表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

76/147

第十三話 幇助罪



「どうしたよ、敵か?」

「そ、それが…いきなり公国からの特使が、テロ幇助(ほうじょ)の容疑で我々を拘束するとの事です!」

「何⁉︎」

「ど、どういう事だよ⁉︎」


 まさしく寝耳に水な話であった。

 先程上陸した際にも、軍部はレイたちに対して積極的に攻撃する意思を見せてはいなかった。

 それは即ち教会に対しては、合法的に拘束する権限や口実がない事を意味する。

 にも関わらず、身に覚えのない罪状で捕らえられるのは、あまりにも突然すぎた。


「わ、わかりません…とにかく、隊長とレイ様を出せの一点張りで…」

「…ここにいても仕方がない。とにかく話を聞こう」

「確かに、それしかねぇな」





 表には特使と見られる両眼をギラつかせた男と、その後ろに明らかに手練れと見られる者たちが控えていた。

 武器は持ち合わせてはいない様だったが、レイたちが攻撃する意思を見せれば直ちに反撃してくるであろう事は、容易に想像がついた。


「レイ・デスモンド、そしてサリー・コーヴィックだな」

「それで間違いない。だがテロ幇助とはどういう事だ?」

「何も聞いてはいないようだな。まぁよかろう、これを見るがいい」


 その特使と見られる男は、レイたちの目の前で新聞を広げた。

 大見出しの欄には”市街地で亜人過激派グループによる市街地テロ”という文字が踊っている。

 それを見たレイもサリーも、心底驚愕した。


「な…!」

「これは一体…」

「先ほど刷り上がったばかりの緊急号外だ。何が原因で起こったかわかるか?」

「げ、原因?」

「移送中のハリー・ジダンを救出するため、モナド達が市街地において輸送車を強襲したのだ。

 兵士はおろか、民間人にも犠牲者が大勢出る事態になった。

 お陰で現在も町は大パニックで、我々が必死で火消しに追われている最中だよ」

「な、何だと⁉︎」

「聞けば、瀕死だったハリーを蘇生させたのはレイ・デズモンド。貴様であったな?」

「あ、ああ…」

「大人しく奴を始末していれば、ここまで被害が大きくなる事も無かったろう。

 貴様はルークスナイツを率いて今回の戦争に介入しようと試みた、この結果がこれだ。

 もはや見逃すことはできん、貴様ら大隊全員の身柄を拘束する。これはガルム大公直々の勅令である」

「…!」


 レイは息を飲んだ。

 もちろん抵抗する事は出来る。

 だがしかし、責任の一端が自分にもあるという事は、どうしても否定し難い。

 そのことがレイに口答えをさせる事を躊躇わせた。


「お、おい! ちょっと待てよ‼︎

 それにしたって、いくら何でも、いきなり逮捕なんてあんまりだろ!

 明らかに人権侵害だぞ! こっちだって道義に外れた事をしたわけじゃないんだ、拒否権を行使する!」


 黙ったままのレイに代わるかのように、サリーが特使に対して反抗した。


「面白い、抵抗してみるかね?

 確かに我々だけの力では、君たちを強制的に連行することは難しい。

 特にレイ・デズモンド、君に至っては私たちは傷一つ付ける事すらできんだろう」


 特使はニヤリと口の端を歪めた。


「しかしだからと言って、全く以て無力というわけでもない。

 君らの仲間の誰かを道連れにすることくらいは、出来るかもしれんぞ?

 ここで我々がやるまでもなく、公国領内に止まるうちは、いずれ誰かが君の仲間を殺すかもしれん。さぁ、どうする?」


 彼らは巧みにレイの弱みを突いてきた。

 確かにレイだけはその圧倒的な力をもって、目の前の障害を軽く退けられるかもしれない。

 しかし仲間たちはその限りではない。

 もしこの場を切り抜けられたとしても、別の場所でレイに隙を狙って仲間を狙うかもしれない。

 余計な戦闘で他人に危害が加えられる事は、レイの望むところでは無かった。


「…わかった。

 抵抗はしない、連れて行ってもらっても結構だ」

「ちょ、ちょっとレイ!」

「俺の行動の結果だというなら、仕方がない。

 たが連れて行くのは俺だけだ。

 サリーや他の奴らは放っておいてくれ」

「何?」

「ルークスナイツは全員、教皇猊下の認可の元で動いている。

 確かに言い出したのは俺だが、教会のトップが絡んでいる以上、その直下にある者たちにまで手を出すのはリスキーじゃないのか?

 立場こそ永久中立国だが、やろうと思えば教皇猊下は、何がしかの理由をつけてルークスナイツをアガルタ側に派遣することもできる」

「……」

「お、おい! 何言って…」

「心配しなくても、俺一人捕らえれば、この大隊の戦力の8割以上は削ぐ事が出来るはずだ。

 教会を牽制するには十分だろ?」

「…いいだろう、サリー・コーヴィック以下ルークスナイツの面々は、執行を保留としよう。

 そのかわり、貴様はこの場で拘束の上、連行する。

 無駄な抵抗は許さんぞ」

「別に言われるまでもない、好きにしろ」


 特使が片腕を上げると、屈強な男たちの一人が前に出た。

 その男はレイの前に立つと、レイの手首に術式を展開した。


「拘束魔法を掛けさせてもらう。

 もちろん、こんなヤワな代物であんたを縛り付けられるワケがないんだが…一応形式的なものだ、悪く思うな」

「別に構わない。

 無駄な抵抗はしないから、早く連れていってくれ」


 レイは一切抵抗する素振りを見せなかった。


「ちょ、ちょっと待て! レイ、それでいいのかよ⁉︎」

「俺の決断の結果で民間人に犠牲が出たのなら、ここで反抗するのは筋が通らないよ。

 それに、ここで無駄な争いをするのは得策じゃない。

 双方がぶつかれば、お互いに犠牲が出る。

 それはサリーだってわかるだろ?」

「ぐっ…で、でもよ…!」

「心配しなくても、こいつらは俺をすぐに殺す気はないし、殺すだけの力も持ち合わせてはいないだろう。

 しばらくの間、俺抜きでどうやって戦争を止めるか、それを考えた方が得策だ」

「レイ…」

「じゃあ、しばらく行ってくる」


 そのままレイは、特使たちに連行されていった。

 彼の背中を、サリーはただ見つめる事しか出来なかった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