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35:魔装戦隊コスプレンジャー


 各ギルドに内定者を通知したその足で、一行はケンプ商会本店へ向かう。

 メイは新人の入社手続き的な事務仕事でお留守番だ。


 魔装の性能評価方法という問題はあるものの、念のためにジンは魔剣を腰に佩き、ユアは魔弓を収めたバックパックを背負っている。


 ユアのバックパックはそれなりに大きく重さもあるため、衣服が後ろへ引っ張られ、立派な胸の膨らみが殊更に強調されている状態だ。

 レイとジンは小学校高学年からどんどん育った過程を見てきたので今更なんとも思わないが、シャシィは憎々し気な横目で揺れる大物をガン見している。


「神様は不公平だよ…」


 シャシィが口の中だけでぼそりと呟いた。

 神様が「俺知らんし!」と叫んでいることだろう。


 通用口から本店へ入ると直ぐさまバックヤードへ案内され、どの木箱だろうかと見回しているところへアルと男性従業員がやって来た。


「レイ殿は初見だと思うので紹介します。彼は本店倉庫の管理責任者です」

「ヤンと申します。よろしくお願いいたします」

「俺はレイシロウでレイ。よろしくどーぞ」


 軽く挨拶を交わしたアルが体を向けた場所には、木箱が五つ並んでいる。

 大きさ順に置かれているが、最も小さな箱は軍用バックパックサイズだ。

 ごついパワードスーツをイメージしていたレイの眉根が寄る。


 其々の天面には〝スピードスター〟〝スナイプスター〟〝マジックスター〟〝アタックスター〟〝ディフェンススター〟と書いてある。


「なあ、ちっこい箱の文字なんて読める?」

「スピードスター」

「デカいのは?」

「ディフェンススター」

「だよな」


 レイたち三人の自動翻訳能力は、結構ファジーだったりする。

 特に文字を読む時はファジー機能が仕事をするため、ジンは「本人の語彙力や概念的知識に依存するようだ」と分析している。

 要は大人と子供、読書人と不読者に差があるのと同様である。


「たぶんだけど、星付きシーカーに倣ってるんだと思うぞ」

「なにそれ」

「成果を上げたシーカーパーティーにギルドが星を付けるのよ。シーカーギルド特有の格付け制度ね」


 シーカー認定試験の受験要件が〝戦闘系ギルドの五等級以上〟であるため、シーカーギルドには昇級制度がない。

 加えてシーカーとしての才能、つまりメイズ攻略能力は戦闘力だけで推し量れるものでもない。

 そこでシーカーギルドは、一定以上かつ継続的な成果を上げたシーカーないしシーカーパーティーに星を付ける。


 成果としては最深攻略階層が最も判り易いが、持ち帰る産物の質や量を成果と見なす場合も多い。発見困難かつ希少な魔草採取専門で星付きになったシーカーも存在するとミレアは言う。


