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22:vs 無尽のシェルナ


「これからララに色んな蹴り技を見せる。やるやらないはララの自由だ」

「ハイです!」


 体を触ったのも自分のためなんだと判ったララは、神妙な面持ちで頷いた。


「でだ、盾持ち君たちも受ける避けるは好きにしてくれ。何なら盾で殴りにきてもいい。シールドバッシュとか言うんだっけ?」


 言われた五人が「マジでいいの?」といった目をミレアに向けると、彼女は『好きにやりなさい』と告げた。


「んじゃいってみよーか! カモーン!」


 真っ先に盾を翳し突進してきた者に軽い跳び前蹴り。ぐっと耐えた盾を足場に左右から押し込んでくる二人に双連脚を放ち吹っ飛ばす。片脚着地から耐えた盾持ちに後ろ回し蹴りを入れて吹っ飛ばし、ツーステップで遠心力をつけ右、左と回し蹴りを入れ横列で突っ込んでくる残り二人を後退させた。


 そこから舞踏のような武闘が始まる。


 一八〇度回転横蹴りの反動を利用した側宙から背後の一人に回し蹴りを入れ、ワンステップで九〇度方向を変えた前宙からの踵落としで次を圧し潰す。軽やかなステップで回転しながら腰を落とし、下から掬い上げるような横蹴りで一人を浮かせ、後ろ回し蹴りを繋いで更に浮かせる。


 そして振り向きざまのハイキックで盾を真横へ蹴り飛ばすと、床に尻をつく五人が顔を盛大に引き攣らせフリーズした。


「ん? どうした? 痛くなかっただろ?」


 彼らには「痛くしてやろうか?」と聞こえた。

 一斉にスバっとミレアに視線を向け、「こいつ何なのマジ勘弁して欲しいんですけどっ!」と訴える。


 すると――。


『うぉおおおおーーーっ!』

『スゲ~~~っ!』

「今のナニあの人何者!?」

「あんな武術見たことないわ!」

「ヤバ、なんか体が震えてきた…」

「だよな! なんかこう、熱いよな!」


 苦笑しながらもどこか誇らし気なミレアとシャシィがレイに歩み寄り、ニコリと笑んで背後へ目を向ける。

 二人の視線に釣られてそちらを見ると、ペタンとへたり込んで両手で口を覆い、わなわなと震えつつも目を輝かせるララの姿があった。


「いらっしゃいララ」

「靴に履き替えてね」

「ハ、ハイです!」


 靴を履きヒュバっと駆け寄ったララが、触れるか触れないかの距離でレイの顔を見上げる。その顔には「今すぐ教えてはよはよ!」と書いてある。


「気に入ったか?」


 ララがウンウン!ウンウン!と頷きながら、耳でレイの胸をパシパシ叩く。


「今のなんていう武術ですか!?」

「空中技はカポエイラで、立ち技はテコンドーっていう」

「二つもーーー!」

「でも俺はどっちも専門じゃないし、ララはララの流儀でやればいいさ」

「レイさんの得手って何なんですか!?」

「主体にしてるのはキックボクシングと合気柔術だな」

「何ですかそれ! ララ見たいですーーーっ!」

「いや見たいって言われてもな」


 そっち方向へ行っちゃう?といった風情のレイが、ミレアを見遣る。


「はぁ、結局は疲れるのね。相手するわ」

「待てミレア! そいつの相手は俺がする!」


 ホールに響いた声の主へ目を向けると、燃えるような赤髪の偉丈夫が、開けた玄関扉に寄り掛かるような体勢で獰猛に笑んでいた。

 今まで騒いでいた者たちが、目を丸くして静まり返る。


「シェルナ…」

「うっわぁ…」

「あわわわわ…」


 何で今来ちゃうかなぁといった風情のミレアたちを尻目に、レイは喜色を浮かべてシェルナよりも獰猛に笑んだ。


「ありゃ強ぇな。つーか経験豊富って感じだ」

「ええ、マスターとは比べるべくもないけど、強化も一流でトップパーティー前衛の短槍士よ。二つ名は〝無尽〟で、とにかく打たれ強くて体力が尽きないの」

「へぇ、ウチの親父みてぇなヤツか」


 レイはスッと歩み出て伸ばした腕でシェルナを指差すと、掌を上へ向けクイクイと四指を引いた。

 途端、シェルナが歯を剥いて嗤いながら駆け出し、皆が蜘蛛の子を散らすように場を空ける。


(速ぇな!)


ブンッ! パパンッ!


