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第七話 「最高品質」


 素材採取を終えて宮廷の方に戻ると、そこにはクリムともう一人別の人物がいた。

 緑色の短髪の中年くらいの騎士さん。

 試験官になる騎士さんとはあの人のことだろうか。

 そう思いながら城門に近づいて行くと、クリムが私のことに気が付いて互いに目が合った。

 なんだか驚いたように目を見張っている。


「も、もう集め終わったの?」


「えっ? う、うん、まあ……」


 頷きを返すと、それを見た中年騎士さんがさっそく採取品の確認をしてくれた。

 開いたリュックを覗き込み、素材一つ一つを丁寧に見てくれる。

 やがてすべての確認を終えると、少し意外そうな顔をクリムの方に向けた。


「た、確かに指定の品が揃っております。長寿草が九本、雨漏茸が九本、溶液(スライム)の粘液が三体分」


「ず、随分と早かったね。もう少し時間が掛かると思ったけど……」


 一応、早めに戻れるように『身体強化魔法』を使って森を行き来したからね。

 そのおかげもあって、二人の予想よりもだいぶ早く戻って来られたのだと思う。

 するとそれが災いして、クリムからあらぬ疑いを掛けられた。


「もしかしてこれ、そこらの露店で全部仕入れたんじゃ……」


「私をなんだと思ってんのよ……。そんなことするわけないでしょ。ていうか宮廷錬成師様なら、素材の鮮度でそれくらいわかるでしょ」


 長寿草や雨漏茸はともかく、溶液(スライム)の粘液は瓶詰めしても鮮度がどんどん落ちていくものだから。

 露店で揃えたのだったら、とてもこのような鮮度ではないことは一眼見ればわかるはず。

 ということを冷静になって理解したのか、クリムはようやく納得したように頷いた。


「まあとりあえず、素材採取の方は合格かな。で、今度は集めて来てもらった素材を使って、傷薬を錬成してもらう。さっそくここでやってもらえるか?」


「う、うん」


 こればかりはさすがに緊張してしまう。

 素材採取は嫌というほどやらされてきたので慣れっこだけど、錬成術の方をやるのは随分と久々だから。


(上手く、できるかな……?)


 近くにあったベンチに腰掛けて、空いているスペースに布を敷く。

 その上に束にした長寿草三本と、雨漏茸三本、さらには溶液(スライム)の粘液一体分を置いた。

 基本的に溶液(スライム)の粘液は塗り薬の錬成素材として使われる。

 そのままでも傷の治療に使うことができるほど高い治癒効果を備えている素材だが、しかし相応の副作用もある。

 そのまま使った場合は特殊な粘着成分が原因で、肌に強い刺激を与えてしまうのだ。

 体質いかんでは激しい炎症を起こして、むしろ治療前よりもひどい状態になる可能性が高い。

 ゆえに治癒効果をそのままに、人体に影響を及ぼす成分を他の素材との錬成で取り除く必要があるのだ。

 それに最適だとされている素材が長寿草と雨漏茸である。


「【調和の光――不揃いな異なる存在を――我が前で一つにせよ】――【錬成(アルケミー)】」


 私は錬成用の魔法を使って、三つの素材の調合に取り掛かった。

 敷いた布の下に紫色の魔法陣が展開されて、同時に三つの素材も光を放つ。

 浮かび上がった魔法陣の中にあるものが錬成対象となり、錬成師の想像力によって出来上がりの品質が格段に変わるようになっている。

 だから私は集中し、三つの素材が上手く調和するように想像力を働かせた。


(長寿草の豊富な栄養素が、粘液に含まれている害悪な成分を消し去る。雨漏茸に蓄えられた澄み切った水が、伸ばし用の水となって傷薬をまとめ上げてくれる)


 やがて光が収まると、布の上には粘液が入っていた瓶のみが残されていた。

 しかし中に入っているのは濁った粘液ではなく、透き通るような緑色をした綺麗な“塗り薬”だった。


「……できた」


 溶液(スライム)の粘液を素材にした初歩的な傷薬――『清涼の粘液』。

 久々の錬成だったけど、失敗せずに上手くできた。

 その嬉しさがじわじわと込み上げてきて、私は思わず綻ぶ。

 やっぱり錬成術は楽しい。

 昔よくお母さんが目の前で見せてくれた“優しい奇跡”。

 これに何度笑顔にしてもらったかわからない。

 私はこの錬成術で、お母さんと同じように誰かを笑顔にしてあげたいと思ったんだ。

 だからいつか、絶対に自分のアトリエを開きたい。


「特に問題はなさそうですね。きちんと指定の傷薬が調合できております」


 試験官の中年騎士さんも合格を出してくれたので、私は続けて残りの二つを作ることにした。

 それも問題なく完成させると、三つの傷薬を見た中年騎士さんは、頷きながら柔和な笑みを向けてくれる。


「はい、三つとも問題はありません。一応念のために、最後に“鑑定”の方をさせていただきます」


「お、お願いします」


 いまだに少し緊張しながら中年騎士さんにお願いすると、彼は瓶の一つを手に取って唱えた。


「【偽りなき文言――隠された真実を――この手に開示せよ】――【詳細(テキスト)】」


 手にした瓶が僅かに光り、直後にその光が文字となって浮かび上がってくる。

 鑑定魔法の【詳細(テキスト)】。

 触れている無生物の情報を開示する魔法で、名前と簡易的な詳細を確認することができる。

 また、素材や錬成物として鑑定した場合は、状態や効果を確かめることもできる。

 錬成が上手くいっていれば状態は『最良』『良』『可』のいずれかになっていて、成功と認めてもらえるはずだけど……


「えっ……」


 鑑定結果を見た中年騎士さんは、突如として目をぎょっと見開いた。


「ク、クリム様! こちらをご覧ください!」


「んっ?」


 慌てた様子でクリムの方に鑑定結果を見せる。

 何か問題でもあったのだろうか?

 そんな不安になるような反応はしないでほしいんだけど、なんて思っていると……


「はっ!? な、なんだこれ!?」


 クリムまで似たような反応を示した。

 だからそういう反応やめてほしいんですけど。


「な、なになに……? 私、何か間違ったことでもしちゃった……?」


 もしかして試験不合格?

 状態が『最悪』にでもなっていたのだろうか。

 なんて悪い予感が脳裏をよぎって、冷や汗を滲ませている中、クリムが意外そうな顔をこちらに向けてきた。


「じ、自分で何を作ったのか、わかってないのか……?」


「はいっ?」


 言われた通りに、普通に『清涼の粘液』を作ったつもりだけど?

 そう首を傾げていると、クリムが鑑定魔法の結果をこちらに見せてくる。

 それを確かめた私は、彼らと同じように目を見張ることになった。


◇清涼の粘液

詳細:溶液(スライム)の粘液を素材にした傷薬

   患部に塗ることで治癒効果を発揮する

   微かに清涼感のある香りが宿っている

状態:良

性質:治癒効果上昇(S)解毒効果付与(S)継続治癒追加(S)


「な、何これ……?」


 なんか、とんでもない『性質』がいっぱい付いてました。

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