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第八話 モナド

 次の日、レイは既に地上を離れていた。

 ルークスナイツ一個大隊を乗せた飛空挺は、徐々に大陸への距離を詰めている途中であった。


 艦橋内で進路を見つめながら、ルークスナイツのマントに身を包んだレイは、二つのハンドガンに弾倉を込め、腰の両サイドにあるホルスターに収めた。

 サブマシンガンのストラップを締め、尚且つ背にはカインの忘れ形見でもある大剣を背負い、戦闘準備を整えた。


「気が早いな、勇者さんよ」


 背後のドアが開き、サリーの陽気な声が耳に入った。


「シーアまではもう少しかかるぜ。敵の気配もないんだから、ゆっくりしてても良いんじゃないか?」

「いや…久々に銃を握るから、感触を確かめておかないと」

「んなこと言ったって、射撃訓練では百発百中だったじゃないか。まだ準備不足だってのか?」

「下手をすれば、相手を殺してしまう。だから、いつでも用心して扱わないと」


 銃というのは、対象となるものを殺傷するためだけに存在する。その必要性も危うさも、レイは嫌という程に熟知していた。


「しかしまあ、全部が純ミスリル製の弾丸とはいえ、弾数は多くないぞ。それだけで大丈夫なのか?」

「心配はないよ。いざとなれば、剣と魔法で対応すればいい。銃火器系はあくまで万が一のためさ」


 その膨大な魔法の威力から、レイには特別に純ミスリル製の弾丸が割り振られた。

 使用者の総魔力値や魔力係数により威力が増減する特性を持つそれは、人智を超えた能力を持つレイこそが持つに相応しいと判断されたためである。

 それによりレイは圧倒的なまでの破壊力を手に入れた。


「俺以外の全員は、防戦に徹するんだ。無駄な犠牲は避けたい」

「おいおい、これでも全員強者揃いだぜ? そう簡単には殺されないだろ」


 サリーの言葉は正しかった。

 敬虔なアドナイ教徒の中でも特に戦闘術に長け、文字通りの一騎当千の実力を持つものだけが入団を許される、それがルークスナイツである。

 基本的には傭兵団に近く、世界のあらゆる場所から実力者たちをヘッドハントして、自軍に加えていくスタイルだ。

 ともすれば烏合の衆になりがちな集団が上手く機能しているのは、全員が深く信仰心を持っている事と、サリーの手腕によるところが大きい。


 サリー・コーヴィックは名家の長女という肩書きを持ちながら、教会直下の学院を首席で卒業。そのまま他国の士官学校へと入学する。そちらでも他を圧倒する成績を上げながら、任官を拒否し、卒業後はアルマ教主国へと帰国する。

 そのままルークスナイツに入団し、アラニストや原理派が入り乱れる強者達を、そのカリスマ性で纏め上げる、まさしく女傑と呼ぶに相応しい人間である。


「俺たちはあくまで戦いを止めに行くんだ。戦いに参加するわけじゃない」

「へっ…らしい考え方だな」


 そう言ってサリーは呆れたようにため息をついた。しかしその顔は、何処か笑っているようにも見えた。


 突如として、レイ宛のコール音が鳴り響いた。どうやらマリアからのコールらしく、何かと思いながらレイは術式ウインドウを開いた。


「もしもし?」

『話は聞いたぞ、デズモンド。どうやら戦いを止める気になってくれたらしいな。

 しかもルークスナイツまで率いているとなれば、まさしく怖いものなしじゃないか』

「別に俺が率いているわけじゃありませんよ」

『わかっているさ、隊長は後ろにいるコーヴィックの姉だろう? それでも、教会がお前の信念に力を貸したことに変わりはないよ』


 サリーの方を見やると、不機嫌そうに顔を逸らした。彼女は基本的に戦争犯罪を犯しがちな王国の軍人を嫌っており、それはマリアに対しても同じだった。特に妹に深く関わっていたマリアには、特に不信感が拭えないようだ。


『ふっ…まあ良かろう。私が伝えたかったのは、亜人たちの事についてだ』

「亜人たち…? アガルタやティアーノの勢力に、何かあるとでも?」

『ああ。ジェフリー・アベド暗殺事件や、各地での武装蜂起…恐らくこれらは、ティアーノ旧特務諜報部隊"モナド"が背後にいると見られている』

「モナド?」

「お、おい! そりゃマジなのか⁉︎」


 先ほどまで目を逸らしていたサリーが会話に割り込んできた。


『確証はないが…魔力痕をここまで消した上、追跡防止のマスキング術式を幾重にも張り巡らせてある。こんな真似をしながら超長距離射撃を行うとすれば、それは強力な魔力を持ち、上級魔法をいくつも使える人間が複数いる事が前提になる。

 それに各地で起こる小規模なゲリラ戦だが、これもただの民兵が企てるには武装や戦術が高度すぎる。武器を供給し、作戦を練って皆を扇動する人間が必要だ』


「ちょっと待ってくれ、モナドって言うのは…」


『モナドとは、ティアーノ共和国にかつて存在した諜報部隊の事だ。少数精鋭ではあるが、非常に高い戦闘能力と魔力を持ち、尚且つ一人一人の作戦立案能力も高い。これまで世界各地の非純粋種の戦闘の裏で暗躍し、幾度となく純粋種の国家転覆を企ててきた。先の南北戦役でも、ディミトリ軍を強くサポートしていたとの事だ。

 グレイ・ハキムの退陣と同時に、表向きは解体となっていたはずだが、彼らは根本的に存在しない事になっている部隊だ。未だに存続して非純粋種達を支援していてもおかしくはない』


「存在しない…?」


『ああ。公式にはその存在を誰も語ってはいないし、構成メンバーを一部の人間以外知らない。資金の流れも二重三重にカモフラージュし、誰もその存在に辿りつけない。

 何より国家よりも独立した権限を持っているという理由で、その作戦内容をティアーノの上層部でさえ知らないんだ。

 だからこそ、ジェフリー・アベドを暗殺し、その動機もある者たちとして挙げられるわけだ』


「では、現在の戦争の背後にも…」


『その可能性は高い。東アガルタ連合軍の背後に彼らがいたとしても、おかしくはないはずだ。

 彼らが恐ろしいのは、誰がモナドの構成員なのか全くわからんところだ。だからこそ民間人に巧妙に成りすまし、生きている限り戦闘を続けると言う事が起こり得る』


「見分ける方法は、ないんですか?」


『味方を識別するために、唯一の識別コードが身体の何処かにあるらしいが、それも非常に強い魔力を放出するか、あるいは受けた時にしか現れないそうだ。

 何れにしても、彼らがバックについたとなれば、この戦争を終わらすのは困難だ。終わらせられる可能性を秘めているのは…』


「俺だけ、ですか」


『そうだ。我々では考えつかないような事を、お前ならやってのけられるはずだ』


「…わかりました。やってみます」


『よく言った。その言葉が聞きたかった。吉報を期待しているぞ』


 そう言って、通信は途切れた。




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