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52:遭逢の儀


 何だかんだで時間のかかった朝食を終えたシャシィとノワルはオリジナル術式を考え始め、レイは食休めでソファに踏ん反り返っている。


「鈍感勇者ジン、久しぶりにコーラが飲みたい。パシってこい。トクホのやつ」

「いつまでも調子に乗るな」

「えっ、立ち直り早すぎじゃね?」

「開き直った者勝ちって言葉を知らないのか?」


 切り替えが早いのはレイとジンに共通する特徴である。


「ねえレイ、どうかしら?」

「ん~、いいんじゃねぇの? 見えてんとこはほぼほぼ同じ厚さだ」

「そうよね! ありが……え? 見えてるところ?」

「レイお前、魔力を目視できるのか?」

「もうまんまオーラって感じで…そうだ、お前らにも見せてやるよ」


 言ったレイが脚を振ってスタっと立ち上がると、途端に部屋の空気感が重苦しく変化していった。

 魔力圧の急上昇に気づいたシャシィとノワルも、ダイニングの壁際から首を覗かせた。


 その時、レイの体表に蛍のような光が一つ、また一つと生まれ始めた。


「何なのよそれ…」

「うそ…魔力の光…なの?」

「ただの御伽噺だと思っていました…」


 三人が呟いている間も光は増え続け、青色の光がレイの全身を包み込んだ。


「もっと面白いのはここからだぜ」


 言ったレイが更に魔力圧を上げていくと青紫色の光が噴き上がる。

 次第に赤を帯びる魔力が青紫、紫、赤紫、紅、鮮紅へと変化していく。

 レイはオーラと言ったが、ジンは闘気を連想した。


「くあっ! ここ限界!」


 圧縮と循環を緩めたレイが、大きく息をついてソファに沈み込んだ。


「魔力が圧縮強度で発色するのは判ったが…他に何か変化はあるのか?」

「ホントのトコはわかんね。感覚的には強化の上限が桁違いで上がる気がする。ぶっちゃけヤバすぎて試せねぇんだわ。指先ひとつで殺れる的な?」

「またとんでもないな…」


 重質な魔力残渣が漂う中で、ミレアが思い出したように視線を移した。


「ねえノワル、さっきの御伽噺って子供の悪戯を戒める時に聞かせる話かしら?」

「そうです」

「今のが御伽噺と関係あるのか? どんな内容か教えてくれ」

「簡単に言うと、夜に魔力を光らせる悪鬼が現れ、悪い子を見つけ出して食べるというお話です」

「悪鬼と一緒にすんなコラ」

「レイお前、悪食も大概にしとけよ?」

「あん? あくじきって何だよ」


 たまに嚙み合わない二人である。知識的に。

 ミレアたちが残念そうな目をレイに向けた。


 この日も魔術師組はジンに物理法則のアドバイスを受けながら、オリジナル術式の製作に没頭した。

 顕著な変化は、燃焼の原理を理解した二人が炎を発現できたことだ。

 ジンはシャシィに絶対零度の概念を教え、ノワルには負圧による超高真空の概念を教えた。


 絶対零度と超高真空が攻性・防性の両方に使えるとの思惑だが、術式化できるか否かは二人の努力と発想力次第である。


 レイは殻化を実感したいと詰め寄るミレアに根負けし、再び海辺の砂浜へ行き模擬戦をする羽目に。

 軽装ですらない服装の男女が、接触する度に硬質な打撃音を響かせる様子が人々の耳目を集めることとなった。

 脳筋は〝目立たない〟という概念を持たないらしい。


 夕方には慌てた様子のコステルとアデリンが宿に姿を現し、遅くなって申し訳ないと詫びる二人と、早すぎて申し訳ないと詫びるジンの妙なやり取りがあった。


 明けて翌昼、宿を引き払った一行は聖皇宮西側にある迎賓館へ入り、気を遣われたのだろう肉盛り昼食を摂った後で聖皇宮に足を踏み入れた。

 聖皇の計らいでミレアたちも同席することとなったが、似非信徒のノワルでさえ「畏れ多い」とガクブルする始末である。


 そして現在、一行は〝遭逢の儀〟を行うため聖殿の扉前に立っている。

 儀礼と形式を重んじる国であるため仕方ないが、レイは心底面倒くさそうだ。


「神性紋章勇者様ご一行、ご入来」


 厳かなトーンで耳心地の良い声が響き渡り、白亜にあって尚白い大扉が開く。

 落ち着いた葡萄茶色の絨毯が延びる先には、玉座の如く数段高い高座に椅子が置かれている。


 しかし、聖皇に違いない人物は、高座を降りた場所に立ち姿で佇んでいた。

 レイとジンが横並びで歩を進め、ミレアたちが従者の如く付き従う。


「わぁお、ガチのピンクブロンド初めて見たぜ。おまけに美少女ぉ~」


