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143:レアドロップの謎


 初めて入った守護者部屋は、正しく圧巻である。


 何の飾り気もないが、ざっと三〇〇メートル四方はあり、天井高に至っては目算できな程に高い。悪辣にして厭らしいのは、追い込むための構造としか思えない袋小路が幾つもある点と、所々に何も見えないだろう闇が落ちている点だ。


 背後で勝手に閉まり始めた扉の音を聞きながら、レイが口を開く。


「あのクソ暗いとこは光球浮かべるか魔力感知しねぇとカモられるな」

「避けて戦うのが常套よ」

「普通の魔力量で出した光球だとすぐ消されちゃう」

「入った途端に魔力感知の感度も落とされます」

「そりゃまた殺意全開だな」

「そろそろ魔力が欲しいですわ?」


 レイがゴミ虫を見るような目をルジェに向けた。

 TPOガン無視かよ、と。


ガコォン…


 扉が閉まりきった音が響くと同時に、前方の床が裂け始めた。

 中央でバックリ裂けていくのが一つ、左右でパックリ裂けていくのは八つ。


「おいおい、でけぇワン公だな」


 中央にゆっくりと浮き上がってくるのは、マッシブなドーベルマンっぽい犬。

 全長は過日の緑竜と同等に巨大だが、見るからにしなやかな体躯をしている。

 左右に四体ずつ浮き上がってくるのは、ハイエナを想起させる取り巻き。

 こちらは上層のコンセプトに合わせているのか腐肉が目につく。

 比較的に小さく見えるものの、キーンエルクの幼体くらいはありそうだ。


 レイは「ハイエナってネコ系じゃなかったっけ?」と思うものの、そもそもハイエナではないのでどうでもいいだろう。


「デカいの倒したら取り巻きが消える的な優しさは?」

「ないわ」

「ですよねー。折角だし全力で戦るか」


 刹那に噴き上げた鮮紅を置き去りにレイが消――。


ゴシャズズズズズズズズシャッッ!!!!!!!!!


「意外と柔らかかった」


ボボボボボボボボボバッ…


「速すぎですわ?」

「腹へってんだよ。レア拾って箱開けて帰る」

「「「………」」」


 元の位置へ【空間跳躍(スペースリープ)】で戻った後に霧散が始まったという瞬殺劇。

 漏れなく頭を破砕したのだが、ルジェも目で追えていないため劇ですらない。

 最弱の守護者とはいえ、ひと吼えもさせてもらえないのは憐れである。

 魔王が半目になっているかもしれない。


「私たち二時間近くかかったわよね?」

「あたし二回死にそうになったよね?」

「私は魔力枯渇寸前でしたよね?」


 記憶を確かめるように疑問文を言い合うミレアたちを引き連れ、ウザ絡みするルジェに魔力をくれてやりながら魔核の横に落ちているレアドロップへと歩み寄って行く。その顔は「してやったり」と言わんばかりの笑顔だ。


「二〇階にしては上等な魔剣ですの」

「だろ? 狙いどおりジンが造らせたヤツより厳つい。魔力も一〇倍近く籠もってんぜ」

「え? 狙いどおりって…それどういうこと??」

「あの扉は触ったヤツの願望とかも読み取る、はず、たぶん」


 ミレアたちが先々の守護者戦で欲しいモノを落とせるようにと、レイは仮説の内容を語っていく。


 誰も喜ばなかった物が落ちた話を聞いたことがないとか、ミレアたちが初めて戦った時はイリアの致死が最も大きな懸念材料だったとか。

 決め手になったのは、普段から「俺たちは金持ちになるため潜ってる」と豪語して憚らないパーティーに、宝石で飾った鞘に収まる純金製の剣が落ちたこと。


 絶妙な加減で願望や欲を満たすドロップが仮説を肯定するものだったため、現在の技量に見合っていない魔剣を使うジンのため、「めちゃくちゃ頑丈で切れ味バツグンの野太刀っぽい魔剣が欲しい!」と念じ想い浮かべながら扉を開けた。


「レイすごーい! ジン様が喜ぶね!」

「ジン様とユア様が重要な局面でレイ様の意見を必ず求める所以ですね」

「本当に凄いわレイ。ルジェは『賢い』と呟いていたけど、知っていたの?」

「常に独りのわたくしに欲しい物ばかりが落ちれば、そう考えるしかないですの」

「お前そういうこと魔王に聞いたりしねぇの?」

「魔王に尋ね事をするなんて嫌ですの。頭を低くさせるのは好きですわ?」

「いい性格してやがる」

「賢者の管理を頼まれた時は跪かせましたの。愉しかったですわぁ♪」

(こいつには頼むんじゃなくて命令しよう。うん、そうしよう)


 微妙にズレたことを決心しつつキョロキョロすると、いつの間にか入って来た扉の対面に普通サイズの扉が出現していた。


 扉を押し開け抜けると、帰還部屋は守護者部屋より一回り小さいが、野営するには十分すぎるほど広い。焚火の跡も多々あり、聞いたとおりド真ん中には大きな宝箱が鎮座している。ロッテが余裕で寝れるサイズ感だ。


