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142:欲しいモノ


ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオォオッッッ………


 轟音が耳をつんざき、爆発的に舞い上がった粉塵が辺り一帯を包み隠す。

 控え目に言ってもやり過ぎである。


「ごほごほっ、ぶはっ、おぇっ! ちょノワル! 風で押し流してくれ!」


 頼まれたノワルが「ご褒美は何をもらおうかしらん?」と考えながら、粉塵を回廊の奥へ奥へと押し流していく。


「上層は破壊不可能じゃなかったかしら?」

「そこはほら、レイだから?」

「レイ様、ご褒美に添い寝を希望します。添い寝だけです。何もしません」

「ナンパ野郎のセリフじゃねぇか。却下だ」

「分かりました。凄いことを色々しますから添い寝してください」

「言葉と態度が合っていないわよ?」

「ノワルほんと可愛くなったね」

「お前さ、恥ずかしいなら言うなよ」


 過日以来、感情表現が豊かになったノワルは、耳先を赤らめモジモジしながらの上目遣いなのだが、さておき。


 レイはインパクトの直後に敷板を【格納庫(ハンガー)】に収めたのだが、ブラックスケルトンがいた位置の床が一〇センチ近く陥没している。敷板と同じ長方形の陥没痕は、ボルトを打ち込む丸穴部分が凸になってたりする。


 そこには普通のスケルトンより色が濃い魔核と、複雑な形の金属片が。


「うっし出たぜレアドロップ。何気に魔力溜め込んでっけど何だこれ…カギか?」


 レイの手を覗きこんだミレアたちが、数拍置いて顔を見合わせた。


「心当たりが一つ浮かんだのだけど?」

「あたしも。たぶん当たりだと思う」

「お二人に同意します。常軌を逸した一撃が出現条件かもしれません」

「ケンカ売ってんのかコラ。つーか俺にも分かる話をしやがれ」

「二〇階にある箱の鍵ですわ?」


 頷いたミレアたちがそう考えた理由を問うと、ルジェは他に思い当たる物がないと答えた。ルジェはメイズその物の仕様に詳しい訳ではないようだ。

 そう判じたミレアは、不満気な顔のレイに苦笑しながら口を開く。


「解き明かされていない謎がメイズに多いことはレイも想像がつくでしょう?」

「おう」

「守護者を打倒して抜けた先の広間にある宝箱も、大きな謎の一つなのよ」


 そう前置きしたミレアが説明を始めた。


 二〇階層ごとにシーカーの行く手を阻む守護者を打倒した先の広間には、地上の石室へ転移できる転移陣があり、界隈では「帰還部屋」と呼ばれている。


 帰還部屋は魔物が出現しないため野営地としても使われるが、広間の中央には大きな宝箱が鎮座している。木製の箱を鐵で補強した古めかしい箱にも拘らず、押そうが引こうが微動だにせず、寄って集って壊そうとしても傷一つ付かない。


 宝箱にちょっかいを掛けるのは初めて守護者を倒した新人と相場が決まっており、新人以外にとっては気にも留まらないオブジェクトと化している。


「あたしね、セシル様に頼んで大賢者様に尋ねてもらったんだけど、大賢者様も開ける方法は知らないんだって」

「へぇ、そいつは開けなきゃなんねぇな」


 言ったレイの手に懐中時計が出現した。ミレアが半目になる。

 保護キャップをパカっと開けば、時刻は一四時一三分。

 レイがニヤっと笑んで顎をしゃくった。


「もぉ…」

「あたしは全然いいよ?」

「私もいいですけど、年明け早々臭くなりますね」

「それはあるねぇ」

「そういや臭ぇゾンビが出るんだっけか。まぁ跳べば大丈夫だべ」

「わたくしの再生でも臭いはなくなりますの」


 ミレアたちが「人外は便利すぎ…」と内心を一致させた。


「魔物はガン無視で行くから掴ま…んや、三人で密着しろ。お前はおんぶな」

「畏まりですの」


 密着したミレアたちに両碗を回し、ルジェが背にしがみつくとレイは指向性魔力を飛ばしながら【空間跳躍(スペースリープ)】で空中へ上がり、【宙歩(ミデアステップ)】でぐるっと三六〇度の探索を始めた。

 探索するレイはあっちへこっちへと向きを変えながら、『えーと、次はあっちか。あっれぇ? あぁこっちか』などと呟いている。


「何をしているの?」

「今喋りかけんな」


 問うたミレアをレイがすげなくあしらうと、ルジェが口を開いた。


「階段を起点にここまで魔力線を引いてますの。大した制御能力ですわ」

「そんなことも出来るのね」

「普通はムリだよ。あたしが魔力線を伸ばせるのってあの壁くらいが限度だし」

「距離も驚異的ですが、魔力線は維持が物凄く難しいです」


 一〇分程かけて魔力線を引き終えたレイが、『よし行くぞ』と言って連続跳躍を始めた。上層は回廊になっているため、レイは突き当りの壁や曲がるべき地点まで魔力線を道標に跳び続ける。


