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第八話 「規格外の性質」


 私が作った傷薬が、なんかおかしかった。

 普通に素材を集めて、普通に錬成をしただけなのに、傷薬にとんでもない『性質』が宿っている。


「な、何この性質……? なんでこんなすごい性質が、私の傷薬に……」


 性質は、錬成術によって生み出された錬成物に宿る、“特殊な力”のことだ。

 例えば錬成した武器を丈夫にする『耐久性強化』だったり、爆弾の威力を増強する『爆発力強化』だったり。

 それらは錬成物の性能を格段に跳ね上げさせてくれる。

 だから性質それ自体が、錬成した傷薬に付与されているのは何もおかしくはないのだが……


「わ、私、性質が付与できるほど、錬成術上手くないのに……」


 性質付与ができる錬成師は、“熟練の錬成師”のみに限られているはずなのだ。

 錬成時に注ぎ込まれる錬成師の“魔力”と“想像力”によって、付与される性質が決まるから。

 だからろくに錬成術の修行をしてこなかった私が、性質を付与できるはずもない。

 しかもこんなにすごい性質を。


◇清涼の粘液

詳細:溶液(スライム)の粘液を素材にした傷薬

   患部に塗ることで治癒効果を発揮する

   微かに清涼感のある香りが宿っている

状態:良

性質:治癒効果上昇(S)解毒効果付与(S)継続治癒追加(S)


 性質の強さを示す『性質ランク』が限界地点の“S”で、そんな性質が三つも付与されている。

 これを使うだけで一瞬にして傷が塞がり、ついでに毒も完治し、しばらく継続的に傷が塞がるようになってしまうのだ。

 まさに万能の秘薬。

 これ、本当に私が作ったの?


「ショ、ショコラ、自分でこの性質を付与したわけじゃ、ないんだよね?」


「で、できるわけないでしょそんなこと。私、普通の性質付与もまだできないのに……」


「そ、そうだよね」


 魔物討伐を繰り返していたから、魔力はそれなりに高い方だと思う。

 だからたまたま性質が付与できちゃった、っていう可能性も考えられるけど、だとしてもSランクの性質をこんなに発現させられるはずがない。

 するとクリムが、ハッと何かに気付いたように目を見開いた。


「ショコラ、余分に採って来た“素材”とかあるか!?」


「素材? まあ一応、薬草として使おうと思ってた長寿草なら少しだけ……」


 と言いながらリュックから取り出すと、クリムは閃くような勢いで長寿草に手を伸ばしてきた。

 長寿草の一本を右手に持ちながら、魔法の式句を口早に唱える。


「【偽りなき文言――隠された真実を――この手に開示せよ】――【詳細(テキスト)】」


 手に持った長寿草が僅かに光り、直後にその光が文字となって浮かび上がってくる。

 それを見て、クリムはか細い声を漏らした。


「……やっぱりだ」


「……な、何が?」


「素材だよ。ショコラの集めて来た素材の方に、とんでもない性質が宿ってたんだ……!」


「はっ?」


 素材に性質が……?

 いったい何を言っているのだと怪訝な目を向けてしまったが、すかさずクリムが鑑定結果を見せてきて、私は絶句する。


◇長寿草

詳細:豊富な栄養素を持つ薬草

   特に根の方に貴重な栄養が集まっている

   一本摂取すると寿命が一年伸びると言われている

性質:治癒効果上昇(S)


「…………」


 最高ランクの治癒効果上昇の性質。

 本当に、素材に性質が宿っている。

 本来なら錬成術によって付与させるはずの特別な力が、素材の段階ですでに宿っている。

 自然界で採取して来た素材そのものに性質が宿ることは通常あり得ないはずなのに。

 どうして私が採取して来た素材に性質が……?


「性質は錬成によって引き継ぐことができるから、この素材を使うだけでとんでもない性質を宿した傷薬が出来るんだ」


「だから、こんな傷薬が出来たってこと……?」


「うん。でも、いったいどこに行ってこんな素材を採取して来たんだ?」


「ど、どこって、普通に西にあるブールの森で採って来たけど……?」


 ブールの森はこの町の錬成師や鍛治師にとっては代表的な採取地だ。

 この王都から一番近い場所にあるし、気候も穏やかで魔物の強さも並程度。

 それでいて汎用的な素材を落としてくれる種族が多いから、かなり重宝されている場所となっている。


「僕だってしょっちゅうブールの森に採取には行くけど、性質付きの素材なんか見たことないよ」


「た、たまたま、とかじゃないのかな……」


「たまたまでこんなことがあり得るわけないだろ。性質が付与された素材なんか聞いたこともないし、そのうえ凄腕の錬成師が千回に一回生み出せるかどうかの希少な性質ばかり宿ってるんだから。何か“特別な力”でもない限り……」


 と、言いかけた瞬間――

 クリムは突然、ハッと息を飲み込んだ。


「……そうか、わかったぞ」


「へっ?」


「あの、ショコラの試験は合格ってことで大丈夫そうですか?」


「は、はい。技術的な問題も特にございませんので、ショコラ・ノワール様は正式に宮廷錬成師の徒弟として宮廷への立ち入りは認められますが……」


 中年騎士さんから遠回しに合格を伝えられる。

 とりあえずそれは安心ではあるが、続けてクリムがとんでもないことを口走ってきた。


「ショコラ、試験は終わりだ。僕のアトリエに行く前に、まずは二人で神殿に行こう」


「神殿? なんで急にそんなところ……」


「ショコラの体のことが知りたいんだ」


「えぇ!?」


 何言ってんのよあんた! と返す暇もなく、これまた急に腕を引かれて宮廷を後にした。

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