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122:召喚目的


 アレコレを数分考えた後に「分からん!」と、レイは放り投げた。

 白亜は横に腰を下ろしたまま、どこか観察するようにレイを眺めている。


「これまで何してきた? 死ぬほどヒマだったんじゃね?」

「そんなことありませんの。世界を隅々まで旅したり、誰かと話したくなったら魔王を揶揄いに行ったりしてますわ」


 それ楽しそうと思いつつ、さっくり魔王の居場所まで行けるのかと驚きもする。


「俺を召喚させたのって死神だよな?」

「死神でなければ転生も召喚因果も成せませんわ」

「何で愚者が必要なんだ?」

「創造神が新たな眷属、破壊神を生み出そうとしているからですの」

「はあ!?」


 ガバッと起き上がったレイが「どういうこと!?」と目で問うと、白亜はこれまた腑に落ちる話を語り始めた。


 死神がメイズを構築して以来、地上世界の文明は加速度的に発展してきた。

 古代文明や国が滅亡と興隆を繰り返すことで、人種は歴史に学び進歩を遂げもしている。特にドベルクたちがメイズを踏破した以降は、メイズ産物によって経済的に大きく発展している。中でも中央大陸の発展と、その波及効果は目覚ましい。


 転生神だった時分の死神が「与えられるだけの人種は堕落する」と創造神に説いたとおり、今や苦難を生業とするシーカーが世界経済を支えている状況だ。

 片やの創造神は忌々しくさえあるメイズを破壊したくて堪らないが、双生にして同位階の死神が構築したことと、自身の神格性が創造であるため叶わない。


 そこで創造神は、自身の神格性を損なわない創造という手段で、破壊に特化した眷属神を生み出そうとしている。しかし、創造する対象が破壊を司るという二律背反は、神格性を損なわないまでも永い時と膨大な神力を必要とする。

 よって創造神は外郭世界に籠り、十二柱の神々も地上から天界へと帰った。


「死神も永い時をかけて神紋を宿せる魂源の転生と、特異な神紋を宿せる魂源の召喚因果を組んでますわ。未来を拓く愚者神紋は欠かせませんの」

「俺らは破壊神向けの戦力か。破壊神が壊すのはメイズだけ…じゃねぇわな」

「創造神が今の地上世界を破棄すると決めたから、十二柱も天界へ帰りましたの」

「どんだけ自己中だよ」


 早いとこジンに話さねばと思ったレイは、ベッドから降りて扉口に行き白亜へ目を向けた。


「話聞けて良かった。お帰りはこちらで」

「嫌ですわ?」

「ここもう俺ん家だから」

「嫌ですわ?」

「いいから帰れ」

「帰る場所がありませんわ?」

「てめぇ…」


 サクッとアンティークショップでも作って婆さんやってろと思ったが、自分を狙ったトラップだったかと思い至る。


「あぁそうだ、デオクリュスタの金払うわ。一四二万と…幾らだったっけ?」

「一四二兆八三七七億シリンですの」

「桁の増え方がハンパねぇなオイ!」

「何を言ってるか分かりませんのー」(棒読み)


