オペレーターは妄想する
よければいいね、ぶくま等くださるとモチベーションにつながります♪
人生初の乗馬体験が、まさか…王国から追放になった時なんてね…。
馬が奏でる小気味のいいリズムに耳が癒されながら、俺の上半身は前後に揺さぶられていた。
過ぎ去る景色を眺めながら、トホホッと笑っていると、俺を乗せていたが男が笑い出した。
「ガハハハッ、誰もが恐れる王の前であんなに啖呵をきるやつぁ初めてみたぜ。おっと、名乗るのを忘れておったな。吾輩の名前は、トワで兵士長をやっている者だ。お前さんの思い切りの良さに色目を付けて、国境の真ん中あたりで降ろしてやらぁ。まぁ…水も食糧もねぇ…変な服を着て、変な物を右手に持ってるだけのお前さんじゃ、死んじまうかも知んねえがな?」
え? 何、この人? さっきまで、俺を罪人と罵り、蔑んでいた視線は? って消えてる!? 部下達と別れて、二人になったから、寂しくなったの?
しかし、残念。俺の座右の銘は、『出そうになる危ない釘は渾身のハンマーでぶっ叩く』である。故に、おじさんのデレとか誰にも需要ないからな? 決して…嬉しくなんか…うれじいでずううう。
「ガハハハッ、お前さんは考えてることがわかりやすいな。とりあえず、否定しておくが…吾輩はあの王のことは死ぬほど嫌いだ。だが…あの王様を舐めてはいけねぇ。あいつはやべえんだ。あの勇者様も…奴の餌食だろうよ…」
は? どう言う事だ?
それ以降、トワは何も語らなかった。しかし、彼は本当に俺を森の真ん中あたり? まで送ってくれた。
「んじゃ、ここまでだ」
その後、トワは豪快に笑い、馬に跨り去っていく。
◆◇◆◇
『ハァ…あの豚…ではなく、一応、彼も立派な国王ですよ?なんで喧嘩売ったんですか?馬鹿なんですか?』
彼が去った瞬間、俺とあのサディスト悪魔との会話に乱入してきた声が、再び俺の脳内に届いた。
いや、貴方も豚って言いかけてましたよね?
少しだけ、回復したと思っていた俺の繊細で庇護欲を掻き立てる筈のメンタルが、別の角度から飛んできたボディブローに横腹を抉られた。
◆◇◆◇
メンタル回復後、『諦めたら、ジュースですよ!!』って言葉が、世の中に存在する事を知っている俺は、険しくない道を軽やかな足で進み、森の中に設置されているかもしれない自動販売機を探す。きっと…その自動販売機には『ポキリ』が売ってるはずだ…!!
『ハァ…あるわけないじゃないですか。そろそろ、ボケは不要ですので、始めさせて頂きます。私の名前はテレーフォです。昇達の異世界召喚に巻き込まれたせいで、自我が目覚め、私のことを雑に扱っていたあなたと離れられなくなり、人生を諦めようとしている悲しい受話器です』
離れられないって事は…つまり、この受話器が俺の運命の相手…?
『え゛この人…ポジティブすぎませんか?』
テレーフォのことを無視して、少し面白くなりそうだったのでイメージをしてみる。
◆◇◆◇
パパパパァーン、パパパパァーンと結婚定番ソングが鳴り響き…それを合図に、たくさんの花が添えられた結婚道を白いタキシードを身に纏った俺と俺の右耳に当てている受話器が祝福されながら、ゆっくりと歩く。今日の受話器には花飾りがされていた。
「新郎新器のご入場です。皆様、盛大な拍手を」
パチパチパチパチ———
「あなたは健やかなる時も、受話器を彼の耳に当て続けますか?」
奥に待ち構えていたのは…白いタキシードを着た肌が黒くて、頭に花冠を被っている牧師だった。
彼は笑顔でテレーフォに問いかけてきた…。
嫌…!!せめてお前は違う服着てこいよ!!ってかキャラが濃い!!なんで、俺達より目立つ格好してるんだ!!
『ハァ…』
「次に昇さぁん…あなたは健やかなる時も受話器さぁんを耳から離しませんか?」
「え?え?」
「それでは誓いのキスを——」
誰かぁぁツッコメやぁぁぁ!!!!