 順路を記憶しているベテランが走っても一時間はかかる道のりを、レイは五分とかけず跳破した。


「ほんとズルイわ」


 階段を降りるレイの背後でミレアが呟く。


「アホか。今日は時間がないから特別だ」


 仲間と道に迷い戦いながら征かねば、強くはなれず経験も積めず楽しくもない。

 単に下へ行くだけなら、とうの昔に行けるところまで独りで行っている。

 そうレイが続けると、ミレアは『ごめんなさい』と言いレイの背に手を添えた。

 ミレアたちが惚れなおしたことには気づいていない。


 気づけないラブコメ要素を盛り込みつつ、やって来ました二〇階層。


 幅広で長い廊下の最奥に、重厚で凝った意匠の両開き扉が見える。

 扉の内部には理解できる気がしない複雑な魔力回路が縦横無尽に走っており、ジンが興味を持ちそうだなと思いながら歩を進める。


「つーかさ、マジで人少ねぇのな。ヒマな連中がもっといると思ってたわ」

「何人かいたんだ?」

「一三人いた。六人と七人のパーティーな」

「無神論者のパーティーですね」

「つーと?」

「信仰を深める日に潜れば神に見放される、と云われているからよ」

「ははっ、一番偉い神が破壊神だそうとしてんのなんざ知らねぇわな」


 笑いながら出した懐中時計の時刻は、一九時二八分。

 レイは「ジルとシシリーが不安になってるかもしれない」と思うも、「酷い暮らしをしてたんだから逆に楽しんでるかも」と思い直した。


「なあ、守護者もレアドロップあったり?」

「初めて戦う守護者は必ず一つ落とすわ。魔王からのご褒美といったところね」

「あたしたちの時は〝護りの聖珠〟だったよ。イリアにぴったりで嬉しかった」

「防御が上がる系?」

「致死の一撃を一度だけ無効化する紫紺の珠です」

「へぇ、魔王も結構いいモン出すじゃん」

「欲を煽って先へ進めるための餌に決まってますわ」

「「「えっ…」」」

「なぜ驚きますの? メイズを創った死神の目的を考えれば当然ですわ?」

「まぁそんなとこだろな」


 レイが思考を巡らせ始める。


 アマチュアだったため優勝しても賞金など出ないが、第一シード権はもらえる。

 アマチュアの決勝トーナメントはファイナルまで連戦とあって、召喚された日に出場していた決勝トーナメントは、初優勝した前年と比べ物にならないくらい体力的な余裕があった。

 だから油断して肘打ちを食らったという汚点もあるが、アマチュアにとってトーナメント連覇の実績は、プロ転向時のスカウト数や待遇に大きく影響する。

 レイにしても、シード権を獲得することこそが最大の目的であった。


 欲を煽ることが魔王の目的ならば、魔王が戦う者たちの欲に見合ったレアドロップを設定する可能性はある。例えば、あの複雑な魔力回路が走る扉に触れた者の欲を読み取るとか。場合によっては的外れな推論になるのだが。


「守護者に勝てば二回目からは戦るかどうか選べるんだよな?」

「選べるわよ」

「でも扉に触って開けるのは誰か一人だよな?」

「答えは否だけど、レイが何を知りたいか判ったわ」

「修練生じゃないから知らなくても仕方ないよ」

「レイ様は筆記試験も免除でしたから、知らなくて当然と言えます」


 結論から言うと、回数に関係なく全員が扉に触れる。

 当然ながら、打倒未達成者がいれば守護者は出現する。打倒した以降においても、扉に触れなかった者が進入すると出現する。更に、全員が打倒達成者であっても、誰かが「戦う」と思考した場合も出現する。


「ほっほー、こりゃ当たるかもだな」

「何か思いついたのかしら?」

「ハズレだったらハズイから内緒だ。そんで扉に触んのは俺だけな」

「「「?」」」

「フフ、意外と賢いですの」


 他にも幾つか質問したレイは、扉の前に座り込み思案を始めた。「欲しいモノを何にしようか。どうすれば欲しいモノを落とせるだろうか」と。


 レイ自身の欲を読み取られてしまうと、自分で言うのも難だが半目になるようなモノが落ちそうだ。猛者な人形とか。詰まる所、ジンにとって有用なモノにするか、ユアにとって有用なモノにするか、はたまたミレア隊の誰かにとって有用なモノにするかの選択。


 一頻り思案して欲しいモノを決めたレイは立ち上がり、欲しいモノのことだけで頭を一杯にし、扉に触れながら押し開けた。


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