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11:遭遇からのカットイン


 旅路が極めて平穏かつ順調であるため、予定は二〇日間だったが一日前倒し出来そうな一八日目。


 だがしかし、大型台風や地震で電車が不通になるが如く、もしくは交通事故で高速道路が大渋滞を起こすが如く、思わぬところで想定外の事態に陥るのが世の常である。


「厄介だわ」

「魔獣領域の方へ逃げてるね。気持ちは分かるけどさ」

「いやいやいやいや余裕こいてる場合じゃねぇだろ!」

「落ち着いてレイ様。賊が見えている数だけとは限らないわ」

「そうかもしれねぇけど、そういうのは分かりたくねぇ!」

「レイ様っ!?」

「速っ! 馬車で追うからミレアは先に行って!」

「あぁもおっ!」


 小高い丘を上りきった先、距離は判然としないものの、レイの目には人が三〇センチほどの大きさに映っているためかなり遠い。


 チラチラと後ろを振り返りながら逃げているのは三名。

 その後方には、ヒャッハー言ってる悪党だろう奴らが一〇名ほど。

 更に後方へ視線を向ければ三台の馬車があり、その内一台の周囲には倒れ伏している人の姿が幾つかある。


 レイは「バンテージくらい持って来りゃよかった」と思いながら、循環と浸透を高めグングン加速していく。

 最早ヒトが走る速さではなく、腕の振りと脚の運びは目視できない。


(嘘っ!? 追いつけないどころか離されてる!?)


 ミレアの驚愕など知る由もないレイは、逃げる三人と追う悪党共の間に割って入る。メリメリと音を立て靴底が草原を削れば、レイの足元には土草がこんもりとした山を形作った。


「「「「「っ!?」」」」」


 視界の外から唐突に現れたレイに、先行していた悪党共がビタリと足を止める。


「ハロー悪党ども、ここから先は行き止まりだ」


 レイの目に映るのは、小汚い訳でもない兵装だろう装備。

 揃いの革鎧に長くも短くもない剣と丸い盾。

 その後ろからは大きめの四角い盾と槍を持つ四人の兵士が駆けて来て、レイの前に防壁を造るかのように並び構えた。


 すると、唯一抜剣しなかった一人が、槍兵の背後に歩み寄り口を開く。


「妙な恰好だな。貴様は何者だ?」


 レイはその問いをシカトし、少し首を捻って背後を確認する。

 逃げていた三人もレイに気づいており、足を止めこちらの様子を窺っている。

 三人共に金髪で耳が斜め後ろに長い。一人が男で二人は女。

 男は剣を、女は弓を持っているが、二人の背後には非武装の少女がいる。


 守る二人に守られる一人かと確認したところへ、ミレアがズザザと草を削りながら滑り込んで来て双剣を抜き構えた。


「オツカレ。これどう思う?」

「もぉ、私たちの身にもなってくれない? ……おそらく南西の隣国キエラか南のヴェロガモの傭兵ね。エルフを攫って売ろうっていう魂胆よ」


 ミレアが敢えて大きめの声で言うと、九名の傭兵たちが目を細めた。


「遠慮なくぶっ飛ばしていい奴らか。ミレアは後ろの三人についててくれ」

「…独りで戦る気なの?」

「ムリかな?」

「……ハァ、これで全部みたいだから余裕でしょうね」

「んじゃまぁ決まりでっ!」


 土礫を蹴り飛ばしたレイが地を這うように槍持ちへ迫る。

 傭兵たちは余りの速さに身構えることさえ出来ない。


ドゴッ! ゴリュ! ズドンッ! ベキィィ!


 盾を歪める後ろ回し蹴りでぶっ飛んだ槍持ちが、後ろの剣持ち三名を巻き込んで転がっていく。遠心力のままにバックナックルで隣の槍持ちの顎を砕き、続けざまに低く踏み込んだ体勢からショートアッパーを鳩尾に入れてスリーダウン。

