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131:転移ポータル


 大鍋六〇個予定の料理が半数ほど仕上がったある日の朝、このところ通信オンリーだったボロスへミレアたちを伴い参上。

 クランハウスの一階ホールで待っていると、ルル、ロッテ、イリアが疲れた様子でやって来て腰をおろした。


 まだ回復率は低く速度も遅いようだが、朝トレをサボっていない証拠なのでレイは満足気である。片やで、不思議そうな顔のシャシィが口を開く。


「【治癒】と【疲労回復】してもらってないの?」

「光術師を捕まえるのも面倒だからやってないね」

「受けずとも耐えられるくらいにはなったということだ」

「イリアも平気ですか!」


 メイから独身寮の内装工事があと十日程で終わると聞いているレイが、それに合わせて引っ越せと三人に言った。

 すると、ルルとイリアがロッテに目を向ける。


「休みの五日間は一緒に過ごすって子供らに言っちまったからね」


 ミレアたちが納得の表情を浮かべ、レイは「転移ポータルのこと言うの忘れてた」と思い出し口を開く。


「こっちの家とアレジアンスを転移できるようになるぞ」

「「「「「「「??」」」」」」」


 揃って首を傾げられるほど何も言ってなかったっけと思いつつ、セシルが既に熔けた分の極鋼で転移ポータルのコアユニットを組み上げたと話す。

 残るは魔力波動認証で起動する制御ユニットの組み立てとドッキングで、動作確認テストは三日後にレイがやる予定だ。


 因みに、転移ポータルは床の一画を切り取り埋め込む造りにしており、これは一見して魔導装置だと判らないよう絨毯やラグで隠す意図がある。


「帝都へ行ったのは体に着ける錘を造るためじゃなかったのね」

「そっちは後回しにした。残ってる極鋼を熔かして【食料庫(パントリー)】に放り込むことにしたんだけど、全部熔けんの出発した後になるんだわ」

「つまりアレかい? あたしらはいつでも好きに行き来できるってことかい?」


 レイが一つ頷いた。ミレアたちが驚きと感心の顔を見合わせる。


 三日後の動作確認テストが成功裏に終われば、転移対象者の魔力波動を解析し登録することで、レイがいなくとも任意に転移可能となる。

 ボロス邸の設置場所はこれから行って決めるのだが、アレジアンス側は第二工場に併設された製品保管庫の一画を区切り個室を設けた。


 第二工場の地下には魔晶二〇個を並列にした魔力分配供給装置と、大型の魔力充填装置が設置してあり、アレジアンス全域への供給源になっている。

 要するに、転移ポータルを併設の保管庫内に設置すれば、魔力供給ラインの敷設が楽だったという単純な理由である。


「これバレると大騒ぎどころじゃねぇらしいから家族にも言うなよ?」

「口が裂けても言えないわね」

「転移口ってさ、その気になればどこでも置けるの?」


 レイが再び頷きながら『制限はあるけどな』と言った。


 【質量転移(マストランスファ)】魔法式の情報量が膨大なため、直径五センチ級の真球極鋼が必要になるものの、それを造れるだけの極鋼が残っている限り転移先は増やせる。

 但し、転移可能な座標リストはコピーした時点の魔法式に含まれている分だけなので、レイは「制限がある」と言った訳だ。


 セシルが単独で帝都オルザンドを行き来できるようにするが、それ以上増やす予定はない。が、セシルはバングルの極鋼が直系六ミリという点を究明する気らしく、もし解明できれば極鋼の必要体積は一〇分の一以下に減る。

