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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

パキシルマスター音速のサカイアトリスト

作者: ヒロモト

病院のシンボルマークであるリスの看板の指示に従い歩くと病院が見えてきた。

これで10件目だ。

1年毎に病院を変えたので俺はもう十年うつ病とパニック障害を患っている事になる。

どうせここの精神科医もこれまでの奴と同じ様な事を言ってセロトニンの量を増やすパキシルを渡して終わりなんだろう。

本当に精神科医ってのはどいつもこいうも無能の処方箋渡し屋さんだ

受付で初診だと伝え、保険証と自立支援手帳とお薬手帳。診断書を提出してソファーに座る。

どうやらここにもろくな医者はいない様だ。

一人当たり五分程度で診察室から出て来てあっという間に俺の番がまわってきた。

精神科医は1人に30分や1時間かける事も珍しくない。

つまりここの医者は患者の話を全く聞かないタイプの頑固老人……を想像していたら酒井と名乗る医師はスキンヘッドで顔に大きな十字傷のあるヤクザの様な男だった。


「はい。院長の酒井です。で?どしたん?」


「どうせあんたじゃ治せないんだから薬だけ寄越せよ」と言うつもりだったが、酒井の見た目とどすの聞いた声が怖すぎて正直に話してしまった。


「……親のセックスをみてしまいました」


高1の時に夜中。激しくセックスをする両親を見てしまった。

両親は俺に気がついてもセックスをやめなかった。

俺は両親の事が好きだったが、この瞬間からパニック障害を患った。

両親との間にとてつもない壁と孤独を感じた。

もし火事が起きたら両親は俺を置いて二人で逃げるだろうとリアルに想像できた。

それから両親とは気まずくなり、俺は家を出て一人暮らしを始めた。

未だに両親とは壁がある。

たまに会う時も他人行儀だ。


「俺。そいつら嫌いだな」


酒井は俺の話が終わる前に食い気味でそう言った。

俺は泣いていた。

どんな医者もカウンセラーも同情はしてくれたが、親を悪く言うことは無かった。

俺は一緒に悪口を言ってほしかったのだろう。

酒井の悪口は早口で止まらない。


「君の親は女と男をやめて母親、父親になれなかった未熟な人間だ。どれだけ気持ちの良いセックスでも自分の子供に見られてる事に気がついたらやめなきゃね。トラウマになっちゃうじゃんねぇ?」


「先生。僕には同棲している彼女がいます。いずれ結婚したいのですが……」


「両親のようになるのが怖い?」


「そうなんです」


「ならないよ」


「なぜ言い切れるんですか?」


「君は十年間パキシルを飲み続けた。飲み始めや量を増やす時は脳が軋む様な、かなり辛い副作用も出る。それに耐えた。パキシルに感謝だね。俺からしたらパキシル治療は軍隊の訓練より厳しい。パキシルとパニック障害に十年間耐えつづけた男はセックスぐらい途中でやめれるよ」


「パキシルに感謝かぁ」


「という訳でパキシルを出しとこう。他になんかある?」


「いや。特に」


「一つアドバイスだ。セックスする時は和室じゃなくて洋室にしなさい。そして扉を閉めて鍵を掛ける。お大事に!またいつでもおいでね!これ俺の携帯番号ね。次の人〜!」


俺が診察室にいたのはたった5分だった。


薬局で薬をもらって外に出た。

10年ぶりに空が綺麗だななんて思った。

身体が軽い。

受け取ったパキシルの袋を見ても憂鬱にも不安にもならなかった。

何だか今日は空気がうまいなとつい口に出してしまった。


「あっ。だからか」


酒井。リスの看板。

サカイアトリスト……英語で精神科医って意味だ。

酒井とリスと……

ふふっ。狙ってんだか偶然なんだか。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 重くて軽い  重くも軽い  地球より重く  鴻毛より軽い  人生ってそんなモン  つまり厨ニ病からの卒業のハナシなんかなー? と。 
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