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第二十二話 その資格

 360度・上下左右を縦横無尽にジャクソンは猛スピードで飛び回り、その動きはレイを翻弄した。

 その中で次々と放たれる高威力のビーム砲を、レイもまた持ち前の超スピードで駆け回る事で回避していった。

 空中に向かってハイジャンプし、レイはジャクソンに向かって斬りつけた。

 しかしそれは残像を掠めただけで、傷をつける事は出来なかった。

 瞬時にレイは斜め上からの光に気付き、身体を捻って上空からのビームを躱した。

 途轍もない速さで空を飛び回れる彼は、相手の意表をつく位置からの攻撃はお手の物なのだろう。


「くっ!」


 レイも負けじと全開のスピードで空を飛び回り、ジャクソンを追尾した。

 しかしそのスピードは凄まじく、レイの攻撃は魔法・剣撃を問わず悉ことごとく空振りした。


(スピードだけなら、恐らくはディミトリ・ラファトと互角だな)


 レイと並べるともなれば、恐らくは魔王と呼ばれた男・ディミトリと同等とみていいだろう。

 確かに攻撃自体は当たらないし、当たっても防御術式で簡単に無効化できる。

 しかし攻撃を何とか躱し続けられる反面、相手のスピードが異常に早く、此方の攻撃もまた相手に躱されてしまっていた。


(負ける事は確かに無いが…しかしこれだけじゃ勝てないな)


 相手の攻撃をかわしながらレイは思った。

 このまま持久戦に持ち込む事も可能ではあるが、そうなった場合こちらが弱体化した隙に他の兵が不意打ちを加えてくる恐れがあった。

 雑兵ならば何とか対応できるかもしれないが、それがまたモナドのような人間であった場合、勝率は未知数であった。

 根本的な戦法を変える必要性をレイは感じ始めていた。


(攻め方を変える必要があるな)


 しかし突如として、ジャクソンは動きを止めた。


『流石ハ勇者…僕の攻撃ヲここまで見切るなんテ、君が初めてダよ』

「お褒めに預かり光栄だな。とはいえ、お前の攻略法も少しだが見えたぜ。

 確かにお前は強いが、俺には勝てない。

 諦めて投降するなら、痛い目は見ずに済むぜ」

『気が早いネ…それはコレを受けてからにシテもらおうか!』


 そしてジャクソンは、その1メートルはあろうかという嘴を大きく広げ、術式を展開した。

 すると周囲の空間全てが瞬時に歪んでいき、それにレイも取り込まれていった。


「⁉︎」


 次の瞬間、レイの鼓膜から脳髄にかけて激痛が走った。

 例えようのない不快感と痛みの中で、レイは悶え苦しみ、遂には浮遊状態さえ維持できずに地面に崩れ落ちた。


「ぐっ…あがっ…‼︎」

『苦しんデいるようだネ…点ではなく線ヲ攻める必要があると思っテね、こうした攻撃方法にさせテもらっタよ』

「う…くそっ!」


 毒の術式かと疑い、レイは防護術式と回復術式を同時に展開した。

 しかし何故か効果はなく、むしろ激痛は悪化するばかりだった。


『ハハっ、あまり魔力を消耗しない方がイい。余計に痛みが酷クなるぞ』

「バカな…防護術式で防げないだと⁉︎」


 術者の能力次第で防護術式は、その強度を増す。

 レイほどともなれば、殆どの物理的・魔術的干渉を全て跳ね除ける。

 それは毒を含んだ空気に対しても同じだった。

 しかしそれをも無効化するともなれば、これは全く別のものであると考えるべきであった。

 防護術式でも防げないもの、防ぐ必要が無いもの、恐らくそれは一つであった。


「これは…超音波か!」

『よくわかったネ。

 君ノ能力の高サは知っていたから、事前に君へノ対策も練っテいたんダよ。

 範囲攻撃であリ、絶対に防げなイ"音"で攻撃するしかナイとね』

「ぎっ…ぐぅぅっ…」

『さぁ、ユックリと死んでいくガいい!』


 その痛みは徐々にレイの脳髄を蝕んでいた。

 激痛に苦しみながら、レイは必死で対抗策を考えた。


(何か…何かこの音に対抗する術は…)


 鼻血を垂らし、地に膝を付きながらも、尚もレイは考えた。


(超音波…周波数…何か…!)


 やがてレイは、たった一つの解決策を打ち出した。


(うろ覚えだが、やるしかない!)


 思い切り息を吸い込み、レイは全身に水の術式を展開した。

 するとレイの全身は水の球体に包まれ、呼吸すらできなくなった。


『ハハっ、遂に自殺カイ⁉︎ オカシクなったのカ⁉︎』


 その球体の中でレイは術式を放った。

 十数秒の間、その術式は輝き続け、その間レイは呼吸できない苦しさに表情を歪めていた。


『今更何をやったってテ無駄サ! さぁ、ユックリと死んでい…け……⁉︎』


 しかし次の瞬間には、ジャクソンが地面に倒れ伏していた。


『アグ…ガ…バカ、な…⁉︎』

「ブハァっ! はあっ、はあっ…‼︎」


 やがてレイが術式を解くと、球体はレイの体を離れた。

 しかしそれは粘性を持ち、スライムのように地面に塊となって残った。


『な、何故…超音波ガ…効かなイ…』

「効かなかったわけじゃない。

 ただ効果を薄める事は出来た。

 この水は見ての通り、ただの水じゃない。

 吸音材に使われるゴムに近いものだ。

 こいつが周りの音を大分吸収してくれた。

 お前を神経毒の術式で動けなくする十数秒間、超音波のダメージを軽減する必要があった。

 下手をすれば、こちらが魔法を発動させる前に死んでたかもしれないからな」

『ぐ…くそ…』

「油断したな。

 あのタイミングで慢心せず、俺から離れておけばよかったんだ。

 そうすれば毒の術式にはかからなかったものを」


 ジリジリとレイはジャクソンに向かって歩みを進めた。


『うグ…殺すなら殺セ…どうせ、生き残ってモ狂い死にするだけダ…』

「そうかもな。でも、それじゃ俺は納得出来ないんだ」


 そうしてレイは手を翳した。

 するとジャクソンの獣化魔法が、徐々に解けていった。


「流石に2度目ともなれば、多少はスムーズにいくもんだな」

『な…バカな! 何を考えている⁉︎』


「確かにお前は死ぬべきなのかもしれない。

 でも、同じように人をたくさん殺しておきながら、勇者呼ばわりされてる俺みたいな奴だっている。

 なら、俺にお前を殺す資格なんてないよ。

 それに俺は戦いを止めに来たんだ。

 誰かを殺して戦いを鎮めても、絶対に遺恨は残る。

 だから殺さない。それだけの話だ」


 やがてジャクソンは完璧に人間の形を取り戻した。


「ふぅ…やっぱり体力を消耗するな、これは」


 そうしてレイは、ジャクソンの手を握り、身体を起こした。


「しばらくは動けないだろうからな、少しだけ肩を貸してやる」

「お前…」


 ジャクソンの瞳からは、既に敵意は抜け落ちていた。



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