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102:オーバーキル


 魔核や武装を【格納庫ハンガー】に収めたレイたちは、魔物部屋を出て階段へと向かう。


 余談だが、アンデッドな女性シーカーたちが身につけていた魔術効果のないアクセサリーを無視したレイは、女性陣に大層怒られた。


 外は夕暮れ時とあって、地上階の石室は徒歩や転移陣で帰還するシーカーたちでごった返している。石室を出る際にも、違反進入者がいないかライセンスをチェックされるようだ。


 レイはジンとユアを王都へ送らねばならないため石室の片隅へ移動し、ミレアたちが壁を作って見えないようにする。


「出来れば俺もギルドへの報告段取りを知りたいんだが?」

「私も。またレイが見つけちゃう気がするよ」

「ふふっ、マスターも同じことを言ってたわ」

「見つけちゃいけない風に言うな勇者の聖女」

「今のちょっと嬉しい♪」

「聖女もうぜぇ」


 ということでレイ、ジン、ユアの三人は、ディナイルの執務室へ転移した。

 ディナイルが不在なので出ようとして扉を開けると、今まさに外から扉を開けようとしていたディナイルが跳び退いた。


「…ったく、驚かすな」

「申し訳ない。違反進入で見学に行ったもので」

「そういうことか。そうそう見れる場所じゃないのは確かだ」

「ごめんなさいディナイルさん」

「ごめんなさいディナイルさん」(裏声)

