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オペレーターは過去を振り返る

よければよろしくお願いします

 俺は、この世界がレベルのシステムを取り入れてる事に疑問を感じることもなく、受け入れかけていた。


「テレーフォ…レベルシステムとステータス、スキル、職業に関しての言い訳を聞こうじゃないか」


『ハァ…よく聞いてください。私はこの世界に来る前はただの受話器でした…。毎度のように粗末にガチャッと置かれては…放置をされ、滅多に手入れもされる事はありませんでした。その時に、私は気付かぬうちに、埃を被りすぎてしまったのでしょう。昇のステータスやスキルにモヤが掛かっており、遅くなりました…』


「なら、なんでライオン達が襲撃してきた時には、()()()()()()()教えてくれたのかな?」

 

 うん。これは、ただのテレーフォの三文芝居だ。しかも、性質タチが悪い事に…真実がほとんどの嘘を少し織り交ぜた気付きにくいタイプだ。


『ちっ…』


 聞こえてるんだよなぁ…


「とりあえず、俺のステータス見せててくんない?」


 自分が『職業<オペレーター>、スキル<受電>』しかないと分かっていても、先程のファンファーレで、レベルが上がったし、新しいスキルも習得したのだ。


 気になるに決まっている。


『ハァ…どうぞ』


 ◆◇◆◇


 ーステータスー


 叢雲昇《甲斐性なし》 <職業:オペレーター>


 Lv30


 Hp300/300

 Mp200/300


 スキル: 『受電』Mp100消費

     効果:電話の音が鳴らせます

  

    『エスカレーション』Mp20-200消費

     効果:5分だけ解決できる人を召喚します


 ◆◇◆◇


 テレーフォが、大きなため息をつきながら、俺の視界にステータスの液晶を受話器から浮かび上がるように出してくれた。


「テレーフォ、ステータスが振り仮名をミスることもあるんだなぁ。初めて知ったよ。俺の温度が高くなりすぎて、目から塩水がこぼれそうだ」


『ハァ…昇、ステータス機能にもミスはあります!!仕方ないです!!受け入れなさい』


 いや、絶対に弄ったのは、テレーフォだろ!!とツッコミをしたくなったが、ここで騒いでは収拾がつかない。


 たまには、俺が大人になろうではないかっ!!


 そのため、話を切り替える事にした。


「なぁ…この『エスカレーション』使えるんじゃないか?だって、五分とはいえ、教えてくれるんだろ!?」


『一理あります。類人猿に近い昇にしては、比較的まともで現実的な考えです。やってみましょう!!』


 俺はその言葉に思わず、反論しそうになるも止めた。


 確か…テレーフォは『昇と私は一心同体で貴方を基に私は作られた』とかなんとか言ってたっけ…


 俺ってこんなにウザい存在だったのかぁ…と雲一つない青空を眺める。


「エスカレーション」


 俺が受電と同じように唱えた瞬間——なぜかフルマラソンを完走したかのような感覚に襲われる。


 きつい…しかも、身体は無事なのが、余計、精神的にくる。ボロボロだったなら、格好はつくのに…客観的に見れば、今の俺はなぜか苦しんでる人じゃねぇか。


 そんなくだらないことを考えていると——白い光が現れたと思いきや、光は徐々に人の形となり——って、黒髪で美人の垂れ目なお姉さんって…早苗さんじゃん!!!


「早苗さん!?」


 思わず心の言葉と同時に口からも飛び出てしまった。


「昇君無事だったの!?…ってここはどこ!?まさか、私を拉致…?き、きゃぁぁぁぁぁ、襲われる〜…!!でも、昇君なら…悪くはないかも〜…?」


 一人コントやめてもらっていいですか?それと、本当に襲ってしまいますよ?


 嘘です。できれば、早苗さんの肩から下げてる大きなカバンの中に、食料と水があれば、恵んで頂ければと思い、俺は彼女に事情を話した。


「そっか…もう会えないのかもしれないの……………仕、仕方ないな〜…じゃっ、一つ聞かせてくれたら、私のお昼ご飯だったいろひすとディナーパックあげる〜」


 早苗さんは最初の寂しそうな声音をしたものの…最後には、いつも通りの元気で穏やかな彼女に戻った。


「俺が答えれるなら…!!」


「もし…君に私が告白してたら…どう返事した〜?」


 …へ?


『ハァ…マジですか?どんだけモテるんですか?外見が良いだけで、美女と美少女からのラブコールじゃないですか!!妬ましいです!!』


 俺は、丁寧な言葉さえ使えば、煽っていいと勘違いしているテレーフォを無視して…早苗さんとの出会いを思い出そうとする。


 ◆◇◆◇


 それは俺が別海大学一回生の頃の話だ。スマホアプリのバトルロワイヤルに課金をしすぎで…金欠になった。


 しかし、汗水垂らして、働くのが嫌だった俺は、室内環境が整ってて、お客様からのお話を聞くだけでお金が発生するバイト…!?夢じゃね…!?って事でベネマルコーポレーションに応募した。


 その翌日に、面接が決まり…ベネマルコーポレーションへ行くため、電車を使い、指定された住所へと面接の予定時間よりも早めに、足を運んだ。


 面接会場は、市街地にあるオフィスビルの七階のフロアを借りている事務所で、出入りしてる人々もおしゃれを嗜んでいる…輝かしい大学生活を送ってる方には、うってつけの場所な気がする。


