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118:家を買うのは大変だ


 応接室を出てボロスからアレジアンスへ転移したレイたちは、ジンとユアに経緯事情を伝えている。大半はミレアとシャシィが喋っているのだが。


「敷地がここの半分で二〇億は安いな。メイズまで徒歩どれくらいだ?」

「二〇分くらいだと思うわ」

「その代わりに静かな環境だよ」

「いいなぁ一戸建て…」


 ジンが購入候補を二物件まで絞り込んだことなど知らないユアは、少し唇を尖らせて拗ね始めた。レイは「ムダにサプライズ好きだな勇者」と思っている。


「くっそ広いからジンとユアもボロス用の家建てちまえよ」

「わっ! 嬉しい! ありがとレイ!」


 レイの腕に抱きついたユアが、「建てよう! ねえねえ!」の文字を浮かべた目でジンを見る。ジンは内心で「王都邸のサプライズ感が薄くなる」と苦笑しながらユアに言う。


「じゃあセシルさんに設計を頼もうか」

「やったあ♪」


 それを聞いて「そういや建築学科だった」と思い出したレイが、セシルの魔力波動を探って転移した。


「うわあ!? びっくりしたんですけど!」

「工場で何やってんだよ…」


 第二工場の製造ライン集中制御室にいたセシルは、なぜかある姿見の前で魔法少女コスを着てポージングしていた。


「ん~と、魅了の魔法をかけちゃうゾ♥」

「やかましい」

「痛だだだだだっ!」


 セシルをアイアンクローで持ち上げ椅子に座らせたレイは、隣の椅子に腰をおろして家購入に関する一連を話し聞かせる。アイアンクローはそのままだ。


「ちょっ! 痛すぎて話が頭に入ってこないっす!」

「耐えろ」


 鬼の継続である。


 購入予定の家は老朽化している可能性がありリフォームが必要だろうから、ジンとユアが建てる家と併せて設計してくれと頼む。

 アイアンクローで頼み事をするのはレイくらいだろう。


 死力を尽くしてレイの指を外そうとしていたセシルが、ピタリと動きを止めて口を開く。


「あのね、お姉ちゃん独りぼっちはイヤだよレイきゅん…」

「分かってんよ」


 漸くアイアンクローを止めたレイが、セシルと目を合わせて問う。

 アレジアンスの工場とボロスの新居を魔導通信で繋げないのか、と。

 瞬時に理解したセシルは、花が咲いたように満面の笑みを浮かべた。


「同居していいってことだよね♪」

「あっちでもアレジアンスの仕事がちゃんと出来るならだぞ」

「出来るようにする! ジンセンくんも喜ぶだろうし!」

「ついでに一つ聞きたいんだけど、俺の転移を装置にできね?」


 セシルは僅かにキョトンとしたが、よくよく考えてみれば盲点だったと気づく。

 魔力充填装置のコアは、極鋼製で直系二センチもない真球だ。

 二〇〇個ほどレイヌスにエネルギー転送の時空間魔法を付与してもらったのだが、新しい小型装置のコアにはコピーした魔法式をセシルとユアが付与している。


 レイのバングルに填められている六つの極鋼の内、どれに【質量転移マストランスファ】の魔法式が付与されているからさえ判明すれば、それをコピーして転移ポータル装置が造れる可能性は高い。

 死神ないしは魔王の権能とリンクする神紋持ちでなければ行使できないという懸念は残るが、レイのバングルを解析すれば可否は判明するはずだ。


「レイきゅんのバングル預からせて?」

「家買ったらクリスのなんちゃら式までこっちに居るから、その間にやってくれ」

「今日中に準備しとく」

「あと、ウェイトの金型は問題なさそうか?」

「それ相談したかったんだよ」


 ガンツと相談していた時に思いついた事柄を話し始めた。

 レイは基本ジャージなので上腕、前腕、脛周り、胴回りといった具合に、部位別で薄めのウェイトを造ってはどうかと。

 いざという時はアンダーアーマーになるし、薄く造れば武装に換装する際もイチイチ外す必要がなくなるというアイデアだ。


「マッチベターだ」

「でそ? それとね、合成繊維の紡糸と紡織もできる製造ラインを組むから、色んな生地が作れるようになるお」


 帝都時分から先送りになっていたのだが、第二工場は天井高三メートルの七階建てで、三階から上はまだ使っていない。

 そこでセシルは、アパレル部門を立ち上げて既製服と既製靴を造ろうと、ついさっきジンに提案し承認されたそうだ。

 最終的にはデザインを除く仕立て全般を自動化する構想だが、初期の仕立ては職人を新規雇用するか外注契約にするつもりだ。


 因みに、各階の間にはポンプやチラーなど付帯設備を置く天井高三メートルのユーティリティフロアもあり、第二工場は高さ四二メートルと王都最大の高層建築物になっている。地下の動力フロアも含めれば全高は四七メートルに達する。