◆◇◆◇
『変な妄想やめてください…吐き気がしました』
「奇遇だな…俺もだよ」
『後、先程の可愛らしい新米勇者さん、あなたに気がありそうでしたよ? まぁ、外見だけならば、悪くないですからね』
まるで、中身が腐ってると言わんばかりの、ひどい言われようだ。
『それに、あなたの職業…<オペレーター>ですからね?それに引き換えあの子は<勇者>…ハァ…なんで私は、コレをサポートしなくてはならないんでしょう?』
オペレーター…? いいじゃん!!!何が不満なんだろうか。むしろ受話器からしてみれば、光栄じゃない?
『ハァ…とりあえず、水の確保と食料の確保を優先にしましょう。くれぐれも、くれぐれも次の国では失敗しないでくださいね?』
「おっと…食料はなんとかなるみたいだ。ほら、俺達の周りを見てみろよ…いつのまにか…俺達の周りに体長ニメートルくらいの濃い茶色の鬣が立派なライオンの集団が、ご丁寧に食べられにきてるぜ…?」
ほんと…いつのまに、囲ったんだ…。
なんて素早い俺達の囲い方、俺でなきゃ見逃しちゃうねと不意打ちで襲われなかった事実に我ながら高い評価をして欲しい物だ。
『た、猛き獣達よ…お、落ち着きなさい。私は、この男から離れられなくなり…渋々、昇と様々な情報が繋がっている受話器です。彼の方が美味しいですよ!!』
え? サポートどころか…俺が裏切ろうとする前に、俺の事を裏切ったんですけど!?
「おぃぃぃぃぃ…どこかのスライムさんの相棒と違ってなんで…こんなにも使えないんだ!!」
『解:検索した結果…あなたこそ、封印されているドラゴンの友達とかいないんですか?』
地味にパロってくるなぁぁぁぁ。
おいおい…最初こそ、テレーフォのボケに思わず、大きな声でツッコミをしていたからかもしれないが、萎縮していたライオン達の家族が、徐々にこちらへ威嚇をしながらではあるものの…距離を縮めて来てるぞ??
『もう、やめましょうヨォォォ。もう、これ以上戦うのォォォォ!!!ライオンさん達の時間がもったいだいぃぃぃ!!…ゴホン…それに今の貴方のレベルは低くてスキルも一個しかありませんからね?』
使い所、間違ってんだよなぁぁぁぁぁ。ってかさっきからどこで覚えたァァァァァァァ
『え?私と昇は一心同体ですよ?そもそも、私の自我は恐らく、貴方を元に作られていますしね?…やっぱり、まだ死にたくないので、伝えておきますね。最弱の昇が使えるスキルは<受電>です。多分、スキル名叫べば、使えるんじゃないですか?私に聞かないでくださいね?私も巻き込まれて、あなたの支援を頼まれただけです』
へー…頼んだ奴がいるのか…でも、今はいいや。
しかし、テレフォーめ…<受電>を舐めている。天使《お客様》か悪魔のどちらかによっては、オペレーターのモチベーションが異なるんだぞ。
どれほど恐ろしいのかを教えてやる!!
「受電っ!!!」
俺は受話器をライオン達に向けて、彼らの方へ自ら走り出す。
無策でもなければ、ヤケでもない。獲物だと思っていた人が立ち向かって…こっちに接近した時…捕食者はどう動く? 俺が捕食者ならば、怯んでしまう。
俺の予想通り、ライオン達は先程の低い唸り声を上げて、凛々しかった姿とは、異なり『ワオッ』と百獣の王とは思えない情けない声を出した。
『虚を付く』ことを知る人間も存在するんだ…。いくら何でも…先程のスキルが組み合わさる時だろう。
ってか、鳴ってくれなければ、ライオン達の胃の中で生活する事になるだけだ。
そんな俺の思いが通じたのか——その刹那、
ジリジリジリジリジリジリジリジリッ
受話器から大きな音が鳴り響く。ライオン達よ!!!耳を空けて、よく聞け!!!これがお客様の音だ!!!
よしっ!!突然、鳴り響いた不可解な音にライオン達は背を向けて、全速力で逃げていった。
脳内で、テレーフォとは異なるシステムのような無機質のファンファーレが鳴り響く。
——レベルアップしました
——レベルアップしました
——レベルアップしました
…
——レベルアップしました
——新たなスキル『エスカレーション』獲得しました
ライオン達を追い返しただけなのに、何故、レベルが上がったのだろうと思いながらも、水などが優先だ。わからなければ、テレーフォにでも聞けばいいだろう。