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第十四話 「大好評の傷薬」


 傷薬の錬成作業を始めて一週間。

 どうやら傷薬が大好評のようです。


「クリム君の傷薬もすごいけど、ショコラちゃんの方もなかなかに強力だって騎士団って噂になってるよ」


 すでに討伐任務で使用した騎士たちから、かなりの好評をもらっているらしい。

 ということを、アトリエに遊びに来た近衛師団の団長ムースさんに教えてもらった。


「色んな性質が付いてて面白いし、討伐師団の人たちに大人気なんだってさ。特に治癒効果が凄まじくて、どんな傷も一瞬で塞がるから討伐任務でも重宝されてるって話だよ。それと噂だと、千切れかかった腕も元通りくっついたとか……」


「えっ?」


 千切れかかった腕がくっついた?

 私の傷薬ってそんなに治癒効果が高いの?


「開拓師団の方でも採用が決まったから、これからますます錬成依頼が来ると思うよ。よかったねショコラちゃん」


「は、はい……」


 果たして本当に腕がくっついたのかどうかは定かではないが、とりあえず問題は無さそうでよかった。

 ていうかあまりにも上手くいきすぎていて、まだほとんど実感が湧かない。

 私が作った傷薬が、あの崇高な王国騎士団の騎士様たちに認めてもらった……

 本当に身に余る光栄である。

 正直、酷評も覚悟をしていたから意外な結果に驚きを禁じ得ない。


 クリムが作った錬成物に比べたら、私の品はやはりまだ安定感はないと思っていたから。

 私は採取した素材に上等な性質を付与できるけど、その性質は自分で選ぶことができない。

 だからどうしたって錬成する傷薬の性能には多少のバラつきが出てしまう。

 素材ごとに付与される性質はある程度決まっているとは言っても、すべてが同じというわけではないので、完成品にも差が生まれてしまうのだ。


◇長寿草

詳細:豊富な栄養素を持つ薬草

   特に根の方に貴重な栄養が集まっている

   一本摂取すると寿命が一年伸びると言われている

性質:治癒効果上昇(S)


◇長寿草

詳細:豊富な栄養素を持つ薬草

   特に根の方に貴重な栄養が集まっている

   一本摂取すると寿命が一年伸びると言われている

性質:毒耐性上昇(S)


 こんな感じで『長寿草』に『治癒効果上昇(S)』以外の性質が付与されることもある。

 基本的には『治癒効果上昇(S)』の性質が付与されやすいけど、たまにこうして『毒耐性上昇(S)』だったり『身体能力上昇(S)』といった性質が付与される。

 あと『爆発力強化(S)』とか傷薬に継承できない性質とか宿ることもある。

 今回騎士団の人たちに向けて作った傷薬には、『治癒効果上昇(S)』の性質を付与しているけれど、他の素材の性質は厳選していないため『炎耐性上昇(S)』だったり『跳躍力上昇(S)』とか付いたりしてるんだよね。

 それを“面白い”と受け取ってくれたみたいでよかったけれど、大量生産する傷薬はやはり安定感の方が大事だと思う。

 騎士団の方から採用はしてもらったけど、やっぱり自分でもある程度は性質付与ができるようになって、状態も最良のものを作れるようになりたいな。


「さてと、俺はそろそろ仕事に戻るかな」


 ソファにどっぷりと腰掛けていたムースさんは、気怠げそうに立ち上がって扉の方に歩いて行った。


「じゃあクリム君も引き続き、武器錬成の方よろしく頼むよ」


「わかりました」


 そう言ってひらひらと手を振りながら、彼はアトリエを後にした。

 どうやらムースさんはよくこのアトリエをサボり場所として利用するらしい。

 クリムもクリムで仕事の邪魔にはならないから別にいいとのことで、ムースさんの出入りを許しているそうだ。

 でも、ムースさんって確か近衛師団の師団長さんだったよね?