 居座る気満々ですか、そうですかと大きな溜息をついた。


 そこでふと、白亜が身近にいるのは悪くないとも考える。

 ゴートじゃ物足りなくなってきたと失礼なことを思っているレイにとって、魔力全開の殻化でぶん殴っても平気な白亜は魅力的だ。動くサンドバッグとして。


 それなりに根拠がある勘を言えば、白亜の本領は魔術か魔法だろう。

 初撃の掌底打ちは重力操作のせいでかなり痛かったが、体捌きや打撃技術だけにフォーカスすれば拙いとさえ言える。

 この勘が当たっているなら、ジンとユアを含めた魔術師チームのコーチングを頼める。受けてくれれば総戦力のボトムアップが可能だ。


「んじゃ一緒に住むか? 色々手伝ってくれるならだけど」

「住みますの手伝いますの」

「但しだ、従えとか言う気はねぇけど、俺らが嫌がることはすんなよ?」

「わたくしレイが意外と好きなので、なるべく言うこと聞きますの」


 レイは思わずグッときた。本音だと判る言葉はレイの琴線に触れる。

 我ながらチョロイなと思ってしまうが。


「OKだ。ジンが色々質問するに決まってるから答えてやってくれ」

「畏まりですの」

「あとさ、俺に使った魅了って魔術? 魔法?」

「魅了は固有技能ですの。わたくし分類としてはサキュバスの特異種ですわ」


 レイは物凄く納得した。しかし半目は我慢できなかった。

 魔術と魔法についても掘り下げたいところだが、逆の立場だったら「うぜぇ」と思うのでやめておく。その辺はジンに丸投げだ。


 ということで、レイは白亜を見遣って門の手前に転移。


「「「「「「っ…!?」」」」」」


 ミレアたちが息を飲んでフリーズした。

 唐突に転移で現れたからではない。そんなことには慣れている。

 白亜の妖艶すぎる美貌に度肝を抜かれているからだ。

 レイは「サキュバスは女にも効くのか」などと思っているが、さておき。


「紹介しとく。ここで同居することになった悪魔公の白亜だ」

「「「「「「へっ!?」」」」」」


 全員がスバっとレイを見て「オマエ何言ってんのバカなの!?」みたいな顔になった。月森の神話を読んだミレア、シャシィ、シオ、ノワルの顔は特にヒドイ。


「わたくしの名はルジェですの」

「あそ。悪魔公のルジェだ」

「悪魔公は要らないと思いますわ?」

「イチイチ細けぇな?」

「細かくないですわ。愚者のレイ」

「こちら同居人になるルジェだ」


 愚者呼びを避けたいレイがキリっとした顔で言い、そういう感じなんだとミレアたちが溜息をつく。

 レイが巻き起こすアレコレは深く考えるだけ時間の無駄なので、ミレアたちも思考放棄技能を修得している。


「とりまアレジアンスに行くか」

「ロッテは自宅よ?」

「あぁそうか、一回で終わらせてぇな。ロッテん家ってどこ?」


 ミレアたちがルルに視線を送った。


「ここからであれば北東へ歩ひぃっ!?」


 レイがルルの腰を抱いて【空間跳躍(スペースリープ)】で高空へ跳び、【宙歩(ミデアステップ)】で静止する。

 すると、一拍遅れてルジェが横へ飛んで来た。


「うっわ、まんま蝙蝠の羽じゃん白いけど。つーか飛ぶの速ぇな?」

「神竜の翼と同じで羽ばたかなくても飛べますの」

「意味分からんけどへぇー。つーか、転生用の神竜って今もいんの?」

「いませんわ。今は碧い麒麟がお仕事してますの」

「す、すまないがレイ様、寒いっ!」

「覆魔を厚くすれば寒くなくなるぞ」

「まだ覆魔が出来ないのだ!」

「知ってる。頑張れって意味な?」

「ハイ…」


 武装のコートを出して包み、ルルの案内でロッテの自宅裏に着地する。

 夫が瑠璃のサブマスだけあって、かなり立派な家である。

 出てきたロッテと二人の子供もルジェを見てフリーズした。

 ルジェの魅力は老若男女を問わないようだ。


「行ってくるからいい子で留守番するんだよ」

「「はーい」」


 ロッテが子供たちを家に入らせたところで新居に転移し、続けてアレジアンスへ転移し社長室へと向かう。


「噂になるだけあって大した魔工技術ですの」


 魔導エレベーターに感心するルジェに気を良くしながら社長室の扉をズバンと開け、またもやビクっと肩を振るえさせ視線を上げたジンが…フリーズした。


「リブートしろ勇者」

「あ、ああ……もしかしなくても悪魔公か?」

「聡いですの」

「だろ?」

「流石よね」

「ちょっと待ちなミレア、こりゃどういうことだい?」


 目を細めるロッテをミレアに任せ、レイはユアとセシルの魔力を探って拉致に走る。二人とも設計室にいるのだが、レイは入ったことがないので転移できない。

 ついでにゴートも拉致って社長室に戻り、防諜対策済みの会議室で話そうとジンに促され着席した。


「とりあえず紹介する。悪魔公の白亜だけど同居人になるルジェだ」

「えぇっ!?」

「悪魔キター! おっぱおデケェしエロい! ヤバい大好物っ! 痛ーーっ!?」

「お前は黙ってろ」

「いーやーでーすー!」

「やかましいっつってんだろ!」

「痛だだだだだっ!? 痛すぎて遺体になる!」


 テンプレ化しているアイアンクローがガッチリ極まった。


「フフッ、レイはセシルにそっくりですの。楽しいですわ♪」

「お前も黙ってろ、な?」


 早くもグダグダな展開に、驚愕したユアも毒気を抜かれ苦笑し始める。

 ミレアたちは「時間がかかりそう」とコーヒーを淹れ始めた。


「なあレイ、そろそろ経緯を話してくれないか?」

「俺が悪いみたいに言うな」

「レイきゅん今日のマジ痛いっす! 放して!」


 そんなこんなで更に一五分ほど騒いだところで報・連・相が始まった。


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