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98:三ツ星


 逃げるように走り去るジオンの背を見送ったレイたちは、ベスタの背を押してギルドホールへと戻る。談話室で暫く待つように言われて小一時間が経った頃、漸くベスタが姿を現した。


「十席会には〝触るな危険〟と通告するよう手配しました」

「待て待て何だそれ最後の一本抜いてやろうか」

「ちょっとレイ!」

「私の権限で認定を取り消せますが?」

「さーせんした先生!」

「貴方の先生になった記憶はありません。どんな拷問ですか」


 体育教官室を幻視させるビシッと四五度でお辞儀をするレイの眼前に、シーカーライセンスが差し出された。するとそこには…


「お? 星三つ」

「「「「「「「三ツ星!?」」」」」」」

「対戦相手と同等の格付けは、戦闘系ギルドの共通規定です」


 初試験で星付きシーカーと対戦すること自体が異例中の異例であるため、規定ヲタでもない限り知らないだろう。

 ミレアパーティーの星は一つなので、サクッと三ツ星になったレイへジト目を送ってしまうのは当然の成り行きである。


「ナニ得なのか知らんけど撃墜マークみたいで悪くねぇな。よしメイズ行くべ。んじゃな波平先生」

「アレン・ベスタです」

「それ」


 何の余韻も感じず残さず、スタスタとギルドを出て行くレイを皆が追う。


「ちょっと待ちなさいよレイ! メイズ行くべじゃないわよ!」

「なみへい先生?」

「故郷の恩師に似てるのかもなの」

「流石に恩師の最後の一本を抜くとは思えません。ユア様に聞いてみましょう」

「あんたたち変わりすぎじゃないかい?」

「全くだ。ミレアが大声を出して男を追うとは」

「レイはクランハウスに行きませんか?」


 イリアにジャージをくっと掴まれたレイが「そっち先か」と思い出し、方向を変えて瑠璃の翼へと戻った。


 先刻から久々に勢揃いしているミレアたちに声をかける者は多いが、ミレアたちは愛想笑いを返しながら急ぎ足で最上階へと向かう。


コンコンコン


「ミレアです。戻りました」

「入れ」


 ディナイルはレイが負けるはずがないと思っていたため、机に目線を落としたまま書類仕事を続けている。


「相手は誰だった」

「槍聖だったわ」

「なに?」


 ディナイルがピタリと手を止め視線を上げた。

 ミレアが改めて答える。


「臥竜の槍聖ジオン。レイが殻化を喋った結果ね。あんな戦闘試験は前代未聞よ」

「詳しく話せ」

「なあディナイル、菓子とかねぇの? なんか食ってねぇと寝るぞ」

「…誰か持ってきてやれ」

「あたしが持って来てあげるー」

「さんきゅー」

「イリアはお茶を淹れますか?」

「頼むぜか!」

「うん♪」


 十席会で話題になると判っているミレアが、一連を事細かに説明していく。

 ベスタの一本毛にまで言及する必要はなかったと思うが、模擬戦をする破目になったことを話し始めると、ディナイルは興味深げに模擬戦の内容を問い質した。

 三ツ星を得たと話す頃には、ディナイルがクツクツと声を漏らし始める。


「触るな危険か。最大の賛辞だな?」

「知らねぇっつーの。んなことより、アレジアンスのことまで考えてくれたことには礼を言っとく。ありがとな」

「言葉より貢献度で返してくれ。期待している」

「貢献度とかよく分かんねぇから、もっと楽でいいモン返すわ」

「ほお、何だ?」

「タダでコキ使うとかどうよ? 神匠を」

「なっ、んだと?」

「そんな目で見ないでくれるかしら。勝手に喋れないことだってあるわ」


 ディナイルが一人ずつ目を合わせていくと、シャシィ、シオ、ノワルがスッと目を逸らしていく。

 レイに『いいのね?』と確認を取ったミレアは、神匠セシルがレイの実姉であることを話した。嗜好に難があることを付け足して。


「奇縁か…事情は分かったが、レイの姉だろうと神匠を無償で使う道理などない」

「捨てるほど金持ってんから気にすんな」

「兆単位の富豪らしいわよ」

「「「「!?」」」」


 セシルを知らない四人が息を飲んだ。


「あいつヲタ詐欺が上手いんだわジッサイ」

「いい人だからだと思うよ?」

「セシル様は魅力的なの」

「私の師匠なのですから当然です」

「お前ら来年の今頃は被害者の会の一号二号三号だ」


 つい先日送られてきた手紙には、皇帝アドルフィト三世がラボとドームの継続使用を認めたと書いてあった。むしろその一文以外はどうでもいいことしか書いてなかったのだが、さておき。