 二〇メートルほどの距離を瞬時に潰したシェルナが放った右手刀を左ショートフックで往なすように打ち払い、コンビネーションの右ジャブを鼻に打ち込み仰け反らせた。そのまま舞うようなステップワークで横から後ろへ回り込み、前後のステップと僅かに体を左右に振る挙動で狙いを定め難くし様子を観る。


 垂れる鼻血を拭いながらニタァと笑んだシェルナが、再び踏み込み左ミドルキックを放つ。合わせるように素早く踏み込んだレイは体を回転させた右肘撃を太腿に刺し込み、間髪入れず反動利用の右ショートアッパーで顎をカチ上げた。


 大きく仰け反るシェルナの脇腹に追撃の左フックを入れようと動いた瞬間、シェルナはノールックで両腕を伸ばしレイの側頭を鷲掴みにしての頭突き挙動。

 引かれる腕力に逆らわずグンと屈んだレイは、軸脚への小内刈りで押し倒しつつシェルナの手を打ち払い、そのまま左足首を取ってアキレス腱固めで返す。


 未知の激痛に顔を歪めたシェルナが上体を起こし右正拳を放つが、レイはスウェーで躱し、両足を踏ん張る梃ブリッジで更にアキレス腱を絞め上げた。


グギッ


「がっ!?」


 足首を極められるなど初体験のシェルナが無事な左脚で怒りの蹴りを放つものの、レイは左足首が逝った瞬間に腰回転で両脚を振っての逆立ち上がりでタタンと後退し間合いを取る。


「おもっきり顎カチ上げたっつーのにタフだなオイ」

「てめぇ…蹴り技野郎じゃねぇのかよ」


 キックも柔術も意味不明だわなとレイは両肩を竦め、お望みどおり蹴り技でいこうかと、強化レベルを7に上げラッシュをかける。


 フェイクの右ミドルから左ローをシェルナの右脚へ打ち落とし、更に右ローで逝った左足首を刈るというエグイ攻撃。たまらず膝をついたシェルナの右側頭へ左ミドルを入れる…と見せかけ、鬼の踏み込みで右膝蹴りを顔面に突き刺した。


 もんどりうって倒れたシェルナの逝った左足首を踏み抜きつつマウントを取り、膝で両脇を押さえ固めてニヤリと嗤う。


「いくぜ? タフガイ」


ゴッ! ゴッ! ゴッ! ゴッ! ゴッ! ゴッ! ゴッ! ゴッ! ゴッ! ゴッ!


 強化レベル7の鉄拳や掌底連打がシェルナの顔面を強襲する。


 両脇を極められているシェルナは両掌でのガードを試みるが、レイは指ごと顔を潰す勢いで鉄拳を打ち込み続ける。

 とうとうシェルナが歯を食いしばり両目を瞑った瞬間、レイはマウントを解きつつ右腕を脇で挟むように取り、左脚を回して首元を押さえつつ手首を鷲掴みに変えて腕四の字を極めた。


ミシミシッ…ゴキィィ


「がぁあああ!? クソが! クソがーーーっ!」


 折ったレイが解いた途端にシェルナは起き上がろうとするが、思う壺であった。

 背後に回り込み両脚をクロスさせて腹を抱え込み、右腕を首に深く回しつつ左手で後頭部を前へ押し出す。基本に忠実なリア・ネイキッド・チョークである。


「ぐぅ……ぅ…………」


 レイは薄く嗤いながら、容赦なしに気管と頚動脈を締め上げる。

 シェルナが左手をレイの顔へ伸ばす。が、届かない。


「勝っちゃうのね…」

「相手の攻撃手段が未知って怖いよね。武術も魔術も」

「嬉しいような…悔しいような…複雑ですー!」


 シェルナは二分ほど粘ったものの、遂に体が弛緩した。すると、レイはここぞとばかりにシェルナのケモ耳をもふり始める。最初から狙っていたらしい。


 蓋を開けてみればレイの完勝だったが、クランメンバーたちの気持ちは複雑だ。

 未知の技を使い熟す未知の男は魅力的に映るものの、身内、それもトップパーティー前衛の敗北は悔しいの一言に尽きる。


「ケモ耳ふわっふわかよ! っしゃ堪能した! 残りはあと四人!」

「ちょっ!? ダメよ! 絶対にダメなんだから! 明朝発つんだから!」

「必死だな隊長? まあ、チャンスはまたあるか。シィ治してあげて」

「はーい」

「さぁてララ、ぶっ倒れるまで特訓しようぜ!」(キメ顔サムアップ)

「ハ、ハーイ…」

「まだやるのね……ハァ…」


 その日、ララは涙目で『うひぃいいー!?』と絶叫を繰り返し、ミレアはシャシィに【精神回復】を重ね掛けしてもらうのであった。




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