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123:ゴートの私怨


 レイから説明を頼まれたルジェは、自身が知る彼是を余すとこなく語る。


 結局はジンvsルジェの質疑応答が二時間ほど続き、レイヌスが魔王を介して死神と結んだ契約内容などの関連事項も明らかになった。

 最後にジンが最も知りたい破壊神出現までの時間的猶予を問うと、ルジェは魔王に確認しなければ判らないが、そう遠い未来ではないだろうと。


 ルジェは頻繁に魔王と会っているような口振りだったし本人もそう思っているが、最後に会ったのはいつかと問えば四〇〇〇年くらい前だと。


「ルジェは魔王の居所へ行く手段を持っているのか?」

「自ら行く時はシーカーと同じですわ。前回は魔王に強制転移されましたの」


 その際に魔王が語った内容はドベルクとアレティが自死し、レイヌスが願い事のために再来したという話。といっても、レイヌスが単独踏破したのは更に三〇〇年ほど前だったらしい。


 魔王がルジェを強制転移した理由は、死神が愚者と併せて勇者と聖者、更に神匠も召喚する因果を組み始めたから。

 当時の死神は転生を待つレイの魂源を捕捉したばかりで、強い因果で結ばれたジンとユアの魂源が勇者と聖者に適していると判じ、セシルが巻き込まれる宿命まで予見した。


 そしてルジェは、来る日に召喚される愚者、勇者、聖者に対して、レイヌスが妥当かつ必要十分な協力をするよう管理してくれと頼まれた。

 また、四〇年の時間的ズレが生じた神匠セシルの召喚も死神にとっては予定調和であり、ルジェはレイヌスに神匠の到来を告げ、助力するよう指示したのだと。


「なるほど、神紋持ちの誕生なり召喚を捕捉していたのはルジェだったのか」

「セシルは時間軸と座標が歪んで東大陸の未開地に落ちましたの。折角だからオルタニア皇宮に出現したようレイヌスに偽装させましたわ」

「えっ…あれ夢じゃなかったんだ…」


 セシルには、赤い荒野を彷徨い熱中症で気絶した記憶がある。

 目が覚めてみればフカフカなベッドの上だったため、夢だと思っていた。

 尚、ルジェがオルタニアを指定したのも、魔王にそう頼まれたからだ。

 魔導工学が盛んで、経済的にも潤っている地が良いとの理由である。


「セシルを助けてくれてありがとな」

「ルジェちゃん、助けてくれてありがとう!」

「楽しく暮らせそうだから謝意は不要ですの」

「もう同居させねぇワケにはいかねぇな。おいセシル、家のリフォームちゃんとやれよ?」

「ちゃんとやるし! ルジェちゃんの部屋がっつりデコるし!」

「俺の部屋はデコんなよ」

「んー、考えとく?」

「やったら追い出す」


 厄災以外の何物でもないと思っていた悪魔公が、蓋を開けてみればセシルの命を救った恩人で、レイたちのためにレイヌスを動かしていた。

 ミレアたちは自身の常識や価値観が当てにならないとまたもや痛感しつつ、打倒すべき敵が神になると判るも、不思議と不安感はない様子だ。


「あ、そうだ。愚者の零式って固有能力がどんなモンか知ってる?」

「知りませんの。愚者神紋の本質を知るのは死神と魔王だけですわ」

「メイズ踏破が必達な点は変わらないな」


 ジンが言うと、ルジェは何かを言いかけたが唇を閉じた。


「問いたいことがある」


 腕組みで瞑目し傾聴していたゴートが、明らかに剣呑な眼差しでルジェを見る。

 レイはルジェを紹介した瞬間にゴートの魔力が暴れたのを感知していたため、いつでも動けるよう浅く座り直す。それくらいゴートの声は怒気を孕んでいる。


「何ですわ?」

「私がまだ幼かった頃、両親は悪魔に殺された。あれが悪魔だったと証明は出来ないが、私は今でもそう確信している」


 場が強かにざわつき、皆がゴートからルジェへと視線を移す。

 ルジェは平然とゴートを見遣ったままだが、目には思案の色が浮かんでいる。


「なぜ悪魔だと思いましたの?」

「私はあいつを無二の友だと思っていた。全くの紛い物だったがな」


 ベスティア獣王国の王位継承は血統に関係なく、当代の獣王に戦いを挑み勝てば無条件に次代となる。

 つまり当時のゴートは一介の羊人族で、いつの頃からか姿を見せるようになった、人懐っこい犬人族の少年と日々を過ごしていた。


 二人が仲良くなるのにそう時間はかからなかった。そしてある日、犬人族の少年は、「自分の両親は罪人だ」とゴートに告白した。

 地球でも似たような話は聞くが、犯罪者の家族は肩身が狭い。特にこの世界では、「罪人の子は将来の罪人」と見做す者が少なくない。


 不憫に想ったゴートは両親に事情を話し、少年を引き取る形で共に暮らし始めた。ゴートと少年の仲が更に深まった頃、ゴートは自分が神紋持ちで、次代の獣王を志していると明かした。