 魔力充填装置を造るには極鋼の熔融と加工が必須になるため、ジンが頼み込んだという裏事情もある。

 帝国としても群島に巣食う海賊の対処、つまり海戦には無反動魔導砲が必須で、魔導砲の継続運用には魔力充填装置が欠かせないため首肯しか選択肢はない。

 詰まる所、セシルとレイヌスしか使い方を知らないので、眠らせておいても宝の持ち腐れになってしまうという話である。


 ディナイルにとっての朗報は、メタガンドタイトの熔融と加工も同じ設備で可能という点だろう。セシル曰く『ちちんぷいぷい!』と。意味不明だ。


「何にしろ詳しい話はセシルとしてくれ。クリスのカンカン式が終わってからな」

「戴冠式のことか?」

「それ。んじゃメイズに行ってくるわ。また後でな」

「忙しい奴だ。戻ったら加入手続きをしろよ。ミレア、ギルド向けの対応はお前に任せる。今回で段取りを覚えておけ。レイがまた見つける可能性は高い」

「予言染みてるわね、了解したわ」


 メイズへの道すがら、レイは皆にどっちだと思うか問うた。

 回答は全会一致で魔物部屋。レイも同意である。

 メイズを創造したのが死神でも、管理・運営しているのは魔王だ。

 魔王はレイヌスを「死なせてやる」などと誑かしつつ、時空間魔法をねじ込み手足として使い倒すようなヤツ。

 そんな輩が一階層で金銀財宝を出し、不特定多数を大金持ちにしてメイズから解放するだろうか。それはない、という論法だ。


 続けて問うたのは、どんな魔物が出ると思うか。

 この回答も全会一致でアンデッド。レイはゴブリン系と言いそうになったが、この世界にゴブリンが存在するのかは知らない。

 ともあれ、一九階層まではアンデッドしか出ないそうだ。

 厄介なのは一五から一九階層で、各種ゾンビやドラウグというゾンビの親玉みたいな魔物がおもっきり臭いのだと。

 対ゾンビは近接戦闘になりがちで、纏わりつかれようものなら二〇階層守護者部屋まで「臭っ! オマエ臭っ!」と言われながら行くことになる。


「なあ、入口の周りにいる奴らってナニ? 待ち合わせか思てたけど、さっきいた奴がまだいるぞ」

「小規模クランの勧誘担当ね。少人数で潜ろうとする新人を勧誘するのよ」

「へぇ、色々あるんだな」


 そんなこんなでライセンスを提示して石室内へ。


「ジンとユアが見学したいっつってんだけどいいよな?」

「レイの好きにすればいいわ。そうそうお目にかかれる場所でもないし」


 他の六人もウンウンと首肯したため、レイは片隅からアレジアンスへ転移。

 工場で肩を寄せ合い何かの図面を見ている二人を背後から見遣り、周りの社員たちに向け人差し指を唇に当て「シ―」と合図を送りつつ拉致転移した。


「えっ!?」

「Welcome to the maze! ってことで行くぞ」

「……お前なぁ、一声かけろよ。それにライセンス取るの早すぎだろ」


 察したミレアから「いつも大変ね」などと声をかけられつつ、ジンとユアは初顔合わせのロッテとルルに挨拶をしながら一階層への階段を下りた。


「ん、なんかいる。お、スケルトンだしゃー!」

「「「「「「「「「………」」」」」」」」」


 嬉々としてスケルトンの背後に跳んだレイが、骨盤を鷲掴みにして投げっぱなし高速ジャーマンスープレックスで粉砕した。自身の頭頂が床に着くか着かないかの滞空ブリッジを筋力で保ち、満足気に笑む姿が非常にキモイしアホである。


「おー、消えた。へぇ、これが魔核か。ちっこいけどキレイじゃん」


 粉砕されたスケルトンが青黒い粒子に変わって霧散し、跡地には紫紺のガラス玉を透明なガラス玉で覆ったような小球が落ちている。サイズ感は直径一センチちょいといったところだ。


 もう好きにすればいいんじゃない?みたいな視線と雰囲気を物ともせず、レイは階段口から一五分ほど歩いたところでピタリと足を止め、壁に体を向けた。


「シオよろしく。カギはココな、たぶん」


 ウンコ座りになったレイが、床上二〇センチほどの一点を指差した。


「「「「「「「「「………」」」」」」」」」


 一見しただけで鍵の位置をピンポイント特定できるシーカーなどいない。


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