表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/152

17:光るミレアの機転


 山間の河沿いで野営をしたレイたちは、日の出に合わせてヴェロガモの国境関に到着した。詰め所から出て来た兵士は五人だが、他にも数人いそうな気配だ。


 ギルド証を提示すると、三人共に四等級という事実に兵士が身構えた。

 下っ端らしい兵士二名が馬車の積載物を確認して『問題なし』を伝えると、身構えている兵士が口を開く。


「入国の目的は何だ」

「塩と穀物を売りに行くのよ。時期的に必要でしょう?」


 ニュールはアンセストが防衛拠点としていた地とあって、山間部に在る。

 城塞都市なので自国の農地はかなり南方にあり、塩や穀物の調達は重要事項だ。

 しかも麦の収穫が始まる直前であるため、穀物の備蓄が心許ないタイミングでもある。


「確かに必要だが…商人でもないお前たちがなぜ行商をする?」

「戦地に行きたがる商人なんていないでしょう? それに、ヴェロガモの農地はニュールから遠いわ」

「そんなとこへ売りに行けば絶対に買ってくれるよね!」

「売りきったら直ぐに帰るから、滞在許可は三日もあれば十分なのだけど?」


(よく回る口だなぁ)


 レイは上手いこと言うもんだと思っているが、ミレアとシャシィは「帰りが厄介すぎ」と考えている。そもそも売るつもりがないため、満載で行って満載で帰って来るのだから当然である。場合に因ってはエルフ付きだ。


 ともあれ、三日間の滞在許可証という名の木札をゲットした三人は、難なく城塞都市の外郭門を抜けニュールに入った。


「スゲー小ぢんまりした街だな」

「戦時に必要な場所しかないからね」

「例えば?」

「酒場、食堂、鍛冶屋、娼館、宿屋とか」

「エールの醸造所もあるわよ」

「へぇ…ってか、宿屋は必要か?」

「王都から来る将校たちが宿舎として使うのよ」

「なーる」


 見かけた食堂に入って質素な昼食を摂り、厩舎のある宿を尋ねて向かう。

 独り部屋などないらしく、ベッドが六つ置いてある大部屋を取った。


「さてどうすっかね」

「手始めに娼館を廻ってみましょう」

「はい?」

「エルフが働かされてるかもだよ?」

「あー、そういうのもあんのか」


 レイたちは手分けして娼館を巡ることに。シャシィはショタコンという設定らしいが、レイは「チビッ子がショタコンって…」と納得いかない様子。そんなレイに、好みのタイプを訊かれたら「細身の金髪」と言えとミレアが指導する。

 一軒目と二軒目は空振りだったが、ニュールで最高級とされる娼館で当たりを引いた臭い。


「細身の金髪はいるか?」

「少々お高くなりやすが上玉がいやすぜ若旦那」

「幾らだ?」

「銀貨五枚です、へい」

「クソ高ぇなおい。本当に上玉なんだろうな? 違ったら暴れっぞ?」

「見て気に入らなけりゃ金を返しやすよ」

「エライ自信じゃねぇか」

「へへっ、そりゃもう」

「なら買っとくか。(なんだかなぁ…)」


 案内された部屋には香が炊かれており、ベッドと大きな桶が置いてある。

 案内役の小男が出した白湯を飲んでいると、小男は桶に水を張り出て行った。


 小男と入れ違いで部屋へ来たのは、虚ろな眼差しの美少女エルフ。

 彼女は無言のまま小汚い服を脱ぎ、無言のままレイの服を脱がそうとする。

 レイは視線を逸らしつつ彼女を抱き寄せ、耳元に口を寄せて囁く。


「月森から来た」

「……えっ!?」

「静かに静かに。幾つか尋ねるから小さな声で答えてくれ。いいか?」


 エルフがウンウンと小さく首肯した。


「ここには他にもエルフがいるか?」

「二人…」

「どこにいる?」

「下の牢部屋…」

「ここ以外でエルフがいる場所を知ってるか?」

「領主のところ。私たちが連れ出された時は五人いた」

「そうか……ここは夜中も商売してんだよな?」

「してる。夜明けの鐘から昼の鐘までが寝る時間」

「なら明日、夜明けの鐘が鳴った後で来る。他の二人にも伝えられるか?」

「同じ牢部屋だから伝える。私たち月森に帰れるの?」

「何が何でも帰してやる。だから心配すんな」

「うぅ…ひっく…嬉しい…ひっく…」


 レイは頼むから泣くなと宥め、他にも幾つか質問をして部屋を出ようとするが、エルフから「早すぎる」と言われベッドに座り直した。おまけにベッドが軋む音を出さないとダメだと言われ、半目で盛大にベッドを揺らす。更には桶の水を周りに撒いて使った感を出し、漸く帰ってもいい許可をもらえた。