 つまり、同盟国の首都に転移ポータルを設置できる可能性がある。

 ともあれ、帝都への転移に関してはジンも助かると言っていたし、ユアはショッピングに行けるから嬉しいと言っていたので、設置場所を検討している。


「帝都で買い物…」

「お金はたくさんあるよね…」

「シオ堕落しそうなの…」

「私はレイ様が行く時にしか行きませんよ?」


 ノワルが背伸びをして「ね? ね?」とレイに顔を近づけ、レイは鬱陶しそうに押し退けた。


「メイズに長期潜行する時くらいの荷物を纏めなきゃならないね」

「うむ、ロッテはそうなるな」

「イリアも全部持って行きますか?」

「待て待て、イリアはこっちの家で一緒に住むんだろ?か!」

「そうでしたか♪」


 朝トレは一緒にやった方が効果も効率も上がるといった話をして、ロッテ、ルル、イリアの三人は其々別方向へ歩いて行った。

 ロッテが自宅へ向かったのは判るし、ルルが居室へ行ったのも判る。が…


「イリアはどこ行くつもりだ?」

「あの子の装備はマスターが整備と管理をしてるのよ」

「実妹だからって過保護だよねー」

「マスタはイリアが可愛くて仕方ないの」

「瑠璃に来た頃はそういう関係だと勘違いしていました」


 レイは「実の娘だもんな」と納得しつつ、ミレアたちを促しボロス邸へと向かった。


 ルジェの居室へ行くと、真冬なのにレイが目のやり場に困るスケスケの薄着で、おもっきりアンニュイな雰囲気を垂れ流している。


「もぉ、やっと来ましたわ? レイの魔力が欲しいですの」

「は?」


 レイが「お前ナニ言ってんだこのエロサキュバス」と問えば、ルジェはレイとの同居が決まって以来、街行くシーカーからの魔力ドレインを止めたという。

 ルジェは存在しているだけで結構な魔力を消費するらしく、ざっくり日に五〇〇人前後のシーカーから、バレない程度の魔力を奪っていたらしい。


 ルジェは特性的に純魔力、つまり無波動魔力を吸収すると能力低下を引き起こすため、この世界の都市で最も魔力総量が多いボロスに住み着いている。


「悪魔だからってことか?」

「冥界生まれと言って欲しいですわ? 中でもわたくしは特異ですの」


 基本的に、冥界生まれは位階に関係なく恨み、妬み、嫉み、悪意、害意、殺意といった瘴気源を内包する魂を食らうか、それに相当する魔力を摂取しなければ弱体化していく。


 しかし、ルジェという名は冥界で〝無垢〟を意味する言葉であり、嘗て冥王にルジェと名付けられた特異個体の彼女だけは、瘴気源を内包する魂を好まない。

 正確には、もし食らうと能力低下どころか能力不全を起こすらしく、美味に違いないレイの魔力に目を付け、件のアンティークショップを設け誘導した。


「超ピンポイントかよ」

「光栄に思うがいいですの」

「やかましいわ。で、俺が魔力を流し込めばいいのか?」


 ルジェが妖しく舌なめずりをして口を開く。


「挿入してもいいですわ? わたくしがお口でするのも悪くありませんわ?」


 全員が半目になった。流石はサキュバス、ぶっ壊れだと。


 レイはルジェの頭をスパンと引っ叩き、『あはん』と妙な声を上げた彼女の手を握り魔力を流し込み始めた。


「ぁぅ…ぁん…あふぅ…はぁ~ん♥」

「やかましい!」

「あはん!?」


 今度はデコピンである。無強化だが渾身の一撃だ。


 そんなやり取りが何度か続き、結構な量を流し込んだところで、ルジェは人に見せちゃダメなレベルの恍惚とした表情を露わにシナ垂れ倒れた。

 レイは「コイツ用の魔晶をユアに創ってもらおう」と心に決め、ミレアたちと転移ポータルを設置する部屋を決めるため出て行った。


「どこにすっかな」

「波動を登録した者しか転移できないのよね?」

「だな」

「アレジアンスと帝都はどうやって選ぶの?」

「行き先が頭に浮かぶ、はず。そんで〝こっち〟って意識すると飛ぶ、はず」

「すごくお手軽なの」

「レイ様は使わないのですよね?」

「使わないな。俺が使うとアホほど魔力食う」


 ミレアたちが「ん?」という顔をしたので、転移の要件をざっくり説明する。


 【質量転移マストランスファ】はその名のとおり任意の質量、つまり物質を転移させる。

 なま物だろうが乾き物だろうが、物質は質量と物性的情報を内包している。

 転移ポータルに限って言えば、波動登録した者の肉体、装備品、所持品を質量および物性的情報として判定し、相応の魔力を消費し転移事象が発現する。


 レイの場合は【格納庫ハンガー】や【食料庫パントリー】の中に膨大な質量と物性的情報を放り込んでいるため、使い倒すとなればポータル本体に巨大な魔晶を組み込み、家のどこかに大型の魔力充填装置を設置せねばならない。特に極鋼製の武装がヤバい。

 セシルは床に埋め込む点を考慮し、子供の拳大サイズの魔晶を内蔵し、小型の魔力充填装置を近傍に設置するデザインで製作している。


「私たちしか入れない部屋を設けるべき、ということ?」

「まぁそれでもいいけど、自分らで掃除しろよ?」

「そういう問題もあるのね」

「庭からも入れる地下室を新しく造ってもいいんだけどな、ノワルが」

「「「あ~」」」

「レイ様にご褒美を要求します」

「お前はマジで…」

「ぎゅっと抱きしめてください。一分以上です」

「「「「えっ?」」」」


 ノワルらしからぬ許容範囲内の要求に全員が驚いた。

 それでいいならと、レイはノワルをぎゅっと抱きしめる。


「幸せです…レイ様の鼓動が聞こえます…大好きです…」


 こうして、庭からも入れる結構広い地下室が出来上がった。


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