 トトンッと軽いステップで舞うように回転して遠心力を載せ、ミドルキックで残った槍持ちの肋骨を根こそぎ粉砕した。


 断末魔さえ許さぬ急襲ブリッツで四人の意識を刈り取り、「次はどっちだ?」とばかりに唖然と立つ尽くす剣持ち二名へ視線を刺す。


「ひっ!?」

「ば、化け物!」


 脱兎も斯くやと逃走する二名を尻目に、槍持ちに巻き込まれぶっ飛んだ三人へ近寄って行く。

 べっこりと〝く〟の字に曲がった盾をチラ見して「俺すごくね?」などと内心呟き、尻を地面につけたまま後退る隊長だろう男を見下ろす。


「妙な恰好の俺から質問返しだ。お前らどこの誰よ」


 最前線で沈みピクリとも動かない槍持ち三名に一瞬だけ視線を移した隊長格は、媚びるような薄ら笑いを浮かべ口を開いた。


「ち、違うんだ。俺たちはヴェロガモの貴族に雇われただけだ。見逃してくれるなら全部喋るし有り金も全部渡す。それで勘弁してくれ、な? いいだろ?」

「ハッ、後ろ手に武器持ったままよく言うな? 舐めてんのか? そんでそこのお前ら! 気絶した振りしてんじゃねぇぞコラ! 並んで腹ばいになっとけ!」

「「っ!?」」


 図星を刺された二人がスバっと上体を起こし、直ぐさま並んで腹ばいになり頭の後ろで手を組んだ。

 瞬間的に顔を歪めた隊長格も剣を投げ捨てると、再びキモイ笑みを浮かべ膝立ちになり後頭部で手を組む。


 そこへ漸く追いついたシャシィが登場した。


「どうして突っ込んで行くかな? 大勢いたらどうするのさ」

「そん時はシィが遠距離からズドン、だろ?」

「一応は考えてたんだね。それで、どこの誰だか判った?」

「なんだっけ…フェラガモ?」

「ヴェロガモ?」

「それ。そこの貴族に雇われたんだと」

「そのチョビ髭が隊長?」

「っぽいな。チョビだし」

「帰りにメイズ都市で売却だね」

「シーカー!? ままま待ってくれ! それだけは勘弁してくれ! 頼むから!」


 顔を青くする隊長格を見たレイが、「そんなにヤバい場所なのか?」と色々な想像を膨らませる。主に拷問官の集団が『ヒヒヒヒ』と嗤っているような画だ。


「取り敢えず三人とも気絶させちゃおうよ」


ズゴッ!


 無言かつ無造作なトゥキックを鳩尾に刺された隊長格が、一拍おいてぐりんと白目を剥き顔から地面に突っ伏した。


「容赦ないね」

「要るか?」

「要らなーい」

「だろ。ほらほら、お前らは楽に落としてやっから動くな」

「殺さないでくれ!」

「お、俺も腹を空かせた子供が待ってるんだ!」


 半目になったレイは「台本でもあんのか?」と思いつつ、二人の背を膝で抑えて其々の首に腕を回す。三〇秒と経たず二人の組んでいた手が力を失くした。


「ミレアの時もやってたけど、それ何やってるの?」

「ここんとこの血管を絞めるとな、頭に流れる血が止まって気絶すんだわ。実際には酸欠なんだけど、そう長くはもたない」

「へぇ~、だからミレアはすぐ起きたんだ。じゃあ拘束しなきゃだね」


 馬車からロープを持って来たシャシィが手首と足首を数珠繋ぎで縛っていく。

 レイも見様見真似で縛っていると、エルフを連れたミレアが来た。


「レイ様、彼女がお礼を言いたいそうよ」

「あいよ。(エルフってマジで美形なんだな。画像撮りてぇ)」


 バッテリーとメモリを消費する価値アリ!などと考えているレイに、守られていた少女が謝意を述べた。その少女がシャシィへ目を向ける。


「シャシィさん…ですよね?」

「二回しか会ってないのによく憶えてたね」

「エウリナ様、その者をご存じなのですか?」

「お爺様のお弟子さんです」

「リュオネル様が他種族を弟子に…」

「思い出しました。里ではなく峡谷で修練していた方ですね?」

「そうです。シャシィさんは私の姉弟子に当たります」


 何だか事情がありそうだと思ったレイは、拘束した傭兵たちを馬車に放り込むためその場を離れた。レイを追って来たミレアが手伝いながら口を開く。


「気を遣う必要はないと思うけど?」

「別に気を遣った訳じゃない。シィの事情をシィじゃない人から聞くのは違うかなと思っただけ。あの子たちにも事情があるんだろうし」

「それが気遣いだと思うけど?」

「じゃあ気を遣ったってことで」

「ホント素直で優しいわね」

「一度に色々考えるのが苦手なんだよ。そういうのはジンに丸投げだ。それよりさ、この四人ヤバくね? 自分でやっといてアレだけど」

「後でシィに【治癒】をかけてもらえば平気よ。自業自得なんだし」


 日本なら救急外来待ったなしの重症だが、こちらでは自業自得で済むようだ。


 離れた場所にある馬車の傍には、息絶えた三人の男性エルフが横たわっている。

 エルフは森で土に還すのが供養になるらしく、遺体の積み込みを手伝いその場を後にした。


 その夜は六人で一緒に野営し、翌日の昼前には大森林の際へ到着。

 鬱蒼とした森の際でエウリナが何言かを呟くと、緑色の霧が晴れるようにして馬車道が忽然と現れるのであった。




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