 その日の深夜、ゴートの両親は惨殺された。


「胸騒ぎで目を覚ました私は、隣のベッドにあいつの姿がないのを心配し、両親の寝室へ向かったのだ」


 寝室の扉は僅かに開いており、隙間から漏れる蝋燭の明かりが激しく揺らぐ影を映していた。

 そっと隙間へ目を寄せたゴートの目に飛び込んできたのは、悍ましく嗤いながら母の臓物を引きずり出す、丸い頭の猛禽が如き異形の化け物。


 ゴートが「友も殺された…」と思った瞬間、我が目を疑う物に気づいた。

 それは父が買ってくれた、友と揃いの飾り紐。

 ベスティアには魔除けの飾り紐を足首に巻く風習があり、異形の化け物の足首には血塗れの飾り紐が巻かれていた。


「私は息を殺して逃げるしかなかった…」


 そこでルジェが嘆息しながら口を開いた。


「見当が付きましたわ。貴方、その頃に神童とでも呼ばれ噂になっていたのではありませんの?」

「だったら何だと言う」

「現界に残っている冥界生まれは、わたくしを含めて四人ですの」


 残りの三人は人々が言うところの悪魔将アークデーモンだが、同じアークの位階でも力量には個体差がある。三人いる将の中で二人の力量は正しく拮抗しているものの、残りの一人は上級グレーターからアークに位階を上げたばかりで下僕のように扱われている。


 十中八九、犯人は下っ端の個体であり、ゴートを利用してベスティアの高官職にでも就き、下僕同然の日々から抜け出そうとしたに違いない、と。


「私が神紋持ちだと明かしたからか…」

「その個体、二本の細く短い角を額に生やした梟のような外見ですわ?」

「そうだ! 貴殿はあいつの居所を知っているのか!?」

「ドブロフスクにいるはずですわ。今の貴方なら負けることはありませんの。でも、あれが再誕しないよう魂源を滅するのは無理ですわ」


 三下とはいえ将の位階にある悪魔を滅殺するには、熟練度が上限に近い浄光か、ユアが使える神聖魔法の聖光が最も手早い。

 しかし魔法も魔術も使えないゴートの場合は、神性もしくは聖性を一定以上内包する武器が必要になる。


「この中で滅殺を成せるのはユア、シャシィ、それとレイの三人ですわ」

「あん? 俺はバングルの時空間しか使えねぇぞ」

「レイはお馬鹿さんですわ?」

「否定はしねぇけど〝ちょっと〟を付けろ」

「レイ、極鋼の古い呼び名を思い出せ」

「古い? あ、神鋼か」

「レイの場合は、魔王に匹敵する魔力で魂源の圧殺さえ出来ますわ。魔王がレイを強制転移できない理由でもありますの」

「ほぉ、その話は特に興味深いな。教えてくれるか?」


 頷いたルジェが言うに、空間転移は対象者の質量と生物的情報量に相当する魔力消費で成せる。但し、対象者が抗う意思を持つ場合は、要求される魔力量が跳ね上がる。これは【格納庫ハンガー】や【食料庫パントリー】へ収納する際の要件に似ている。


 一方で、強制転移は抗う意思の有無に関わらず、対象者の質量と生物的情報量を圧倒的に上回る魔力量を要求される。

 レイの場合は生物的情報に無限魔力炉が含まれているため、同じく無限魔力炉を持つ死神であってもレイの強制転移は成せないだろう。

 なぜなら、死神が座す冥界の入口はメイズ最奥から更に深い座標で、そこには地上世界と冥界を隔てる境界が存在するため、更に膨大な魔力を要求される。


「んだよ、死神とは戦れねぇのか」

「戦うつもりでしたの?」

「いやだってラスボスだと思ってたし、戦るって決めたら戦らなきゃだろ」

「俺の弟は無敵だぜ♥」

「即殺されますわ?」

「え、そんなに強ぇの?」

「強い弱いではありませんの。死神の魂源刈りは不可視かつ不可避ですわ?」

「うっわ、やべぇな死神。じゃあ戦らない」

「俺の弟は命大事にだぜ?」

「レイが少し大人になったねジン君」

「実にめでたい」

「キレるとこか?」

「褒め言葉だ」

「あそ。んじゃゴート、クソ梟をぶっ飛ばしに行こうぜ。消す役は任せろ」

「行ってくれるのかレイ…恩に着る」

「水臭ぇこと言ってんじゃねぇよ。でもカンカン式が終わってからな?」

「「「「「「「「「「戴冠式」」」」」」」」」」

「レイよ…」

「やっぱりお馬鹿さんですの♪」


 ゴートが残念そうな顔になり、ルジェは楽しそうに笑んだ。

 他の面子は「はいはい戴冠式ね」といった風情である。


 レイは「破壊神との壊し合いも悪くない」などと、頭の悪い方向でさっくりと最終目標を変えて立ち上がった。


「なぁボロスの家見に行かね? 全然ボロっちくないし普通にイケてるぞ」

「わたくしが傷んでた部分を再生しましたの。でもレイが壊しましたわ?」

「おま……あれはロッテの仕業だ」

「なんでそうなるんだい! あたしゃ自分の家にいたじゃないか!」


 外見で一番壊しそうだとロッテを選ぶ辺りも園児より頭が悪い。

 皆に呆れられつつ、ゴートを除く一同はボロスの新居へ転移した。


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