「……」

「重ねて申し訳ない」

「レイのバカ」

「はっ、お前ら貴族か何かか? 三人とも落とした遊び心を拾ってこい」

「「「……」」」


 三人を閉口させ「ヨシ勝った」とご機嫌さんになったレイは、ミレアたちが待っているギルド前へと歩を進める。


 ギルドホールもシーカーたちでごった返しているが、ミレアは窓口の横から『重大報告があるから職長を呼んで』と伝えた。

 暫く待っていると洋物波平さんことベスタがやって来て、ジンとユアをチラ見したが何を聞くでもなく二階の広い談話室へ入っていく。

 ベスタを背後から見るジンとユアが、必死に笑いを噛み殺している。


「勇者ジン様、聖者ユア様、シーカーギルドにて職長を務めるアレン・ベスタと申します。よろしくお願いします」


 勇者じゃない方と言われたレイへの対応とは雲泥の差である。

 邂逅一番で大笑いしたレイが悪いのだが。


「初めまして、ジンセン・カブラギです。勇者と様は不要です、ベスタ殿」

「承知しました、ジン殿」

「初めまして、ユア・カグラノミヤです。私も同じでお願いします」

「承知しました、ユア殿」

「カトちゃんペ」

「「ぶふぅっ!」」


 レイのキラーシュートが、ジンとユアという常識人キーパーを弾き飛ばしゴールを決めた。カトちゃんヅラは一本毛ではないが、波平よりも威力は高かった。


 意味は分からないが無性に腹立たしいベスタはレイを睨みつけ、気を取り直してミレアへと視線を移す。


「これが重大報告ですか?」


 ジンとユアにガチで引っ叩かれているレイに嘆息しつつミレアが答える。


「レイが一階層で魔物部屋を発見したの。処理済みよ」

「……性質の悪い冗談でしょうか?」

「そう思われても仕方ないわね、倉庫へ行きましょう。人払いは絶対条件よ」

「倉庫ですか、いいでしょう」


 裏手の大型倉庫へ行くと、シーカーたちが持ち帰り売却したメイズ産物を運搬労働者が次々と搬入している。ベスタは彼らに作業を中断するよう命じて人払いを済ませた。


「査定担当者もお願い」

「冗談でしたでは済まなくなりますが?」

「最終的にはギルドの判断だけど、今はお願い」

「…分かりました」


 倉庫内のギルド関係者がベスタのみになったところで、ミレアはレイに目を向けた。軽くサムアップしたレイが、回収物を一括転送で出す。


「なっ!? これは!? 今のは!?」


 ミレアが淡々と説明していく。

 壁の奥深くに魔物部屋があったこと。

 出現したのはメイズで死亡したシーカーのアンデッド五六三体だったこと。

 見知った顔もあり、全員が中層攻略で死亡した者だろうこと。

 魔核に加え、装備品と所持品の全てをドロップして霧散したこと。

 隠室支配者は食屍鬼ことガストで、レイが単独討伐したこと。

 ガストのドロップが深紅の魔核と聖邪統晶だったこと。


「聖邪統晶は売却しないわ。魔核以外の回収物も一旦はクランへ持ち帰るつもりよ。それで、どういう風に手続きをすればいいのかしら?」


 ベスタは目に付いた武器の幾つかを手に取って質を確かめ、最後に小箱を開けて聖邪統晶に驚愕しつつ蓋を閉めた。


「必要書類は所在地までの階層経路図、討伐者リスト、概要報告書です」


 ベスタが続ける。


 討伐者リストには発見者と解錠者を明記し、概要報告書については後日に詳細を聴取することになる。

 回収物は売る売らないに拘わらず、ギルドが全品査定してリスト化する。

 査定開始日は別途調整とし、査定に際した立ち会いは任意。

 最終的に功労表彰状と討伐証明書、貢献度付与証明書を発行し、売却対象物の買い取り代金と併せて指定場所へギルドが配送する。

 情報を秘匿する場合は、秘匿請求書を査定完了予定日までに提出する。

 秘匿請求書を受理した場合でも、ギルドは隠室所在地、出現した魔物種と数、討伐者の人数、レアドロップの名称は開示対象情報として扱う。


「必要書類の書式はギルドが提供します。以上ですが、確認事項があればどうぞ」

「レイの魔法は秘匿してね。でないとアンセスト王が激怒するわ」

「心得ています。既に墓場まで持って行く所存です」

「助かるわ。諸々が終わるのはいつ頃になるのかしら?」

「前例との乖離が大きいので、総動員しても一〇月中旬が精一杯でしょう」

「了解したわ」

「俺は部外者だが一つ確認したい」

「どうぞ遠慮なく、ジン殿」

「十中八九はレイが聴取対象者になると思うが、委任は可能だろうか」

「私も真っ先に浮かんだ懸念はそこです。ギルド長に確認した後の回答とさせてください」

「出来れば強く押してほしい。聴取担当者のためにも」

「ジン殿の配慮に感謝を。私が聴取するので是が非でも通します」


 全員がレイへ目を向けた。が、レイは「ん?」といった風情で分かっていない。

 今日も残念扱いされていることを判っていない残念な男である。


 レイが回収物を収納し、ミレアが必要書類を受け取り一行はギルドを後にした。


 例によって例の如くレイが「腹へった」と言い出したが、ディナイルへの報告とクラン加入手続きが先だと宥められる

 全員が予想したとおり「メシが先」と言うレイに、ユアが無言のまま詰め寄りレイの意向は否認された。

 すると、イリアがあからさまにムッとした顔をユアに向ける。


(うわぁ…これ絶対好きになってるやつだぁ…)


 自分以外の恋愛については感知能力高めのユアである。


 クランハウスへ戻った一行は、例の最上階会議室へ。

 ディナイルがついでに二人も加入しろと言いながら、三ページに纏められた加入申請書を差し出した。特に重要なクラン規則を纏めたものだが、当然の如くレイは一文字も読むことなく署名欄に汚い字で署名し椅子に背を預けた。


 ジンとユアが熟読している間に、ミレアが隠室での一連を説明していく。

 ディナイルをして驚くばかりの内容で、最終的には聖邪統晶がドロップし、それをレイがイリアにプレゼントすると聞いた途端、ミレアに説明を中断させた。


「レイ、正気か?」


 過去、学術者ギルドが競売にかけた炎氷統晶には、二〇億超の値がついた。

 聖邪統晶ともなれば、倍の値がついてもおかしくないとディナイルは言う。


「メシ代くらい自分で稼ぐし、何ならセシルっつーATMがあるから要らん」


 姉をATM扱いするとは酷い弟であるが、さておき。


 ディナイルは聖邪統晶と聞いた瞬間、身銭を切って買い取り、直ぐさまイリアに装備させようと考えた。

 よこしまという言葉には、不正な悪意や害意、敵意という意味も含まれる。

 確証はないが、イリアが聖邪統晶を用いて邪を感知するか聖の結界を張れば、もう二度と怖い思いをしないで済むという、兄が妹へ向ける親愛の情である。


「……なぜイリアだ」

「特に理由はねぇよ。ジンとユアも要らんって言うたし」

「俺は真剣に訊いている。真剣に答えろレイ。なぜ、イリアだ」

「………」


 黙秘したレイがチラリと横へ目を向ける。

 すると、ジンとユアは書類を持ったまま横目でレイを見ていた。


「ディナイルは理屈じゃなく、レイの考えを聞きたいだけだと思うぞ」

「正しいか正しくないかでもないよ。レイはちゃんと伝えるべきだと思うな」


 レイが溜息をつきながら天井を仰ぎ、視線を戻して口を開く。


「白い髪のイリアにはアレが似合うと思った。あと、聖は悪魔にも効くらしいから、イリアが使えば悪党から身を守れると思った。そんだけだ」


 ディナイルが俯いて笑み、イリアが満開の笑顔でポロポロと涙を零す。

 死神レイによる、オーバーキル確定の殺し文句であった。


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