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47:ネションでヨゴレ


 最後の山道を越えたレイたちの目に、エルメニアの国土が映った。

 一変とは正しくこのことで、視界に入っている地方の小都市でさえ白亜の建築物で統一されている。


「うっはぁ、ここはギリシアか?」

「ギリシャじゃなくギリシアって言うんだな」

「西洋史を選択したからな! テストでギリシャって書いたらバツだったぜ! アレを間違えなかったら補習じゃなかったのによぉおおおおおおーーーだっ!」

「吼えるなって」


 問題:地中海東部に位置するオリンピック発祥の国、英語表記Greece

    の正称を日本語表記で答えよ。


 正解:ギリシア共和国


 人は悔しい間違えや失敗を記憶しているものである。

 レイの場合は〝共和国〟も書いていなかったので誤答に変わりはない。


「キレイな街並みだね」

「とうとうエルメニアまで来てしまったわね」

「ボロスが恋しいの?」

「そうじゃなくて、クランに所属するシーカーが来るには遠すぎるでしょう?」


 クランの中でもトップ・テンに位置する上位クランの内部規律は厳しい。

 和気藹々だけのクランも存在するが、トップクランの目標はメイズ踏破だ。

 メイズ攻略には莫大な資金も必要なため、ギルドへの貢献度を上げて減税や免税といった優遇措置を受け、それらを維持することも重要になる。


 ディナイルがメンバーの奮起を喜ぶ理由もそこにあり、メイズを一〇日も離れれば戦闘勘を取り戻すのに三ヵ月を要すると云われている。


「でもさ、二年近く潜ってないのに不安にならないあたしたちって凄いよね?」

「本当ね。最初は選抜したマスターを恨んだけれど、依頼を受けて良かったわ」

「あたしも受けて良かった」

「どっちの意味で?」

「どっちもー」


 アンセスト王都からエルメニア聖都まで一ヵ月超の旅程であったが、二十数日でここまで来た。

 今日は見えている都市に宿泊するとして、ここから聖都までは凡そ五日。

 旅程に対して少なくとも一〇日は前倒しできるだろう。


 因みに、この世界は一ヵ月が四〇日で、月数は一〇ヵ月。

 公転周期が四〇〇日という暦は確定的だ。

 蛇足だが、ジンとユアは「誕生日の計算が面倒くさい」と思っている。


「ジン殿、レイ殿、我々は一足先に聖都へ帰還いたします」

「了解です。お世話になりました。引き続きよろしくお願いします」

「勿体なきお言葉、痛み入ります。聖都までの道すがら視線をお感じになるでしょうが、どうかお気になさらず。されば是にて御免仕ります」


 コステルを先頭に、計一四騎のゴーレム馬が走り去った。


「どういう意味だ?」

「監視じゃなくて見守り隊ってことだろ」

「上手こと言ったって褒めて欲しいトコか?」

「ん? あ、見守り要員の部隊という意味で……面倒なヤツだな!」

「吼えるなって」

「くっ、はぁ…」


 したり顔のレイを睨めつけたジンが、アホらしくなって溜息をついた。

 実に面倒な脳筋である。


 見えているのはエルメニアの東玄関口として有名な、巡礼都市ネション。

 コソっと敷布団を干したくなるような名称だが、ネションはエルメニア建国当時に序列一位の枢機卿だった人物のラストネームらしい。


 巡礼都市というだけあって、小都市としては珍しい大聖堂が街のド真ん中に聳えている。

 エルメニアに侵略を仕掛けるアホがいないためか、外郭もなければ守備兵もおらず大聖堂が丸見えだ。


「なんというか、穏やかな街だな」

「つーかさ、俺らを見てやってるポーズって十字を切る的な? カメハメ波の初動みたいなんだが」

「言われてみれば確かにそうだがレイお前、教会に行ったことないのか?」

「昼寝は家でする派だ」

「意味が分からん」


 ジンがレイと本当に仲良くなったのは、小学五年生くらいからだ。

 そのため、幼いレイがクリスチャンである父と母に強制連行され日曜礼拝に辟易していたことを知らない。


 レイは礼拝開始から五分以内で確実に寝ていたが、両親が絶対に起こすため教会を〝昼寝には適さない場所〟と認定している。

 まあ、日曜礼拝は朝なのだが。


「で、Youは何しに教会へ?」

「神紋なんてマーキングをされたんだぞ? 行けば何か起こるかもと思うだろ」

