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29:何を造る?


 覆魔ができると聞いたミレアが驚いたのは、レイの身体強化が現時点の上限に達したことを意味するからだ。


 身体強化は体の深部、つまり骨格への魔力浸透ができれば一人前と言われる。

 骨格の次に血管や内蔵まで浸透できるようになれば一流で、現在のミレアはその域にある。


 しかし、表皮まで浸透させなければ覆魔には至れないため、レイは魔力路の延伸と魔力制御技能の両方でミレアを上回ったことになる。


「喋ったね」

「喋ったわね」

「キレイな声なの」

「サイレントバチュラムではなかったようです」


 だから蜘蛛型魔物なので最初から違う。


「あの…魔晶を作るっていうのは…?」


 女性はレイからジンへと視線を移した。


「見ていれば分かる。レイ、ユア、やってくれ」

「じゃあ、私がレイの魔力を吸い上げる感じでやるね」


 言ったユアがレイの手を握った。


「いくぜ?」


 言ったレイが循環している魔力を一気に浸透させる。

 瞬間、ユアの体がビクっと跳ねた。


「レイの凄い…」


 ノワルが鼻息を荒くしたが放置でいく。


 瞼を閉じて魔晶生成炉に意識を集中するユアが、下腹部に片手を添えた。

 そして掌を上に向けると、そこに光が灯る。

 光が粒子へと変わり、掌の上で集束していく。


 生まれたのは、虹色に煌めく極小球。


「そ、そんな……」

「魔晶の色だね」

「実際に見ると気が遠くなるわね」

「キレイなの」

「確かに凄いですが、魔晶の価値は大きさで決まります」


 吸い上げても吸い上げても尽きないレイの魔力が、虹色を大きくしていく。

 メイズで採掘される魔晶は不定形だが、ユアが創るそれは真球。

 球はエネルギーの集束において最も安定な形状であり、切削や研磨が不要な魔晶は更に価値が上がる。


「まだ平気?」

「問題ねぇよ。ユアがイケるならガンガンやっていいぞ」


 とは答えたものの、レイはガッツリ抜かれていく魔力の量に焦っていた。

 ゲートを開き、魔力炉に意識を向け魔力を生成する。


 虹色の真球が瞬く間に径を増していく。


「こんなこと……」


 眼球が零れ落ちそうな程に女性が目を見開いた時、ジンが口を開けた。


「もういいぞ、十分だ。二人とも流石だよ」


 ニヤリと笑むジンの目には、レイの拳大はある虹色が映っている。

 ユアが大きく息をついて瞼を開くと、レイも同じく息をついた。


「これが魔晶か。なんかこう、迫力あるな。圧がすげぇって感じ?」

「レイが強化水準を上げた時はこんなもんじゃないよ?」

「そうなん?」

「うん。感度が高い駆け出しだと震えて動けなくなっちゃうと思う」

「そうかも。私もびっくりしちゃった。でもレイの魔力ね、温かかったよ」


 まるで懐妊を喜ぶ女性のように、ユアは下腹部に手を添えた。

 シャシィがじっとりとした目を向ける中、ジンが女性奴隷に向け口を開く。


「さてどうだ? やる気は出たか? 出たなら名乗ってくれ」

「サリュメイです。どうかよろしくお願いします、ご主人様」


 無表情だった女性は、可憐な花を想わせる微笑みでそう言った。


「いい笑顔だがご主人様はやめてくれ。俺はジンセン・カブラギ。ジンでいい」

「俺はレイシロウ・デ・ヴィルトだ。レイって呼んでくれ」

「私はユア・カグラノミヤだよ。よろしくね、サリュメイさん」

「フェルミレアよ。ミレアでいいわ」

「あたしはシャシィね。シィでいいよ」

「シオなの」

「ノワルです。仮名ですが」

「あの、私のこともメイと呼んでください。親しい人はそう呼ぶので」


 はにかむように言うメイは、無表情どころか表情豊かに見える。


 錬金が使えて魔導製品に詳しいなら確実に落とせると見込んでいたジンは、メイに事業計画の骨子を説明していく。

 既存の魔導具や魔導器、魔導装置には目もくれず、これまでなかった魔導製品の開発と製造に注力する。


 その第一弾は、魔導式車輛の開発だ。


 以前ミレアは「魔導四輪は利便性が非常に悪い」と言った。

 実物を見たジンとユアが納得するしかなかったそれは、本当の意味で馬車の車軸が回転するだけの物だった。


 トルク制御どころか操舵という考えもなく、結局は馬かゴーレム馬が必要になる。また、〝王家の馬車はゴーレム馬〟という価値観もあるので、実質的にはゴーレムの一択だ。