 レイの声を聞いた聖王が、はにかむように微笑んだ。

 ジンは溜息が止まらない。


「我ら一同、拝謁の栄誉を神々に感謝いたします。神性紋章勇者ジンセン・カブラギ、御前に参上いたしました」

「神性紋章愚者レイシロウ・デ・ヴィルト只今参上! よろしくね?」


 間違ってはいないが、なぜヒーロー風なのだろうか。


「皆様との遭逢を喜ばしく想います。エルメニア聖皇国聖皇、アナシェリル・ルゥネイ・エルメロードスと申します。お見知りおきください、ね? ふふっ」

「お? ははっ、聖皇ちゃんイイ人だぜジン、良かったな!」

「そ、そうだな…」


 そんなレイを数メートル離れた位置から見るロレンティオ枢機卿は、聖皇が言った〝飾り立てず簡素な様〟を実感していた。


 客観的にグダグダな遭逢の儀を終えた一行は、聖皇宮内にしては簡素すぎる応接室へ場を移した。迎賓館と儀式が執り行われる場所以外は総じて簡素である。

 室内には聖皇とロレンティオが対面に座り、コステルが聖皇の右後ろに立ち控えている。レイとジンの背後に立ち控えているミレアたちは、未だに緊張している様子だ。


 アンセストを発った以降の展開は既知だろうと思いつつも、ジンは掻い摘んで経緯を話し、〝お願い事〟に話題を移した。


「我々の要望はこんなところですが、程度については聖下の許容範囲内でお願いできれば十分です」

「例え信徒に非ずとも、民草の安寧は神々の御心に沿うものです。勧告状と元首についてはお引き受けしたく想います。ラファネッリ卿とヴライク卿に異存はありますか?」

「ございませんとも」

「御意のままに」

「それでは正式にお引き受けいたします」

「ありがとうございます、聖皇聖下」


 実務面はロレンティオが統括し、コステルと従士たちは〝巡検〟の名目でドルンガルト内の教会を回りつつ、情勢監視を行うことになった。


 コステルに貸したインカムの幾つかをロレンティオへ渡すよう頼むと、「三つもあれば十分」というので七つを回収し、三つをロレンティオへ回すことに。

 インカムを持っていなかったノワルが嬉しそうである。


 細々した事柄を一通り詰めたところで、一行は聖皇の勧めもありティーブレイクを取ることにした。ロレンティオとコステルは場を辞し、聖皇とレイたちは聖皇宮の庭園へと向かった。


「皆様もご一緒なさってください」

「よ、よろしいのでしょうか?」

「なに言ってんだよ隊長、早く座れって」

「ミレア様が隊長をお努めなのですか?」

「隊長とチビッ子とヨゴレだな」

「「レイっ!」」

「お褒めに預かり光栄です」

「ふふっ、楽しそうで羨ましく想います」


 ジンは遠い空の彼方を眺めている。もう好きにしてくれ、と。

 エルメロードス家が長命種の血統だとか、〝始原種オリジン〟と呼ばれる神代八種族の一角といった興味深い話を聞き、話題は今後の旅行きへと移る。


「オルタニアの人物は神匠で間違いありません。厳密には技神の紋章です」

「やはり神紋の出現を知る術があるんですね」

「〝告報のレリック(神遺物)〟が神紋の出現を報せます」


 天界には統神一二柱なる神々が存在し、神性紋章も一二種なのだと。

 レイが『そこどうでもよくね?』とまたぶち壊しつつ、聖皇が賢者を探している理由の方が気になると言った。その点にはジンも同意である。


「エルメニアは賢者様がお造りになられたアーティファクト(古代遺物)を幾つも所有しています。賢者様にお会いしたい所以は、特に重要な物が盗まれたからです」


 瞬間的に〝内部犯行〟の言葉がジンの脳裏に浮かんだ。


「どういった物か教えてもらえますか?」

「現界と冥界を隔てる結界を維持するアーティファクトです」

「維持できなくなると何が?」

「悪魔という総称の厄災が地上世界に現出します。もしも結界が崩壊まで至れば、おそらくは禍ツ神が再臨するでしょう」


 レイは『前に聞いた気がする』と首を傾げるが、ジンは腑に落ちない事柄が幾つか頭に浮かんだ。

 禍ツ神は過去の勇者が討ったという伝承を聞いたが、正確には撃退なのか。

 過去の賢者と言うが、レイから聞いた賢者は五〇〇〇年前から存在している。

 にも拘わらず、自分たちの中に賢者が存在するという誤認は何だったのか。

 自分たちが召喚された際、告報のレリック(神遺物)が賢者の出現を報せるはずがない。

 辻褄が合わない…


 問うべきか問わざるべきかと、ジンは逡巡するのだった。


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