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148:新事実


 ホワイトライノのキャビンには、フルフラット可能なブース型シートが一二席ある。良質な休息と睡眠を得られるよう幅一二〇〇ミリ、長さ二〇〇〇ミリなのだが、キャビンはブリーフィングルームとしても使える仕様だ。


 高さ一六〇センチのブースパーテーションを八〇センチまでスライドダウンすると、フロント側の隔壁に天井のプロジェクターが投影する画像や映像を観ることも出来る。ワイヤレススキャナは各ブースの前方パーテーションにマグネットで付けてあり、プルダウンデスク用のデスクライトにもなる親切設計だ。


 スキャンしたノートを投影したレイが、ペン型の光球ポインタを使って斯く斯く然々と説明していく。最後にルジェが「魔力枯渇に至った過程と回復過程の二点に絞って記憶を呼び起こすべき」と補足した。


「つーことで、シィとルルは何か心当たりあるか?」


 問うと、シャシィがスッと手を挙げた。


「あたしね、お師匠に『最後の一滴を上手に使いきりなさい』って言われてた」

「やはり月森の民は侮れませんわ。実際にはどうやりましたの?」

「魔力が残り少なくなったら、小さくて暗い【光球】を繰り返すの」


 【光球】の仕様を知るルジェは納得の表情を浮かべ、明らかに解かっていない風情のレイに残念な眼差しを送りつつ説明を始めた。


 【光球】の大きさは魔力量に依存し、照度は魔力強度に依存する。よって、可能な限り小さく暗い【光球】の消費魔力量は1になり、それを繰り返せば魔力量ゼロで枯渇に至る。

 要するに、リュオネルは「マイナス量ではなくゼロ量で枯渇すべし」とシャシィに教示した訳だ。


 レイは『へぇ~』と声を漏らしつつも、納得いかない表情を浮かべる。魔術至上主義を標榜していたユーグルの民が、「そんなことも知らなかったのは変だ」との思考である。


 一方、ルジェは至極得心できるといった風情で口を開いた。


「ユーグルの時代には辿り着けようもない手法ですの」

「お師匠も〝現代ならではの方法〟って言ってたような? 意味は分かんなかったけど」


 レイたちがルジェに目を向けると、ルジェならぬノワルが口を開いた。


「現代と当時を比較すれば、ユーグル人の内包魔力量が桁違いに多かったのではないでしょうか。消費魔力量に気を配る必要がないくらいに」

「ほぼ正解ですの」

「やるじゃんノワル」

「ありがとうございます。では今夜抱いてください」

「アレか? 消費量1みたいな術式がなかった的な?」

「その理解で構いませんわ」


 ノワルはガン無視されたにも拘わらず、『くふふ♥』とキモイ声を漏らす。

 最早レイのリアクションなら何でもご褒美になるらしい。

 そんなノワルを置き去りに話は進む。


「じゃあルルはどうなんだ?」

「確証はないのだが、初めて修得した武技の【刺突】が原因かもしれない」

「そう言えば、修練生になった頃は細剣(レイピア)を使っていたわね」

「うむ、あの細剣は私の宝物だ」


 ルルは能視の儀で〝長剣士〟だと判明し、メイズ都市ボロスで身を立てると決意した。ルルの養母はその決意を応援すべく、長剣を買い与えようとした。しかし、数打ちの使い古しでも長剣は高価だったため、養母は申し訳なさそうに「これしか買えなかった」と中古の細剣をルルに贈ったという。


 それでもルルにとっては最高の贈り物であり、彼女はアンセストへ向かう商隊の小間使いをするという同道条件で故郷を旅立った。商隊の護衛だったハンターパーティーに鎧刺し(エストック)を得物とする女剣士がおり、ルルは旅の道すがら手解きを受け、武技【刺突】を会得した。


 喜び勇んだルルは【刺突】を使いまくり、初めて魔力枯渇の辛さを思い知ることとなる。小間使いの仕事を熟すという条件だったにも拘わらず寝込んだため、商隊長にめちゃくちゃ怒られたそうだ。


「消費魔力量を確認すっから【刺突】やってみ」

「承知した」


 ルルは長剣を抜いて胸の前で手首を返すように構え、鋭く踏み込んだ。


ヒュッ!