 しかし、ゴーレムは低速・中速・高速という三段階の定速走行しか出来ないため、車軸がトルクを上げればゴーレムは異常とみなし緊急停止してしまう。

 加えて、車軸自体に魔核を内蔵した魔導器が取り付けてあることから、機構設計的な自由度がないに等しく、魔核は半日ほどで魔力を遣い切ってしまう。


「ガチの自動車を造るってことか」

「正確にはオフロードタイプの大型輸送車だ。フル装甲のな」


 この構想は、ジンが通商条約と認識している、北の二国と結ぶ予定の盟約に関係してくる。

 この世界における長距離輸送の最大リスクは襲撃であり、襲撃者は野盗団だったり敵対者が雇った傭兵団だったりする。次点は悪路だ。

 ジンは早期にバラクと通商条約を結ぶつもりでおり、輸送品がメイズ産物や魔導器だと知れ渡るのは時間の問題だと確信している。

 ならば襲われない方法を考えるより、襲われても構わない方法を考える方が合理的だろう。

 当初は条約を締結した後に着手するつもりだったが、ノワルの身の上話が前倒しを決めさせたという訳だ。


「ジンらしいな。でも造れんのか?」

「馬車の魔導器を分解してみて造れると思った。あれはイメージ的に〝軸回転〟を付与しただけの物だ。いざ造るとなれば車体とかタイヤも問題だったが…メイは錬金の【解析】【抽出】【合成】【造形】を使えるんだよな?」

「はい、使えます。両親も錬金術師だったので」


 皆は「だった」という過去形に気づいたが、詮索することなく流した。


「ユアとメイがいれば十中八九は造れる」


 ユアは経験不足だが魔術じゃなく魔法であり、知識は圧倒的で魔力も多い。


 ユアが一発で土壌中からアルミニウムを【抽出】できたので、ジンは軽量なアルミ合金でフレームを【造形】し、炭素鋼で補強部材と装甲を造るつもりでいる。

 メイはアルミニウムという元素を知らないだろうが、実物を【解析】すれば【抽出】できるようになるはず。

 問題は高度な錬金が結構な魔力を消費するという点だが、ユアがメイに魔力を授与すればいい。ユアの〝魔力授受〟は魔晶も対象になるため、レイがいる限り二人が魔力に困ることはない。


 ジンが最も頭を悩ませたのはタイヤだったが、この世界にもゴムの木があると判った。切っ掛けはケンプ商会へ行った際、王都の子供たちが野生ゴムらしき物を蹴って遊んでいる姿だ。

 そこでジンは木炭から炭素を【抽出】してカーボンブラックを作り、天然ゴムと【合成】すればタイヤが造れるのではないかと考えた。


「いやまあジンが物知りなのは知ってるけどよ、流石に厳しくね? オフロードならサスとかダンパーが利かねぇとダメだろ」

「俺だって手持ちの知識だけで造れるとは思っちゃいないさ。でもコレがあるから造れる」

「スマホじゃん。意味分かんねぇんだが?」

「ウチの兄貴の玄人染みた趣味を知ってるだろ?」

「朝から晩まで弄ってる車とバイクのことか?」

「そうだ。実はこのスマホな、召喚された日に間違えて兄貴の持って来てたんだ。なぜか俺の部屋で充電してたらしいんだが、今となっては幸運でしかない」

「同じ機種なのは知ってっけど、まだ分かんねぇぞ」

「車やバイクのメカニズム大全だとか、図解でわかる車の故障・修理事例集やらの電子版が山ほど入ってる。レイの姉さんもラノベの電子版を入れてたろ」

「あ~~~なるほど、外部ストレージがパンパンなやつか」


 ジンは『必然だったのか偶然なのかは知らないけどな』と話を纏め、軍用車両特集を見せて『これをベースにもっとデカいやつを造る』と説明した。

 ミレアとシャシィはレイのスマホで見ていたため、シオとノワルに「これは荷物を運ぶのよ」とか「人が乗るやつだよ」と得意気に語る。


「す、す、凄いですっ! こんな物を造れるんですか!?」

「試行錯誤は避けて通れないが、ユアとメイがいるからこそ造れる」

「メイさん一緒に頑張ろうね!」

「はい! ユア様と一緒に頑張ります!」


 こうして大型装甲輸送車の開発と製造が始まった。

 手持ちの資金で完成させるのは無理だと判っているものの、初号機をケンプ商会が購入することは決まっているため、追加資金を引っ張ればいい。


 ジンはユアにスマホを預け、『さて次は…』と思考を巡らせるのであった。




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