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第十二話 「効果を調べてみよう」


 宮廷錬成師の手伝いとして最初に任されたのが、騎士たちが使う傷薬の製作でした。

 いきなり責任重大すぎる。

 最初は簡単な素材採取だけって言ってなかったっけ?

 それに確か、開拓師団が魔物領域に厄介な魔物の巣を見つけて、そのための武器と薬が大量に必要って言っていた気がする。

 その分の傷薬を、私が作るってことだよね?


「い、胃が痛いよぉ……」


 充分に性能を満たしている傷薬を作らないと、騎士団に迷惑をかけることになる。

 下手したらそれが原因で、騎士さんたちに大怪我をさせてしまうかもしれない。

 半端ではないプレッシャーが震えとなって全身を駆け巡る。

 とにもかくにも素材がなければ始まらないので、私は重圧に苛まれながらも、朝早くからブールの森に来て素材採取をしていた。


「キュルル!」


「【風刃(エアロエッジ)】!」


 襲いかかって来る溶液(スライム)を迎撃する形で討伐していく。

 作成を頼まれた薬は、先日試験で作ったものと同じ『清涼の粘液』。

 だから必要となる素材はすべてこのブールの森で採取ができる。

 危険度の高い魔物もほとんどいないため、比較的安全に素材採取が可能だ。

 ババロアのアトリエにいた時に向かわされていた採取地に比べれば本当に可愛いものである。

 だから別に気張る必要はないんだけど、問題は素材採取をした後なんだよね。


「昨日は上手くできたけど、今度はちゃんとできるかな……」


 溶液(スライム)の粘液を瓶に詰めながら、私は胸中の不安を口に出す。

 これまでほとんど錬成術の修行ができていなかったのに、いきなり王国騎士様たちが使う傷薬を錬成するなんて思ってもみなかった。

 素材採取をするだけならそれなりの自信があるんだけど、実際に錬成をするとなると不安は止まらない。

 ……いや、これはむしろ絶好の機会と捉えるべきだろうか。

 これまでブラックなアトリエで素材採取しかさせてもらえなかった私が、錬成師としての腕を広く伝えることができる機会。

 これが上手くいけば、錬成師として技量を認めてもらえて、品評会への出品もより現実的になるかもしれない。

 加えてギルドに滞っている“実力不足の噂”も解消することができるかもしれないし、ちょっとやる気を出して頑張ってみますか。


「それにしても……」


 私はたった今採取した溶液(スライム)の粘液を見つめながら、今さらの疑問をこぼす。


「『採取した素材に上等な性質を付与』、だったよね」


 いつの間にか授かっていた称号――【孤独の採取者】。

 それに付随しているスキルの効果は、『採取した素材に上等な性質を付与』するというものだ。

 こうして素材として拾ったものに、性質を付与する力というのはなんとなく想像がつくけど……

 “採取した素材”って、どの辺りから“採取した”って判定になるんだろう?

 素材として拾ってリュックの中に入れたら?

 それとも素材に触れたら?

 だとしたら他人の採って来た素材に触れても性質を付与できるのかな?