「七ツ星まであるんだよ。ウチのマスターたちでも五ツ星だから、七ツ星なんていないと思う」

「シオたちも五ツ星になるのが目標なの」

「色々あんだな。俺がタイトル獲得のために必死こいてたのと同じか」

「レイたちなら七ツ星も夢じゃないと思うわ」


 そんな話をしていると、ヤンが木箱のかすがいを次々と抜いて蓋を開けていく。

 アルも特化型を見るは初めてらしく、『ほほぅ』と呻っている。


 が、魔装のデザインを見たレイたち三人の顔がビシッと引き攣り固まった。


「どうしました? 確かに風変りですけど、かの有名な天才の作らしいですよ?」

「どう見ても戦隊モノじゃねーか!」

「眩暈がしてきた。ドベルグの金色装備より酷い」

「い、色とりどりだね…」


 平成どころか昭和の香り漂うナンチャラ戦隊風のコス、もとい魔装。

 シルクサテンとビニールを足して割ったようなテカテカの全身タイツ。

 シールド付きジェットタイプのヘルメット。

 他にも付属品が色々とある。

 色は順にブルー、グリーン、ピンク、レッド、イエロー。


 電子回路のように複雑な線が走っているのは、魔力回路だと判る。

 しかしマジックスターの付属品は可愛らしいステッキだし、ディフェンススターの箱には禍々しいカイトシールドが入っている。


 もう巫山戯ているかケンカを売ってるとしか思えない。

 推定〝神匠〟だろう天才は、高確率で日本人ではなかろうか…


「返品で」

「えぇっ!?」

「私も遠慮したいな」

「ユア殿まで!? ジ、ジン部門長は違いますよね? ね?」

「そうだな…」

「あぁ良かった」

「いや、返品に変わりはないが自分たちで突き返しに行くか」

「あ、ジン君賢い。それありだね」

「天才に会ういい口実ってことか?」

「そういうことだ」

「ミレアなんとかしておくれ! 聖皇聖下に顔向け出来なくなるよ!」

「お兄様、もう無理よ」

「おぉ神よ! どうか神罰だけはお赦しください!」


 跪きながら諸手を挙げて天を仰ぐアルを他所に、ジンは『竜車に積む手配を頼む』とヤンに指示し、レイは『昼メシ行こうぜ』と倉庫から出て行く。

 ユアもシャシィとシオに『何食べよっか?』と尋ねながらレイを追い、最後にミレアがアルの肩に手を置き、『諦めも肝心よ?』とイイ笑顔で告げ立ち去った。


 レイは本店の向かい側にある小洒落た食堂へ入ると、中央にある広い丸テーブルに陣取り壁のメニュー札に目を向ける。


「何なのか判んねぇモンが多いな。まぁいいや、さーせーん! 注文よろー!」

「はいはーい! すぐ行きまーす!」


 これは初めて入る食堂の〝あるある〟で、例えば〝ダウヴァッカのワイン煮〟は読めても、「ダウヴァッカってナニヨ」となる。

 しかし、もう慣れっこなレイは何だか判らないメニューをどんどんオーダーしていく。


 好き嫌いがない皆は「レイが頼んでくれるんだな」と、先程のショッキングな魔装の話で盛り上がり始めた。すると――


「俺はこんなもんでいいや。お前らは?」

「「「「えっ!?」」」」

「おいレイ、独りで全部食うつもりか? 一〇品くらい頼んだよな?」

「最近腹減ってどうしようもなくてさ。家のメシもゼンゼン足りねぇんだわ。体重もガンガン落ちてる気がするし」

「レイが痩せ始めた気はしてたけど…」


 ユアは体重減少に気づいていた様子だが、それでも全員が思わず閉口する。

 そんな中、ハッとした表情を浮かべたミレアが、次に目を細め口を開く。


「ねえレイ、もしかして覆魔の魔力消費量が物凄く増えてたりする?」


 その言葉を聞いたシャシィとシオもハッとした表情を浮かべる。


「お、よく判ったな。隊長だから?」

「だから隊長じゃ…って、もういいわよ。シィはどう思う?」

「あたしも〝殻化〟しか思いつかないけど…シオはどう?」

「シオは殻化できる人、先代の獣王様しか知らないの」

「生ける伝説だよね…」


 大抵のことは笑って流すシャシィまでもが神妙な顔つきで考え込む。

 すると、どこか楽し気なジンがズイと身を乗り出した。


「面白そうな話になってきたな。ミレア、その殻化について教えてくれるか?」

「レイがまた変なことしてるの?」

「こらこらユアさん、また変って言うな」

「あ、ごめんね?」

「メシの量増やしてくれるなら許す」

「うん、いっぱいにする」

「あざーす」

「あの! 注文はもういいんですか!?」


 見てのとおりクソ忙しいんですけど!と、半ギレのウェイトレスに「足りなかったらまた頼む」と告げ、ミレアの話を傾聴。


「殻化はね、覆魔起因で魔力が堅い殻に変質する現象だと云われてるの。殻化が膨大な魔力と体力を消費するから、急に大食漢になるという伝承もあるわ」


 遥か昔には〝魔鎧〟と呼ばれており、純血の獣人だけが会得できる秘奥だ。

 純血獣人の始祖は二四人いたとされ、古精霊紀に十二種の神獣が古代人との間にもうけた男女の双子だった。有体に言えば、超近親相姦のための双子だ。


 二四人のみだった獣人が国家を形成する数にまで増えたのは、殻化した純血が天下無双の強さを誇ったから。

 殻化が無双を誇った所以は物理的な堅牢性に留まらず、魔力が変質するからこそ得られる神秘事象の遮断特性にあったという。


「確か〝断魔〟と言って、任意に発現できる点が秀逸と聞いた記憶があるわ」

「ん? なぜ任意だと秀逸なんだ?」

「攻性術式だけ断って、回復とか支援術式は受けられるからだよ」

「あぁなるほど、そいつは秀逸だ」


 しかし時の流れには逆らえず、エルフと同様に純血は数を減らしていった。

 そんなベスティア獣王国に、いつ以来かすら判らない殻化の会得者が出現した。

 シオが言った先代獣王の羊人である。


「モコモコヒツジかよ!」

「シオは会ったことないからモコモコか分からないの…」

「あ、いや、デカい声出してごめんな? あまりにも予想外でね?」

「何にしろ検証せずにはいられない案件だ。だよなレイ?」

「その言い方、Yes言わせて魔剣で斬る気だろ。いいから柄を撫でるな!」

「何を言ってるのか分からないな。柄を撫でるのは昔からの癖だ」

「ウソつけ勇者め! ギャフンと言わせてやらあ!」


 子供のような台詞を吐いた愚者は、注文した料理をモリモリ完食した。


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