「おー、22になった。消費1で決まりだな。んじゃやってみるか」

「レイ様、シオの武技は消費量がもっと多いの」

「イリアの術式も消費が多いですか?」

「私もそれ程までに微量な魔力を制御する技能はないのだがな」


 シオ、イリア、ゴートの発言に対してミレアとロッテが同意するように頷いた。

 すると、レイがどこか呆れたような顔で口を開く。


「そんなチマチマやるワケねぇだろ? ドレインのスペシャリストがいるっての」


 背後から纏わりついているルジェを、レイが親指で「コイツ」と指差した。


「わたくしが寸分違わず奪ってあげますわ?」

「「「「「「「あ~」」」」」」」

「なるほど、レイは時折り賢いな」

「やかましいわヒツジ。魔力ゼロで外に放り出すぞ」


 覆魔ができない状態で放り出されると凍える。地味に厳しいお仕置きだ。


 とういう訳で、検証を兼ねた魔力枯渇作業が始まった。

 ルジェがブース間の通路を歩いて行けば、次々と呻き声が上がりぐったりとシートに身を沈めていく。


 その様子に楽し気な表情を浮かべるレイは、各人用の魔晶を【格納庫(ハンガー)】から出し手渡しながら指示を飛ばす。


「測定すっからフル充填でキープしとけよ」


 魔晶を配り終えたレイはシートに座り、其々の魔力を感知しつつノートのページを捲って書き始めた。


ゴート :◆初期値:433 ◆枯渇回数:1回 ◆最大値:866

シャシィ:◆初期値:75  ◆枯渇回数:1回 ◆最大値:262

シオ  :◆初期値:68  ◆枯渇回数:1回 ◆最大値:136

イリア :◆初期値:347 ◆枯渇回数:1回 ◆最大値:694

ノワル :◆初期値:43  ◆枯渇回数:1回 ◆最大値:86

ミレア :◆初期値:25  ◆枯渇回数:1回 ◆最大値:50

ルル  :◆初期値:23  ◆枯渇回数:1回 ◆最大値:46

ロッテ :◆初期値:26  ◆枯渇回数:1回 ◆最大値:52


「なるほど…っておかしいだろ! おいシィ! なんでお前だけクソ増えてんだ!」

「えっ? えっと、自分でも多い気はしてるけど…どれくらい増えてる?」

「75が262まで増えてる。シィ以外はちょうど倍だ」

「興味深いですわ」


 レイとルジェがシャシィの席へ歩み寄り、腕を組んで見下ろす。

 当のシャシィは原因に見当がつかないらしく、小首を傾げ視線を彷徨わせる。


「おそらく充填のやり方に原因がありますわ?」


 ルジェが言うと、何かに思い至った風情のシャシィが視線を上げ口を開く。


「魔力路を延伸させた時みたいに体と魔力槽に充填したから、かも?」

「循環の速さと量を上げて押し広げるように、って意味か?」

「うん」


 魔力循環による魔力路の延伸は、末端へいくほど難易度が跳ね上がる。

 これこそミレアが殻化へ至れなかった原因であり、爪を含む指先や足先の魔力路を延伸させるには、一定以上の流速と流量で圧力をかけねばならない。


「スゲーありそうな気がする」

「わたくしには判らない感覚ですわ?」

「あん? 魔力路の延伸したことねぇの?」

「冥界生まれの魔力路は、成長に合わせ自然と延伸しますの」

「え…お前ってさ、実は殻化できたりすんの?」

「当然ですわ?」

「マジっすか。スゲーっすね」


 ルジェの新たな化け物っぷりが発覚したところで、レイが皆を見回した。


「シィ以外は初期化アゲインで」

「そうなるわよね…」

「むしろ望むところだ」

「「「「「……」」」」」


 予想していたミレアは諦めの境地に至っており、ゴートは無駄にモチベが高い。

 他の六人は無言のままシートに背を預け項垂れた。

 ともあれ、ルジェが再初期化を行い、レイが充填方法を厳命した。


ゴート :◆初期値:433 ◆枯渇回数:1回 ◆最大値:1515

シオ  :◆初期値:68  ◆枯渇回数:1回 ◆最大値:238

イリア :◆初期値:347 ◆枯渇回数:1回 ◆最大値:1214

ノワル :◆初期値:43  ◆枯渇回数:1回 ◆最大値:150

ミレア :◆初期値:25  ◆枯渇回数:1回 ◆最大値:87

ルル  :◆初期値:23  ◆枯渇回数:1回 ◆最大値:80

ロッテ :◆初期値:26  ◆枯渇回数:1回 ◆最大値:91


 結果は一様かつ劇的であった。

 数値でみれば初期値の2.5倍+初期値で、小数点以下は切捨てになるようだ。

 この増加率が何回目まで続くかは判らないものの、ゴートとミレア隊の戦力が脅威的に向上するのは確定である。


 魔力量増加の要件が明らかになったことを受け、レイは今後のトレーニングとスケジュール観を隔壁に投影する。

 早朝トレーニングについては魔力消費が激しい強化を封印し、生身の運動能力を向上させるべく、個別に組んだメニューとその効果や注意点を解説。


 朝食後のトレーニングは昼食をはさむ二部制とし、第一部は魔術師と物理職に分かれ、座学を中心に技術や技能の知識向上を図る。第二部はミレア隊vsルジェ、ゴートvsレイのエンドレス模擬戦を行うといった内容。

 ゴートとミレアを除くメンバーの殻化修得については様子を観ながらになるが、基本線は日に一回の魔力枯渇回数が五回を超えたタイミングで始める予定だ。


 この日を皮切りに、ゴートでさえ顔を歪める鬼のトレーニングが開幕した。


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