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21:ぴょ~ん


 ガンドタイトとは精霊の祝福を享けた魔導鉱石で、組成はアダマンタイトに類似している。祝福を与えた精霊の属性により色が異なり、精霊の位階が高いほど鮮やかに発色するという。


 ディナイルが手に入れたのは鮮やかな琥珀色を漏らす鉱石だったため、大地の大精霊テラが祝福を与えたメタガンドタイトだと断定された。

 土の精霊グノームの祝福を享けたガンドタイトであれば、古匠を持つ魔工鍛冶師や魔工彫金師が加工できる。造るモノによっては名匠でも事足りるだろう。


 しかし、メタガンドタイトともなればそうはいかない。

 魔工職人は魔力制御に長けているのだが、当然ながら制御できる最大魔力量には限度がある。

 メタガンドタイトが内包する魔力量は膨大であり、内包魔力量が多いほど加工難易度は跳ね上がる。そもそも、製錬工程すら儘ならない代物なのだ。


 事実、瑠璃の翼と契約している魔工鍛冶師は古匠持ちのドワーフだが、彼は『伝説の神匠でなければ無理だ』と断言したという。


「ところでレイ、お前はなぜそれを持っているんだ? 重くないのか?」

「聞くの遅くね?」

「単なる馬鹿なら問うだけ無駄だ」

「いい性格してやがる。俺が持ってねぇと馬車がぶっ壊れんだよ」

「馬鹿なのか?」

「ぶっ飛ばすぞ脳内で」


 リアルでは無理っぽいのでイメージ限定である。


 実のところは馬車の横に置いておけばいいのだが、極鋼に触れていると魔力制御の難易度が上がるため、いいトレーニングになると考え持っているだけだ。

 親和性がなんたらでとにかくクソ頑丈でクッソ重いらしいと説明になってない説明をすると、興味を持ったディナイルが中庭へ行こうと言い出した。


 信憑性の高い情報をもらった返礼がてら中庭へ行き、レイが極鋼を放り投げる。


ドゴゴゴォオッ!!!


「あり得んだろ…」

「月森の族長が言うには、オリハルコンよりも遥かに比重が大きいそうよ」

「極鋼っていうんだって」

「大層な呼び名だ。見た目も大層だが」


 レイは「それ俺も言ったなぁ」と思いつつ、親近感を抱き父を思い出した。

 元気にしてっかな? 元気でしかねぇだろうな、などと考えていると、ローブを着た者たちが窓という窓からレイたちを……いや、極鋼を見ている。


「早くも人気者か? というより、恐々と見ている風だな」

「レイは誰とも話してないわ。魔術師が多いわね」

「たぶん魔力強度と量のせいだよ。あたしはもう慣れたけど、レイの魔力って普通じゃないもん。それを極鋼が溜め込んでるから感知しちゃうんだよ」

「全力強化したレイに触れれば、たぶんマスターでも只じゃ済まないわ」

「ほぉ、それほどか」

「何なら戦っとくか? 全力はまだ制御できねぇからムリだけどな」

「魅力的な誘いだが、生憎これから会合があるもんでな」

「そういえば今日は七月一日だったわね」


 界隈で俗に〝十席会〟と呼ばれるマスター会合は、ボロスで名実ともに上位を占めるクランのマスターたち一〇名が一堂に会する。

 二ヵ月に一度の定期で開かれる会合はメイズ関連のみならず、ボロスにちょっかいを掛ける国内外の貴族や団体への対処策も協議される。


 メイズの所有権は当代のアンセスト国王にあるが、メイズ都市ボロスは納税の義務はあれど、治外法権が及び自治権を認められた独立都市である。

 だからこそアンセストを飛び越えて交渉やちょっかいを掛けてくる輩がおり、十席会が性質の悪い輩に対する排除決議を採択することもある。


 メイズへの進入可否がアンセスト国王の王権に左右されるという理由もあるが、大帝国時代から変わらず租税率を低くし、シーカーを厚遇している。


 一般的には産物ないし産物売却額の凡そ六割を徴収されるのだが、ボロスは最大四割と低い。更にクランの貢献度に応じて税率が減免されるため、アンスロト王家を蔑ろにする理由がないという訳だ。


「今日はここでゆっくりしていけ。応じる者との模擬戦は許可する」


 レイの目がキランと光った。唇は大きく弧を描いている。


「またそういうことを言うんだから…」

「たぶんレイに勝てそうなの五人くらいしかいないよ?」

「結構なことだ。適度な刺激は向上心を高める。敗戦もまた然り」

「いいこと言うねぇ。負けて燃えなきゃ強くならねぇわな」

「フッ、そういうことだ」


 泊まるなら極鋼はこのままでいいやと埋まったまま放置し、ホールでディナイルと別れて物色するように猛者を探す。が、ピンとくる者が見当たらない。


「レイの目に適う者なんてここにはいないわ」

「上位三パーティーは上階の個室だし、暇な時は七階のサロンにいるんだよ」

「んじゃ七階に行こうぜ」

「もお、レイは疲労という言葉を知らないのかしら?」

「ずっと座ってるとスゲー疲れる。あと長話を聞くのもクソ疲れる」

「子供?」

「シィに言われたくねぇ」

「あたしのは種族特性だか…らあ!? なんで胸を見るのさ!」

「おっと失礼」


 おっぱい星人ではないしエルフより断然大きいのだが、至近の比較対象がミレアだったので無意識的に目がいってしまった。あと、ブラジャーが存在しないのは非常によろしくないとレイは思っている。形とか先っぽが丸判りだ。