「……ちゃんとその辺りのこと、知っておいた方がいいよね」


 私は素材採取のついでに、自分の【孤独の採取者】の称号についても調べてみることにした。




 素材採取を終えて、昼過ぎ頃に町に帰って来ることができた。

 素材は目標数を集めることができて、ついでに称号に付随しているスキルについてもいくつかわかったことがある。

 “採取した素材に上等な性質を付与する”というのは、どうやら素材それぞれに“採取の判定”が決められているらしい。

 例えば“薬草”は『地面から抜いた瞬間』とか、“川の水”は『一定量を川から汲んだ瞬間』とか、“魔物素材”は『倒した瞬間』とか。

 それを私自身が行うことで素材に性質を付与できるようだ。

 だから他人が採って来た素材を、改めて自分のリュックに入れるとか、私が触れるとかしても性質は付与できないらしい。

 なかなかに判定が厳しいスキル、ということである。


 それと、付与される性質は基本的に素材ごとにある程度決まっているようだ。

 薬草系の素材だったら治癒に関係した性質とか、鉱石系の素材だったら鍛治に関係した性質とか。

 これなら薬を作る際は治療系の性質を付与しやすいし、武器防具を作成する際はより強力なものに仕上げやすくなる。

 その辺りは良心的と言うか錬成術のことを考えられたスキルになっていると思った。

 そんな軽い実験も終わらせて、私はクリムのアトリエに戻って来た。


「ただいまー」


 宮廷の長い廊下を心細い気持ちで渡り切り、内心ほっとしながら部屋に入る。

 やはりすぐ近くを王国騎士様たちがすれ違っていくこの環境には慣れないな。

 それに城内を歩いている騎士たちは、基本的には階級が高い人たちが多いと聞くし、余計に緊張感を覚えてしまう。

 なんてことを考えていると、遅まきながらクリムがやや驚いたような目をこちらに向けていることに気が付いた。


「やっぱり素材採って来るの早いね」


「えっ、そう?」


「それだけの量、一人で集めようと思ったら普通丸一日は掛かるはずなんだよ。溶液(スライム)を倒すのだって魔力はそれなりに消費するはずだし、どんな体力と魔力してるんだよ」


「ひ、人を化け物みたいに言わないでよ」


 素材採取係としての経験が長いから、必然的に体力と魔力が鍛えられてるんだよ。

 森の散策も慣れたものだし、身体強化魔法で高速移動もできるし、人より素材採取が得意な自覚は多少はある。

 逆に素材採取をしてばかりだったせいで、錬成術の方はからきし自信がないけど。


「じゃあよろしく頼むよ。今から錬成を始めればそれなりの数を作れると思うから、とりあえず今日の目標は三十個くらいってことで」


 そう言うや、クリムは早々と作業机の方に視線を戻してしまった。

 私はそれに対して、少し思うところがあり、素材棚に採取品を仕舞いながらクリムに問いかける。


「よくそんな軽い感じで任せられるね。私に任せて不安とかないの?」


「言っただろ、昨日の錬成を見て決めたって。ショコラの作ってくれた傷薬はもう充分、王国騎士団で採用できるレベルのものだった。確かに状態や完成度は充分とは言えなかったけど、それを補えるほどの強力な性質が宿ってるからね。ていうかそんなこと聞いてくるなんて、もしかして自信がないのか?」


「むっ……」


 自信は、確かにあまりないけどさ。

 それを改めてクリムの方から言われるのはなんか癪だ。


「ぜ、全然そんなことないし。昨日と同じくらいの傷薬を錬成すればいいだけでしょ。自分の称号のことも少しは理解できてきたし、もしかしたらクリムよりもすごい傷薬を作れるかもしれないよ」


「それはないから安心しなよ」


「えっ?」


 ばっさりと言い返されて、私は憤りよりも疑問が先に浮かぶ。


「な、なんでそう言い切れるのよ」


「そういえば僕の作ったものはまだ見せたことなかったね。確かにショコラが採取した素材にはとんでもない性質が宿ってるけど、それだけじゃまだ僕の錬成品には少し届かないよ」


 そう言ったクリムは、席を立って部屋の隅に置いてあるカゴに近づいて行く。

 どうやらそこに完成した品を仕舞ってあるらしく、中から一つの小さな巾着袋を取り出した。

 さらにそこから薄黄色の飴玉のようなものを出し、こちらに渡して来る。


「こ、これってもしかして、『琥珀の丸薬』? こんな難しいものまで錬成できるの?」


 錬成術で作成可能な傷薬は複数存在する。

 その中でも特に錬成が難しいとされているものの一つが『琥珀の丸薬』だ。

 素材の採取自体は比較的簡単だが、それに見合わず錬成の難易度が異常に高くなっている。

 錬成術は素材同士が結び合うイメージが明確にできていないと、完成状態が悪くなって使い物にならない。

 そして琥珀の丸薬の錬成には水素材が多く必要になっていて、錬成術において液体同士を正確に結び合わせるのはかなり難しいとされているのだ。

 だから琥珀の丸薬の錬成難易度はかなり高いと言われているが、見る限りきちんと錬成できていると思う。

 いや、それどころか……


◇琥珀の丸薬

詳細:琥珀水を素材にした丸薬

   服用することで高い治癒効果と能力向上効果を得る

   甘味がある

状態:至高

性質:治癒効果上昇(A)効果維持上昇(A)


「な、何よ、この“状態”は……?」


 鑑定魔法で試しに調べてみたら、“至高”という見たことのない状態だった。

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