始まるのであった。


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