「ジャージとか作れる的な?」

「うん。スニーカーもイケるようにする」

「ガチか!」

「余裕でガチっす。そのジャージ結構傷んでるから早めに作るね」


 レイが椅子ごとセシルを抱きしめると、彼女は『うへへ♥』とキモイ声を漏らした。レイは何気にぴったりフィットするショートトランクスタイプの下着が欲しくてたまらない。


 着々と多角化を進めるジンたちに感心しながら立ち上がったレイは、「どこにすっかな」と考えて王宮の空中庭園へ転移した。

 すると、そこには予想どおりアフタヌーンティーを楽しむフィオの姿が。


「これはレイ様、ご機嫌麗しゅう」

「おっすフィオ。今朝ヴィニに会ったぞ」

「ヴィニシウス様のことでしょうか?」


 一つ頷いたレイは、身構えた二名の近衛兵やギョっとする侍女たちをスルーして対面に座り、ヴィニはイグナシオと違い爽やかで付き合いやすそうなイケメンだったと印象を語る。

 フィオは今夜の晩餐会が初対面らしく不安と緊張を抱えていたが、レイの話を聞いて安堵したのか美しく微笑んだ。


「ヴィニが帰るまでに模擬戦すっから観に来いよ」

「申し入れを受けられたのですか?」

「そこそこ鍛えてたしイイ奴だったからな。負ける気はしねぇけど」

「ふふっ、殺さないでくださいね? もしもの際はレイ様に娶って頂きます」


 ジンからそれとなく「フィオはレイに惚れてる」と聞いていたレイは、愛想笑いを返して本題を口にする。


「クリスに頼み事があって来たんだけど会えっかな?」

「何を置いてもお会いになります。オリバー、急ぎ陛下に伝えてください」

「ははっ!」


 近衛の片方が足早に内廷へ向かい、レイは紅茶を一杯飲む間、フィオに近況を話してから席を立った。英雄譚も斯くやといった近況を聞いたフィオが、心中でレイへの恋心を膨らませたのは内緒である。


 名前や地名は記憶できないが経路や方向なら一発で憶えるレイは、近衛の案内を断って国王執務室へ向かった。


「よぉクリス…って、オマエ老けたな?」

「……そう見えるか?」


 少なからず自覚があったのか、クリスがレイではなく王太子近習からそのまま国王近習に昇格させたロッソ・ウェルチに目を向け問うた。


「陛下は威厳が増されただけにございます」


 上手い返しにクリスが『うむ』と首肯し、視線をレイへ戻す。


「してレイ、頼み事とは何だ?」

「総長って人に話つけてもらいたいんだわ」


 端折りすぎで何の事やらとクリスは詳しい説明を求め、レイがあっちへ飛びこっちへ飛びつつも一連を話した。


「自治会総長権限での減額と成約か。容易いことだ」


 そうクリスが言うと、近習ロッソが透かさず一枚の書式を執務机に置いた。

 〝要請書〟のタイトルで始まる書面は「●●は〇〇の要請を受けろ」的な文面で、クリスは●●の部分に自治会総長の名を、〇〇の部分にレイの名を記入し、署名欄に自署してレイに手渡した。


「これ一枚で話がつくのか?」

「無論だとも」


 答えたクリスが、思い立ったように再び口を開く。


「レイ、国王のみならず友としても尋ねるが、故国へ帰る気はないのか?」

「ちっと難しい質問だなぁ…まぁ帰りっぱなしってのはない。魔王だか死神だかに会ってみねぇと分かんねぇけど、俺の勘だと行ったり来たり出来そうな気がする」

「ほぉ、帰れはするがこちらへ戻れないと判った場合はどうする?」

「帰らねぇな」

「そうかそうか、その言葉は何より喜ばしい。戴冠式で盟友だと紹介できる」

「俺は出ないぞ。コレありがとな」

「おいっ!?」


 レイは言い逃げでボロスへ転移し、その足で都市機構を訪れキースに要請書を渡した。キースから『私と一緒に総長執務室へ行ってください』と頼まれたレイは即断ったが、まだ若く職位が低い自分にはハードルが高いと説得される。


 家を買うって面倒なんだなと思いつつ、レイはキースの案内で総長執務室へ向かった。


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