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19:お宝ゲット?


「なっ…リュオナか!?」

「本当にリュオナなの!?」

「父様! 母様!」


 シャシィが【治癒】【疲労回復】【精神回復】を軍馬に駆使し、レイたちは往路と同じく二日で月森の里へ帰還した。

 レイは『それ王都からやってくれよ』と言いながらジト目を送ったが、馬が絶対に潰れない保証はないと聞かされ『ごめんなさい』と謝った。


 広場に停めた馬車の幌を開けると、塩や穀物じゃなく攫われた七人が出て来たため里は大騒ぎである。

 自分の家族ではなかったと落胆する者もいるが、それでも一族としては至極喜ばしい出来事なので歓声が轟いてる。

 七名の内で四名は素っ裸なのだが、んなことはどうでもいいという状況だ。


「早く帰って来たかと思えば同胞まで救い出してくれた。レイ殿たちへ恩を返すには何百年もかかりそうだよ。本当に、ありがとう」

「よしてくれ。ミレアとシィが一緒だったから出来たことだ。つーか、俺は何百年も生きねぇっての。イイ笑顔が見れたからヨシだ」


 この一〇年だけでも攫われた者の数は四〇人を超える。

 その内のたった七人だが、里の皆は涙を流し歓喜している。

 とはいえ、あの子たちが刻まれた心の傷が癒えるかは、全く別の話である。

 いつか癒える日が来ることを、胸の奥で願うことしか出来ない。


 レイの単なる思いつき、正味なところは「意外と近いじゃん」というだけでチャレンジしたことだが、それでもやって良かったと晴れやかな表情を浮かべた。

 そんなレイを見るミレアとシャシィも嬉しそうで、自分たちの常識や価値観が良い意味で通じないレイに心惹かれてしまうのもまた事実である。


「さて、荷物と傭兵積んで帰るか」

「えっ!?」

「今から帰るつもりなの?」

「まだ昼過ぎじゃん。途中でボロスに寄るんだろ?」

「えぇー、明日か明後日にしようよぉ。あたし疲れたぁ」

「私も少し休息を取りたいわ」

「レイ殿、せめて今日くらいは里に留まって欲しい。試して貰いたいこともある」


 リュオネルの左右に立つエウリナとオルネルもウンウンと頷いており、レイにしたって是が非でも帰りたいという訳ではない。

 ならば一泊するかという話になり、里では再びの大宴会が催された。


 塩が売るほど手に入ったからか、今回は前回よりも塩味のはっきりした料理が並んだ。レイは各種プロテインを主食にしている格闘バカなのだが、意外と味覚は鋭かったりする。特に鶏料理にはうるさい。焼き鳥(塩)が大好きだ。


「お? これ米じゃん。長いし赤いけど」

「オリュザ好きなの?」

「レイ様の故郷にもあるのね」

「俺らの国では主食だからな。もっと短くて丸くて真っ白だけど」

「そのオリュザは北側の沼地に自生している物だよ。そう多くはないけど欲しければ持ち帰るといい」


 ジンとユアが和食党なので喜ぶかもしれないと思いレイは大きく頷いた。

 和食党は米の味にも拘るので喜ぶかは微妙なところだが。


 宴もたけなわ状態がずーっと続いていおり、遂にミレアとシャシィが舟を漕ぎ始めた。深夜に起きたので何気にレイも眠いのだが、それを見て取ったリュオネルがレイを連れて大樹へ向かう。


 連れて行かれたのは大樹の中で、広すぎて気づかなかったが片隅には宝箱を想起させる大きな木箱がある。リュオネルは蓋を開けて中を見るよう促した。

 中には黒光りする金属塊が入っているものの、時折り銀色の閃光が表面や内部を走るという謎物質。


「なんかカッコイイ。金属だよな?」

「極鋼という金属だよ。その昔には神鋼と呼ばれていたそうだ」

「大層な呼び名だ。見た目も大層だけど」

「これを持ち上げられるか試してもらいたいのだよ。強化はなし、魔力的に拙いと感じたら直ぐに手を離すという条件でね」


 縦横高さにしてざっくり一メートル・二メートル・一メートル程あるため、「こんなモン持ったら体痛めるわ!」とレイは訝しむ。

 しかしリュオネルはいつもの朗らかスマイルを向けており、トライしない選択肢はないんですねそうですかと、木箱の横側から両手を伸ばす。


 手の平に伝わる感触はまぁ金属。しかし仄かに温かい。

 いや、極鋼が温かいのではなく、レイの手の平が温かくなっていく。

 その原因は直ぐに判った。

 この金属は、結構な量の魔力を吸い込んでいく。だから拙い時は手を離せと。

 レイの魔力を吸うにつれ、銀色の閃光が数と光量を増していく。


 いよいよ極鋼の底面に指先をかけた瞬間、「なんだかイケそうな気がする」と直感した。気合いを入れて力を込める。銀色の閃光が更に数を増していく。


「うおっ!?」


 極鋼はいとも簡単に持ち上がり、気合いと力を入れすぎたレイは仰け反った。


「ハハハ、そこまで軽々と持つとはね。レイ殿は宿星に導かれ訪れたのだね」


 重さを例えるならば、みっちり系の発泡スチロール。

 しかし持ち上げた瞬間、木箱は重量物から解放されたように軋みを上げた。

 レイはウェイターがトレイを持つかのように極鋼を手の平に載せ、空いた片手で叩いてみる。


ゴッゴッ


 普通に重量感のある籠った音だ。

 レイの脳裏に、姉から強制的に読まされたラノベの一節が浮かんだ。


「これってさ、選ばれし者だけが抜ける剣の材料、みたいな?」

「そんな剣があるのかい?」

「ないのかよー」(棒読み)