 予定した入室時間になったので、エレベーターへと乗り込み、七階へと向かう、


 そして、フロントの綺麗な受付嬢に訪れた旨を話すと、「叢雲様ですね。お待ちしておりました。ついてきてください」とコールセンターをやっている部屋とは異なる来賓室のようなところへと案内された。


 彼女に案内された場所は、茶色の机一つ、黒いソファーが二つが向かい合うようにあり、所謂…四人用の小さな空間だった。


 身近で例えるならば、小学校の校長室などが、近いのかもしれない。


 俺は黒いソファーの前で、立ちながら、面接の人達を待ち続けた。


 そして、二分後、ドアノブがノックされたので「ど、どうぞ」と緊張しながらも、返事をする。


 返事をしてから、五秒も経たないうちに、二人の女性面接官が「「失礼します」」と入室をした。


 その内の一人が早苗さんで、もう一人は、当時のバイトリーダーの板野明美いたのあけみさんだ。


「別海大学文学部所属、一回生、叢雲昇むらくものぼるです…!!この度は、貴重な機会を頂き、誠にありがとうございます!!本日は、よろしくお願いします!!」


 やや早口な口調となってしまった。高校生の頃と異なり、大学にスクールカーストは存在しない。


 そのためか、一人でいる時間が多かった俺は、シャイになってしまったみたいだ。


 頬の温度が上がっていく感覚が、自分でも分かる。かなり、赤くなっているのかもしれない。


 その後、早苗さんに「座っていいですよ〜」と可愛い声と笑顔をセットで…促されて、腰掛ける。


「緊張してらっしゃいますね〜。ゆっくりで構いませんよ〜。そうですね〜。では、叢雲むらくもさんは、弊社になぜ、応募されたのでしょうか〜?」


「早苗君のいう通りだな。叢雲昇むらくものぼる君…気軽に答えてくれたまえ、私達は、君の本音を聞きたいんだ」


 この時の早苗さんは、白いフリルブラウスを着ており、緊張している俺に対して、優しく接してくれた。過去の経験などを質問されて、答えた時も驚いたり、笑ったりしてくれる。


 問題は板野さんだ。彼女の外見は、茶髪をポニーテールで束ね、眼鏡をかけ、スーツを着用している。典型的なキャリアウーマンだ。


 俺に対して、本音を聞きたいなどと言っておきながら、リアクションは一切なく、事務的な態度を取っており、実は、面倒見がいい事実を働き始めてから、知る事になるが、この時ばかりは彼女が苦手だった。


「板野さんだめですよ〜…。叢雲くん…?だっけ?板野さんが愛想なくて…ごめんね〜」


 早苗さんは、心底お詫びするような表情で、両手を合わせて、ウィンクをしてきた。


 その瞬間——胸の高鳴りを感じた。自分でも説明が難しい。けど…会ったばかりの早苗さんの一回毎に変わる表情は…今までの演技をしてそうな女性とは異なり…心から思ってくれている様な気がした…。


 どうやら、俺は彼女のそんな多彩な表情の変化に人生で初めて、一目惚れをしたらしい。


「早苗さんはすごく可愛いですね。すごくタイプです」


 え、俺…早苗さんの方見て、何言って…?


 面接が終わる直前だったにもかかわらず、重大なミスを起こしてしまった。


 自覚した瞬間…俺は両手で頭を抱えて、机に突っ伏した。本来、アルバイトの面接でこのようなことはあってはならないのだ。


 良くも悪くも、社内恋愛は、結婚までいかない限り、親密になった距離をハンマーで壊し、社内の雰囲気や対人関係に亀裂を生む可能性がある。


 そうなると、会社を辞めたくなる人が続出する。だから、許されないと思っていた…。


 だけれども…そうはならなかった。板野さんが、()()()()()()()()()()()()()()。一方で早苗さんは顔を真っ赤にしていた。


「いやぁ、笑った笑った。早苗は、ライバルが多い。イケメン君、精々頑張れよ」


 慰めるかのように肩をポンと叩かれた後…なぜか採用が決まった。


 ◆◇◆◇


 初出勤以降…アルバイトが初めてだった俺に、悪戯をするかのように、早苗さんを俺の指導係にしたり、事あるごとに「そんなんじゃ早苗の心は撃ち抜くのは無理だぞっ」と性悪バイトリーダーの板野さんに怒られ続けた。


 失礼な事をしたにもかかわらず、早苗さんは、俺がわからない所を質問すると、丁寧に教えてくれ、それに付け加えて…必ず、最後には、「どうしても無理なら…自分がやるからやってみて〜」と安心させてくれる。


 もちろん、この対応は俺だけじゃない…他の方も同様だった。当然だ…。仕事なのだから。


 彼女の本名を知ったのも…仕事を始めた時だった。


 正直、あんな公開告白のような事をしてしまうと、当たり前だが…踏み込むのに萎縮してしまう。


 結局…それ以降…早苗さんとの関係が発展することはなく、この世界に連れてこられてしまったが……別に、それはそれで構わないと諦めていたんだけど…な。


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