2 最初の戦い
これはやはり「現実」なんだろう。
また振りかぶり、降ろす。八回目に刃は床に到達した。
刀を握ったまま俺は動けなくなった。立ち尽くした俺の背中を隊長の大きな手が平手で強く叩く。
「よくやった!」
それをきっかけに我に返る。
「初陣でガーコイルか。やるな小僧!」
まるで初営業で契約を取れた新人を褒めるかのような軽さでグルジアは言う。
「あいつらの・・・魔法・のおかげです」
なんとか声を出す。
「まーな」
口ひげに手をやりながらグルジアは答え俺の全身に目をやる。
俺の怪我の具合を判断しているのだと気付いた。
「結界に綻びがある様だな。これからが本番だぞ」
大丈夫と判断したのか隊長はそれだけ言い残し自分の持ち場に走っていく。
そう、戦争はまだ始まったばかりだ。
城壁の上からタロン城の正面に広がる平原に目をやる。四季ごとに異なる表情を見せ、遥か彼方の山脈と平原の中腹に流れる大河と作り上げるコントラストは、今まで知っていたどんな絶景よりも美しいと、ここに来た当初は思ったものだ。
今はその平原を異形の軍隊が埋め尽くしている。武器を持った者、持たないもの、そもそも持つ知能のないもの。鎧を着ている者、鎧の必要がない者。多種多様な生物がそれぞれの種ごとに部隊を作りあげ整然と並んでいる。中には人間の様な姿をしたものも見受けられる。宙を舞っているのは先ほどの化け物と同種だろう。
結界が全て破られたらあいつらが城の中になだれ込んで来る。身の毛が立った。恐らく城内の人間は皆殺しになるだろう。
あるいは女だけは生かされるのかもしれないが、それは想像するだけで吐き気を催す未来だった。
塔の方角へ目をやる。
誰かが塔に開けられている小さな窓に身を乗り出しこちらに手を振っているのに気付いた。
燈子だ。身振りで何かを伝えようとしている。
まず平原を指差しその後に手を胸元に縮めた後素早く広げる。その繰り返しだ。口元はどうやら大きく広げる閉じるを繰り返している様だ。なんとなく想像は付く。
あの女がなんかするんだろう。
先ほどの爆発など奴にしてみればなんでもない。物理法則を捻じ曲げた超常の現象をこの世界で起こす力を奴は持っている。
とりあえず燈子に理解したこと、自分が無事であることを伝えるために大きく右腕を上げ親指を突き出す。燈子には伝わるはずだ。
その時、突き上げた親指の先を何かが通過する。
次の瞬間に爆音が響きわたり、爆風が身体を包む。平原の方に目をやると敵軍の真ん中に大きな円形状の穴があった。どうやら空から何かを奴らに叩きつけたらしい。
慌ててコンソールを身につける。視界上に浮かんだキーボードを操作し、Reader権限でログインを行う。塔の方角を見つめてそこで起きているログを拾う。
たちまち視界をログの文字列が覆った。秒間に数千の実行が行われている。必要な情報だけを取得するためにキーボードを入力しgrepする。
[Sun Oct 11 14:32:52 192] [run] [client 127.0.0.1] program meteo has been by server configuration: Aria feng
絞っても相当量のログが残ったが、アリア・フェンが実行したメインのプログラム名は分かった。
アリアの領域に入り込み、その名でfindを実行すると該当のプログラムは30秒ほどで見つかった。コメントが丁寧に書いてある。
記述者は・・あいつか。
メテオ
そのまんまだ。衛星軌道上にある隕石を大気圏に突入させ目標物にぶつけている。
混乱する。こいつらの使う魔法とかいう力は宇宙空間にも及ぶのか?そもそもこいつらは地球が丸いことや、衛星軌道というものを理解しているのか?
いやそもそも全てがでたらめだ。