 そこはあってもいいんじゃねぇの異世界さん、とレイはガイア的な何かに問う。


「極鋼との親和性があるという観点なら、選ばれし者と言えないこともないね。何しろその極鋼、六頭立ての竜車で漸く運べる重さなんだよ。〝不壊性〟まで有すのだから凄いと思わないかい?」


 おもっきり〝竜車〟の単語に引っ掛かるレイだが、眠いので話が長引かないよう死力を尽くしスルーした。


「そりゃ凄いな。んで、コレをくれるって流れなんだろうけど、これで武装でも造れって? つーか、馬車で運べないだろ」

「レイ殿が持っていれば運べるだろう? 用途もレイ殿の自由だよ。ただ、大きな問題があってね」


 ずっと持っておくとか無茶を言うと思うレイだが、ジンとユアにも親和性とやらがあるならお宝ゲットだな、と思案する。


「んで、問題ってのは?」

「加工できる者がいない」

「はっはっはっ、使えねぇなオイ! 目ぇ覚めたわ!」

「今のは少し語弊があった。加工できる者を探すのが極めて困難、だね」


 この極鋼は、リュオネルが大賢者から預かり受けた代物である。


 何を隠そう大賢者がメイズの最奥から持ち帰った物の一つで、〝神匠〟の神紋を持つ鍛冶師を見つけられず、正しく宝の持ち腐れになっていたとか。

 なのだが、四〇年ほど前にふらりと現れた大賢者は『神匠が現れた』と告げ、里の門前に木箱を置いて立ち去ったという。


「かなり勝手なヤツ?」

「現世の物事に頓着なされないだけさ。持つべき者の役に立てろと言われ、私が預かっていたのだよ。頓着はなされなくとも、今の混沌たる時勢に想うところがあられるのかもしれないね」

「やっぱ不老不死なんて碌なモンじゃねぇな。呪い染みてやがる」

「そうだね。終わりのない生は、ゆっくりと人を空っぽにするのかもしれない。私もこの歳になって漸く気づくとは、まだまだ未熟だよ」


 レイが「未熟だから先に楽しみがあんだろ」と思ったところへ、瞼を擦りながフラフラ歩くシャシィとミレアがやって来た。

 聞けば大半の者が酔い潰れたらしく、ミレアも酒より睡眠が欲しいと撤退してきたそうだ。


 頭上の大虚から差し込む陽光はオレンジ色を帯びており、今寝ると夜行性になってしまうと一考し、極鋼を放り投げたレイは『面白いモン見せてやるよ』と言い皆でリュオネル宅へ入った。極鋼がほぼ地中に埋まったのはガン無視だ。


 バックパックからスマホを取り出して電源を入れ、画像や動画を再生していく。

 大半はジンとユアが映っている日常だが、シャシィとミレアのみならず、リュオネルも興奮した様子で食い入るように観賞している。


 どうやら動画の音声は翻訳されないようだが、映り込む自動車やバイク、電車や飛行機、大都会の街並みや夜景に三人は大興奮である。


「すごいすごい! 魔術より神秘的だよ!」

「誰も彼もが素敵な衣装を着てるわね! 戦闘には向かないけれど!」

「いや戦わねぇから」

「凄まじい技術だね…こんなに小さく薄い物が過去を映し出すとは…」

「魔導工学も似たようなモンだと思ってんだけど違うのか?」

「動力が違うだけで思想は似ているのだろうけど、これ程までに洗練されてはいない。レイ殿たちの知識を供与すれば、職人と商人ギルドが目の色を変えるね」

「あっ……うわぁ、ジン様って大した剣士なんだね」

「だろ? えーと、コレがユアん家の弓道場だ。ユアも中々の腕前だぞ」

「とても凛々しい衣装と立ち姿ね。普段はとても可愛らしいのに」

「ほぉ、長弓なのだね。我々の弓に形状が似ている」

「弓道は伝統を重んじるからな。えーと、こっちが現代式の弓だ」

「むっ、このヒト誰? すごくレイ様に馴れ馴れしいよ。胸大きいし…」

「ユアの姉貴のミユだよ。ユアが造る弓はこの型だな」

「確かに面持ちが似ているわ。胸の大きさも」


 ミレアも中々に大したモノをお持ちなのだが、レイもそこを掘り下げるほどのリアル愚者ではない。従ってスルーだ。


「この弓もまた洗練されているねぇ」

「素人でも的に当てるくらいは余裕の優れモノだからな」

「ほほぅ……欲しいね」

「ユアのが完成したら幾つか造って持って来てやろうか?」

「それは有難い。もちろん対価は払うからよろしく頼むよ」


 その後はレイだけ残って神匠についての話を聞き、ベッドに潜り込んだ。




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