「こ、近衛師団って暇なのかな?」


「あの人が特別ってだけだよ」


 思わず呟くと、それを聞いていたクリムがかぶりを振りながら返してきた。


「騎士は基本、どの師団にいても忙しい身だ。師団長ともなると仕事の量だって桁違いに増える。でもあの人は要領がいいから、どんな仕事も手早く終わらせて休める時間を確保してるんだよ」


 次いでクリムは呆れた様子で続ける。


「だから楽してるように見えたりサボってるように見えたりするのは勘違いで、なんだかんだでやるべきことはやってる人だよ。他の師団長と比べて、仕事への熱意はまったく感じられないけどさ」


「へ、へぇ……」


 そういえば前に宮廷内で立ち話した時も、『仕事なんて一割の力でやればいい。残りの九割で好きなことしよう』とか堂々と言ってたもんね。

 噂に聞く他の師団長さんたちとはまだ会ったことがないけど、みんな仕事に真面目だったり強い熱意を持っているらしいから、ムースさんだけ浮いているような気がする。

 まあ、私もどちらかと言うとムースさんの考えに賛成だけどね。

 根を詰めすぎるとよくないことは、もう身に染みてわかったから。

 好きなことに全力で生きようという気概は、みんな見習うべきものだと思う。


「そういえばクリムって、他の騎士団の人とは交流があったりするの?」


「どうして?」


「いや、宮廷錬成師って騎士団や王族から依頼を受けて、淡々と仕事をこなしてるだけの印象があったから。騎士さんと仲良くしてるのはなんか意外でさ。他にも仲良い人とかいるのかなぁって」


「……別にムースさんとは仲良しってわけじゃないけど」


 なんだか不満そうな顔をしながらも、クリムは渋々と教えてくれる。


「完全に交流がないってわけじゃないけど、話す機会が少ないのはその通りだよ。だから騎士団の人たちとは別に仲良くはないかな。まあ、あの人が特殊ってだけだよ」


「そ、そう……」


 他の師団長さんたちがどんな人なのか聞ければと思ったけど、実際に自分で会って確かめるしかないみたいだ。


「ところで、今日と明日の分の傷薬の錬成終わったんだけど、来週分の素材採取に行った方がいいかな?」


 私は自分の作業机の方を見ながらクリムに尋ねる。

 言われた目標数はすでに達成していて、他にやることも特に思いつかなかったので、素材採取の提案をしてみたのだが……


「もう傷薬の錬成はすっかり慣れたみたいだね。それじゃあ次は、武器の錬成の方もショコラに任せようかな」


「えっ……」


「魔物領域の開拓のために、傷薬と武器が大量に必要なるって聞いただろ。武器の錬成の方もショコラに少し手伝ってもらいたいから、今から武器の錬成の方に取りかかってもらう」


 き、騎士団が使う武器まで……?

 まるで予想していなかった返答に、私は思わず困惑した。


「わ、私、武器の錬成なんてしたことないよ……」


「そこは僕が教えるから大丈夫だよ」


「どんな素材を採取して来ればいいかも、全然わからないよ……」


「僕が一緒について行くから心配ないよ」


 続けてクリムは背中を押すように、あるいはプレッシャーをかけてくるように言った。


「何よりショコラの作った武器も見てみたいって騎士たちが言ってるんだ。もしそこをショコラに任せられるようになれば、僕も錬成術の研究に時間を割けるようになるし、ショコラだって錬成師として成長ができるだろ」


「……」


 まあ、確かに成長はしたい。

 今のところ自信を持って作れるのは『清涼の粘液』一つだけなので、これでは錬成師として一人前とはまったく言えないだろう。

 アトリエを開けば武器錬成の依頼だってたくさん来ることになるだろうから、今のうちにコツとか掴んでおきたいし。

 でもいきなり王国騎士団の使う武器を作れというのは重荷が過ぎるよ。

 いや、でも、傷薬の時と同じでこんな機会滅多にないよね。

 それに宮廷錬成師様が直々に指導してくれるなんて、これを逃す手はあるまい。


「もちろん無理強いするつもりはないから、もう少し傷薬の方の錬成に集中したいっていうことならそれでもいいけど……」


「ううん、せっかくの機会だから、武器の方もやらせてもらうよ」


 何より私の作った武器も見てみたいと、待ち望んでいるお客さんたちがいるんだから。

 というわけで私たちは、一緒に魔物領域の山に鉱石素材の採取へ行くことになった。

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