 【格納庫(ハンガー)】から鍵を出したレイがスタスタ歩み寄ると、小走りのシャシィがジャージの袖を引っ張った。


「ん?」

「罠があるかも? 宝箱から魔力は感じないけど、鍵に大きな魔力が籠められてるのは怪しいよ」

「言われてみればそうだな」


 宝箱の前に立ったレイが、網状にした魔力で宝箱の構造を調べ始めた。

 すると、単純な二本の魔力回路だろう構造はあるが、不可解なことに回路は箱の底で魔法陣に似た複雑な模様を描いて床下まで伸びている。もっと不可解なのは、中に宝物らしき物体が入っていないこと。


(開けたらドカンとかか? いやいや、欲しいモン出した直後に殺るとかアホすぎる。……これもしかすっとレアドロップと同じ系か? どうにか確認する方法ねぇかな…………あ、そうだ)


 宝箱の前で胡坐をかいたレイが、【格納庫(ハンガー)】からブラックスケルトンと守護者の魔核を取り出して床に置き、網状魔力で内部を調べ始めた。


(ぐふふ…俺ってマジ天才かよ。これコピれればジンたちが喜びそうだけど流石にムリだな。んや、コレ持って帰ればいいだけか)


 魔物が魔核を落とすことは不思議じゃないが、隠室に出たガストのレアドロップは不思議だった。魔核は魔物のエネルギー源だろうから落として当然とも言えるが、レアドロップはどうやって生成されるのかという疑問だ。

 特に守護者は、扉が読み取った情報を基にレアドロップを生成したはずなので、魔力を物質化する何かがないと辻褄が合わない。


 そこで魔核を調べたところ、バングルの極鋼と同じように魔法式が封じ込められていた。二つの魔核に封じられた魔法式は似ているものの、守護者の方が圧倒的に複雑だ。その複雑さ具合いが箱の底に描かれた模様に似ているとくれば、最早結果がどうなるか判ったも同然である。


(ん、こいつはミレアだな)


 ミレア隊の前衛を張るミレアとルルについて、レイは前々から両者の武器に物足りなさを感じていた。特にミレアは二刀や二剣ではなく双剣とあって、刃渡りが短いため斬撃の威力も低い。加えて魔剣の類でもないため、折角の魔力制御技能をブーストにしか活かせていない。


「ミレア、たぶんこの箱も守護者のレアドロップと同じだ。ぶっちゃけミレアの双剣しょぼいからさ、最強で最凶な魔双剣をイメージしながら開けろよ」


 ミレアは瞬間的に歓喜を浮かべたが、直ぐさま逡巡する表情に変わりシャシィとノワルの間で視線を彷徨わせた。


「あたしはいいと思うよ」

「私も最良の判断だと断言します。次点はルルさん、その次はシオさんとロッテさんだと思っていました」

「シィ、ノワル、ありがとう。遠慮なく開けさせてもらうわ」

「そんな涙目になることじゃないってば。ね、ノワル」

「ミレアさんの武器について、シィさんと私はジン様に相談したばかりです」

「マジか。ジンなんて言ってた?」


 二人でミレアとルル、シオ、ロッテの武装をどんな物に更新すべきか尋ねたところ、一年後を想定したジンは『超一流の魔工鍛冶師に発注しても大した物は造れない。俺がいい見本だ』と答えたそうだ。


「シィとノワルとイリアも一年以内に更新する必要があるでしょう?」

「あたしたちはすっごい物が手に入るもーん♪」

「一年後でも持て余すと予想しています」


 ユアを含む魔術師チームは、インテリ勇者ジンの積層回路技術を修得した神匠セシルが、魔装技術を発展させた系統別特化型アクセサリーという、世界最高峰にして唯一無二の魔術発動体を造れる。というか、既に設計を終えている。

 このところセシルが引き籠っていた原因である。


「つーことはだ、八〇階層のドラゴンぶっ飛ばせば全員分が揃うな」

「ほんとだ!」

「メイズ攻略が楽しみです。ミレアさんも納得せざるを得ないのでは?」

「ふふっ、もう納得するしかないわね」

「んじゃミレア、がっつりイメージして開けろよ?」


 真剣な眼差しで深く頷きながら鍵を受け取ったミレアが、胸の前で鍵を握り締めて瞑目し、魔双剣のイメージを高めていく。

 一分、二分、三分と時が流れていき、カッと目を見開いたミレアが鍵穴に鍵を挿し込んだ。


カシュン…ヴォンッ…チャキッ…ギィィィ………


「うっわ、色々ヤベェけどミレアのイメージが一番ヤベェな」

「中々に良い趣味ですわ? ニグレの咒殺剣より禍々しいですの」


 自ずと蓋を開けた宝箱の中には、湾曲する漆黒の剣身と深紅の刃が、禍々しくも艶やかな光を湛え抜き身で入っている。双にして対を誇示するかの如く、柄の拵えが合身(あいみ)の一振りだと物語っていた。


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