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第二十三話 人権屋達

 


「本当に…終わらせたと言うのか?」

「見ての通り、全員武装解除している。

 もう彼らに戦う意思はないよ」


 ギャスレイに潜んでいた亜人の兵士、約100人近くが一同に集まり、全ての武器をレイの目の前で放棄した。

 中には憮然とした表情の者や納得いっていない者もいたが、レイが誰一人として殺さなかった事を考えれば、彼らも武装解除に応じる他はなかった。


「これで彼らはただの一般人と同じだ。

 さぁ、どうする? ここで彼らを殺せば、お前らは軍人じゃなく、ただの人殺しになるぞ」

「……」


 アルベルトもまた、煮え切らない表情であった。


「しかし…これは上層部にどう説明したらいい」

「簡単だ。

 戦う気がないから、こっちも戦うのをやめました。

 だから平和的に話し合いましょう。

 はい、おしまい」

「…政府が納得するとは思えん。

 我々だけではない、双方が今の方針を変えるとは…」

「そうかもしれない。

 だけど、これから俺たちは沢山の戦場を回って、戦いをやめさせる。

 そうなれば、この戦争自体が止まるかもしれない。

 いずれにせよ、あんたは起こった事を報告してくれればいい。

 それで処分なんて事になれば、俺に言え。

 教会を通じて俺が文句を言ってやる。

 そうだろ? サリー」

「お前なぁ…面倒ごとに教会まで巻き込むなよ」


 呆れたようにサリーは溜息をついた。


「まぁでも、いいぜ。

 私だって、今回の戦争に納得はしちゃいない。

 教皇猊下も戦いには反対なんだ、力にはなれるだろ」

「そういうわけだ。

 あとはあんたの矜持と良心次第だ、少佐」

「……」


 その時、後方から伝令兵が足早に走って来た。


「少佐! 後方からアズリエル王国の飛空挺が高速接近中です!」

「援軍か?