「クスって笑うトコだったんだが?」

「うるさい」

「いけず勇者め。だいたいな、何か起きるワケないだろ?」

「なぜ断言できる」

「だって神様だぜ? 社会人みたくTPOを気にするはずないっつーの」

「どうにも釈然としないが、まぁ論理的ではある」

「誰が独りぼっち的だよ!」

「はいはい、それはロンリーな」

「いい調子だぞ親友勇者。次はもちっと声張ろうな?」


 アホに絡まれるジンが哀れで仕方ない。

 最近のミレアはレイのアホトークを完スルーする技能を修得し、シャシィは優しく見守る技能の修得に成功している。


 一行は街並みを眺めながらゆっくりと進む。目指す先は修道院である。

 竜舎を持つ宿がないため、竜車を修道院で預かってもらう手筈になっている。


 道往く人に場所を聞きながら向かっていると、レイがビクっと体を震撼させた。


「どうしたの?」

「なんか…嫌なモノを感じた…」

「巡礼地で変なこと言わないでくれるかしら」

「んなこと言われてもだな…」


 街の人がどよめきを上げると同時に、街路を叩く蹄の音が聞こえてきた。

 レイがキャビンの窓から身を乗り出すように後方を見る。

 シャシィがレイと車窓の間に体を捻じ込み視線を追う。

 ミレアは反対側の窓から首を出し後ろへ目を向けた。

 そしてジンが何事かと訊きかけた時――。


「レイ様ーーーっ! 見つけましたーーーっ!」

「んな!?」

「ウソ!?」

「何考えてるのよ!?」

「どうしたレイ!? 何が起きてる!?」


 叫んでいるのに無表情。

 長い銀髪を風に靡かせるのはアイツ。

 アイツは見慣れた上着の袖を首に巻き、マントのようにはためかせながらゴーレム馬で疾駆してくる。


 それはいい、それはいいのだが、そこそこ大きなバストがブルンブルン揺れている。プルンプルンではなく、ブルンブルンだ。


「あのド変態マジで全裸で来やがった!」

「絶対クラン除名だよあの子…」

「選りにも選ってエルメニアで…もう!」


 ぐんぐん近づくにつれ、称賛すべきボディラインが明瞭になっていく。

 プリケツを持ち上げたモンキー乗りのアイツが、とうとう竜車に追いついた。


「って全身タイツかよっ!! 紛らわしいわ!」


スパン! ゴン!


「あふんっ」

「「「………」」」


 後頭部を引っ叩かれたノワルが、硬いゴーレム馬にデコをぶつけダブルインパクトを食らった。

 街の人々が化け物でも見たような目をしているため、取り敢えず首根っこを鷲掴みにしたレイがキャビンへ引きずり込む。


「猛烈に痛いです。断固抗議します。今すぐ抱いてください」

「やかましいわ!」

「あぶっ…そちらの性癖が覚醒したのですね。受けて立ちます。さあどうぞ!」

「問題児率が四割とか多すぎだろ…」

「「誰が問題児だ!(ですか!)」」

「お前らに決まってるだろうが!」


 最終的に、ノワルはミレアが放ったケツキックで大人しくなった。

 リーダーのミレアに逆らうと、問答無用でボロスに強制送還されるらしい。


 漸く静かになったキャビンでは、絶妙な肌色に染色した全身タイツ姿のノワルが正座で尋問されている。

 レイとジンには全身タイツに見えるが、ミレアが言うに鎧下なる物だと。

 チェインメイルなどの下に着る戦士用の肌着なのだが、生地が異様に薄い。


「一億も借りたので特注しました。排泄が驚異的に面倒です。あと寒いです」


 方位針がレイの魔力を感知した時点で服を脱いだというから、五〇キロメートルほどをこの姿で疾駆したことになる。自ら全裸で追いかけると宣言したものの、流石に拙いと思案した挙句の妥協策がコレ。律儀…いや、度し難いアホだ。


「もういいや。で、恩返しはちゃんと出来たのか?」

「皆が汚い顔で泣きながら喜んでくれました」

「お前その内に後ろから刺されっぞ。つーか刺されろ」

「お尻は初めてなのでゆっくり優しくしてください」

「ダメだこいつ。下ネタヨゴレ芸が悪化してやがる」

「お褒めに預かり光栄です」


 こうして下ネタヨゴレ芸人が合流した。

 射殺すような目で見据えるミレアはマジで怒っているらしく、竜車を預け宿にチェックインしたところでノワルの耳を引っ張り自室へ入った。


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