「んじゃまたな」

「うん、待ってる」

「その嬉しそうな顔のまま出るなよ?」

「あ、うん、気をつける」


 小男に「若旦那は激しいんですね」的なことを言われて宿へ戻ると、ミレアとシャシィは既に戻っていた。

 エルフの男娼はいないようだと報告され、レイも得た情報を伝えてどうしたもんかと相談する。


「ミレアとシィに娼館を頼みたいんだけど」

「独りで辺境伯邸へ行く気?」

「監禁場所は判ってんだから、夜明け前に突撃してみようかなと」

「独りで五人運ぶの無理だと思う。強化して抱き締めたら死んじゃうかも?」

「む、確かに…」


 素直について来るかも判らないとか、娼館のエルフはレイが来ると思ってるとか、シャシィが何やかんやと痛いところを突いてくる。

 すると、思案していたミレアが口を開いた。


「行くなら三人で行きましょう。そのまま娼館へ廻ってその足で門を突破する。強化すれば私とレイ様で八人くらい運べるわ。でも、決行は夜中よ」

「夜中も娼館やってんだぞ?」

「城壁門も閉まってるよ?」

「闇夜じゃないと住人を巻き込んでしまうわ。娼館の男衆なんてどうとでも出来るし、大樹に大穴を開けたレイ様なら門くらい破れるでしょう?」

「なるほどぉ~」

「ミレア賢ーい!」

「但し、罪人手配されるのは覚悟してね。国境関も突破するのだから」

「問題ねーな」

「ぜんぜんヘーキだよ。バレたら皆に怒られるだろうけど」

「間違いないわね」

「皆って誰だ?」

「クランマスターとか、アンスロト王家に」

「あぁそうか。俺は別にいいけど二人はヤバくね? 特にクランが」

「だからレイ様のせいにする」

「それしかないわね。除名は避けたいもの」

「それいいな、俺が命令したってことで。バッチ来いだぜ」


 しがらみがないレイは気楽なものである。


 早めに夕食を済ませ、スマホのアラームをセットしたレイたちは夜中までぐっすりと眠った。

 宿の玄関も閉まっているため部屋の窓からシャシィを抱いて跳び下り、馬を車体に繋いでから徒歩で城塞へと向かう。

 この世界で夜中に起きてる住人は娼婦、男娼、酔っ払いくらいなので街は静まり返っている。


 レイとミレアが殴り倒した門番二名をシャシィが氷像にし、通用口を抜けつつ視界内の警備兵もシャシィが氷漬けにしていく。

 強固な城壁に囲まれているからか、城内の警備兵は意外と少ない。


 地下へ下りる階段を見つけるのに少々手間取ったものの、一撃必倒で警備兵を処理しながら地下の牢獄を手分けして覗いていく。


「いたよー。こっちこっち」


 手招きするシャシィに歩み寄ると、牢の中には四人のエルフが恐々とした表情で身を寄せ合っている。が、レイ的に想定外だったのは、全員が一糸纏わぬ姿であること。ミレアとシャシィは予想していたようだ。


「シィ、【治癒】をかけてみて」

「もうかけた。舌を切られてないみたいで良かったよ。下種な理由だろうけどさ」

「貴女たち、声を出してみて」


 四人は恐る恐る発声し、次の瞬間には涙を流し喜びあった。


 純血エルフは漏れなく精霊魔術の資質を宿すが、行使できるのは精霊との契約を果たした者のみ。つまり、相応の年齢に達した者である。

 娼館に送られた三人は精霊と未契約のエルフで、おそらく幼少期に攫われたのだろう。


「私たちは月森から来たの。一緒に逃げましょう?」

「ほ、本当ですか?」

「嘘を言う理由があるかしら? 仮に嘘だとして、ここより酷い場所がある?」

「わ、私たちを連れて行ってください!」


 レイはミレアの巧みな話術と明晰な頭脳に舌を巻く。ジンの女版かよ、と。


「娼館の子から聞いた人数より一人少ないのはなぜ?」

「レレルカは…たぶん殺されました…」

「なら貴女たちが彼女の分まで生きてあげなさい。それが生き残った者の務めよ」

「「「「はい!」」」」


(ミレアってマジすげぇわ)


 レイが強化レベルを5まで上げたところで鉄格子が曲がり、四人を先導して城塞を脱出した。領主の顔を見れなかったシャシィは城塞を睨みつけ、グッと拳を握ってから身を翻すのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