 しかし、既に撤退報告はしているはずだぞ」

「はい、既に援軍の必要は無しと連絡はしてあるはずなのですが…それに、援軍にしては飛空挺の規模が小さすぎます。

 これはせいぜい、小隊が高速移動するための物のはず」


 そうしているうちに、やがて肉眼でも確認できるほどにアズリエルの小型飛空挺は近づいてきた。

 やがてそれがレイたちに上空に到達するまでに、そう時間はかからなかった。

 そうして上から降りてきた人間を、レイはよく知っていた。


「バリー・コンドレン将軍…?」


 今や悪名高き、コンドレン将軍だった。

 その両脇には黒い外套を被った人物を二人連れていたが、その二人が只者でない事を全員が瞬時に悟った。


「おやおや、アルベルト公国軍少佐だけでなく、ルークスナイツの女傑サリー、そして、レイ・デズモンドまで一緒とは。これはまた好都合と捉えるべきかな」

「将軍、一体何の御用ですか。

 既に我々は撤退予定であり、もうここにいる人間に敵意は…」

「わかっているとも、少佐。

 単純に私は、私の仕事をしに来たまでだ」


 パチン、と将軍は指を鳴らした。

 次の瞬間、レイは封印術式によって拘束された。


「なっ⁉︎」


 通常ならレイが捕縛されるなどあり得ない。

 しかし術者が余程強力な魔力係数を持っているのか、レイの力を持ってしても、その高速を打ち破る事は出来なかった。


「これはこれは、予想以上だ。二人掛かりならばレイ・デズモンドでさえ封じれるとは」

「こっ、この野郎! 一体何を…」


 サリーがサーベルを構えた瞬間、既に外套の男の一人は動き出しており、サリーの腹部に痛烈な一撃を見舞った。


「ぐっ‼︎」


 そしてそのままサリーにも封印術式を施し、たちまち行動不能にした。


「な、何を…何をする気ですか!」

「簡単だ…やれ!」


 コンドレン将軍は右手を挙げて、もう片方の外套の男に指令を出した。




 次の瞬間、悲劇は起こった。




 懐に隠し持っていたサブマシンガンを取り出すと、男はそこにいたジャクソンを含めたアガルタ兵全員に向かって発砲した。


「なっ⁉︎」

「くっ‼︎」


 勿論、全員が防護術式を展開して身を守ったが、それも功を成さなかった。

 恐らくは弾丸が純ミスリル製なのだろう、レイを二人掛かりでなら封じれる程の魔力を持つ者が扱えば、それは途轍もない威力となる。


「グッ…ガハッ‼︎」


 ジャクソンは膝をつき、血反吐を吐いた。

 他の者も同じ様に吐血してうずくまるか、あるいは既に事切れているかである。


「銃撃だけでは心許ない。魔法で焼き尽くせ!」

「な、何を…やめろぉぉぉっ‼︎」


 レイの叫びも虚しく、コンドレン将軍が指示を出すと、その男は掌に巨大な火球を作り、それをジャクソンたちに向かって投げつけた。

 するとそれは一気に爆散し、アガルタ兵全員の体を焼き尽くした。

 其処彼処に阿鼻叫喚が響き渡り、周辺は一気に地獄絵図となった。


「ふっ、非人種の鳴き声など、やはりノイズにしかならんな」

「しょ、将軍…一体何を考えているのだ!」


 アルベルトはコンドレンに近づき、胸倉を思い切り掴んだ。


「決まっているではないか、モナドの処分さ。

 大規模な魔力を感知したのでね、アズリエルとしても奴らの殲滅は急務なのだよ」


「だからと言って、既に武装解除している人間に向かって攻撃するだと⁉︎

 連行して死罪にすれば良いだけの話だろうが! 何故ここで殺す必要があったのだ‼︎」

「これはリチャード王のご命令でね。

 先のハリー・ジダンの様に世間の目に触れれば、そこの教会の奴らの様な人権屋たちが騒ぎ出すばかりでなく、世界中の非人種勢力達が更にモナドを英雄視し出すのさ。

 だからこそ、彼らは秘密裏に殺されなくてはならない。

 奴らの血肉の一片もこの世に残すな、とのお言葉まで頂いているよ」

「く、狂ってやがる…この殺人狂がっ‼︎ てめぇら、どこまで腐ってやがるんだ‼︎」


 押さえつけられながら、サリーが叫んだ。


「我々は正義のために、常にベストな行動をしているだけさ。

 君らの様に、理想論だけで動いているわけではないさ」

「正義のため…?

 こんなものが正義か!

 我々は近代的法治国家として、アドナイの子らとして相応しい戦いをせねばならんのだぞ!

 これは何だ、ただの無差別殺戮だろうが‼︎」

「くだらん。

 我らは純粋種として、劣等人種である亜人を導き、統治していかねばならん義務がある。

 それは貴様とて同じだろうに。

 さて、仕事は終わりだ、引き揚げるぞ。」

「ふざけるなっ、待てええええっ‼︎」


 そう言ってコンドレンは絶叫するレイに背を向け、二人の外套の男と共に去って行った。

 その封印術式が解除される頃には、飛空挺の姿はすっかり小さくなってしまった後であった。

「…くそっ‼︎」


 レイは地面に拳を打ちつけた。

 またしても、守れなかった。

 純粋種の傲慢のままに、またしても虐殺を許してしまった自分が許せないでいる。


「あの野郎、殺してやるっ!

  待ちやがれっ‼︎」


 サリーは激昂したまま飛空挺を追おうとしていたが、それをアルベルトが背後から止めていた。


「よせ! デズモンドでさえ叶わない奴らだ、今行っても返り討ちになるだけだ‼︎」

「冗談じゃねぇ!

  納得できるかよ、こんな事がよ‼︎」

「私だって納得いかん!

 だが今必要なのは、全員の救助だ‼︎

 まだ何とか息のあるものも多い、手を貸せ!」


 そしてアルベルトは、そこにいた公国軍の兵卒達に指示を出した。


「医療部隊に緊急要請だ! 王国軍による虐殺が起こったと伝えろ‼︎」

「し、しかしこれは、大公閣下の許可も降りた正式な作戦だと…」

「ゴチャゴチャ抜かすなっ! 責任は私が取る、早くしろ!

 衛生兵! 何としてでも助けるんだ! 我々の作戦で無差別殺人が起こったなど、生涯の恥だぞ‼︎」


 その号令によって衛生兵達は、一人でも多く救わんと奔走していた。

 しかし死傷者の数に対して、衛生兵の数が足りないのは明白だった。


「俺たちもやろう、サリー!

 今は彼らを助ける事が先決だ‼︎」

「ちっ、仕方ねぇな‼︎」








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