「ミレアさ~ん! シィさ~ん! お帰りなさ~~~い♪」


 黒ウサギが跳ねてくる。もとい、黒髪の兎人が跳ねるように走って来る。

 頭の長い耳までわっさわっさと跳ねており、何がそんなに嬉しいのかクリクリの円らな瞳をキラキラと輝かせている。


 レイはバネがあるしバランスもいいなと眺めているが、ミレアは「ナイス!」といった風情である。それを見てとったシャシィがミレアの思惑に苦笑した。


「いいところへ来たわララ! 彼はレイよ! さあご挨拶して!」

「はじめましてラライアでーす! 今日はヘルハウンドに集られて死にそうになりましたー♪ えっへん!」


 笑うとこなのか慰めるとこなか、はたまた憐れむとこなのか判らないレイがシャシィへ目を向けた。


「この子ね、脚力は一流なんだけど、攻撃手段がなくて魔物の釣り役をしてるの。だからいつも危ない目に遭うんだよ」

「ふ~ん、まぁ体格的に長物はムリだろけど、ナイフでも持てばいいんじゃね?」

「ララは軽業士だけど手は不器用でーす♪ 残念? ララ残念??」


 おちょくられてる感がハンパないのだが、ルックスがカワイイので怒るに怒れない。天然臭いので尚更怒れない。


「ねえレイ、あの蹴り技をララにも指南してくれないかしら?」

「カポエイラか? つーか、軽業士なんてあるんだな」

「かなり珍しいよ。あたしララ以外に知らないもん」

「ララも知らないでーす!」

「そもそも蹴り技を主体にした武術がないのよ。シオのように隠形が使えれば斥候が出来るのだけど」


 ふむ、とレイはララの肢体を前から横から後ろから眺めながら思案する。

 身長はユアと似たり寄ったりなので、低いということはない。

 全体的に細身だが、脚力自慢だけあって脚の筋肉は発達している。いや、ウサギだからかもしれない。


「ちょっと体を触っていいか?」

「いいわよ」

「えぇー!? ミレアさんララまだ処女なんですけどー!」

「なに馬鹿なこと言ってるの! ほら大人しくなさい!」

「うわー! ララ大人になっちゃうー!」

「コイツはアホなのか?」

「違うとは言えないかな? いつもこんな感じだし」


 思考回路が絡まってんだなと思うことにしたレイが、ミレアに羽交い締めされたララの体を触診していく。


「あ……あう…うひ…ひゃう!? うみゃーっ!」

「やかましい! んで動くな!」

「ハイ…」


(しなやかなイイ筋してる。走るだけじゃあこの筋は作れない。大殿筋も腹斜筋も広背筋も申し分ない。体重が足りないかと思ったが意外に骨太だ。足のサイズも大きい)


「おもっきりジャンプしてみてくれ」

「ハーイ」


 垂直飛びをすると思ったら、ララはぴょーんと前に跳んだ。

 非常に残念だ。が、一足で五メートルは跳んでいる。

 今となってはそれほど驚かないものの、強化も助走もないと考えれば驚異的。

 しかもララが履いているのは襤褸襤褸なグラディエーターサンダルだ。


「股割りはできるか?」

「股割りってなんですか?」

「(股割りねぇのか)こういうの」


 レイが前後と左右で股割りをしつつ、上体を床にベタづけする。

 すると、ララは難なくレイの真似をした。

 レイは「俺より柔らけぇんじゃね?」と驚く。

 心肺機能とスタミナの問題はあるが、そこは努力してもらうしかない。


 立ち上がったレイは、ホールにいる者を見回す。

 こっちの打撃訓練で困るのは、ミットやサンドバッグがないことだ。実戦向きの手本を披露するなら、叩ける何かが欲しい。おまけにララは素の運動能力が高く、下半身に限定すればレイの強化レベル1とほぼ同等だと思われる。


「ミレア、その辺にいる盾持ちの連中に手伝ってもらえねぇかな?」

「何をする気?」

「立ち技と空宙技を混ぜようと思うんだけど、ちっと強化すっから盾を蹴りたい」

「いいけど手加減してね?」

「ララの筋力に合わせるだけだ。シィはララに合う靴を探してくれ」

「倉庫の新品を幾つか持ってくるよ」


 ミレアが五人の盾持ちを呼んで説明すると、彼らは頷いてレイを取り囲んだ。




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