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第三十九話 聖ミロワ

 


 "聖ミロワ信仰"




 聖ミロワ生誕の地は、アズリエルより南の地、ジラードである。


 ジラートにて迫りくる飢饉や嵐を次々に予言した事で、預言者を崇められる。


 ミロワが五つの時に神託を受け、ズーロパへ向かう事となる。


 そして洗礼者クラインから洗礼を受ける事により、"導く者"として信仰者達の頂点に立った。


 彼は神への敬意の他、平等な愛・差別のない慈悲・貧しき者への施しといった、隣人愛を提唱した。


 最終的には権力の集中を恐れた当時の皇帝により暗殺され、わずか30年の生涯を終える。


 だがその思想は今日まで生き続け、アズリエルにおけるアラニズム(宗教的寛容)を根付かせ、最終的は活動家キール・エレインを生み出すこととなる。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 外ではカインと他の兵が勢揃いしていた。


「遅かったなぁ。お楽しみみたいだったじゃねぇか? ヒヒッ」


 相変わらず下衆に笑うカインを無視し、レイは車に乗り込んだ。

 敵兵も相当に強いため、飛空挺ではなく軍用車で隠密に乗り込む作戦である。


「さっさと行くぞ。時間が惜しい」

「おお? いつになくやる気じゃねーか」

「勘違いするな。お前みたいな頭のおかしいやつに、俺の命を預けられないだけだ」


 そうしてレイはイグニッションキーを入れた。

 鍵を捻ってエンジンが重低音の唸りを上げると、エレナ達がレイの車に乗り込んだ。

 事前にレイたち全員は魔王城の位置は把握しており、あとは向かうだけという状態である。


「ボケっとしてると、置いてくぞ」


 そうしてレイは発車した。







 3時間程車を走らせ、更に徒歩で森の中を行軍すること4時間。


 ついに一行は、魔王城とも呼ばれる場所を発見した。

 禍々しい空気を放つ城が、森の中にそびえ立っていた。

 今までの近代的かつ実用的な軍事基地とは違う、魔族の王の居住地としての荘厳さのような物を、この城は漂わせている。

 薄暗く赤い空には雷が響き、いかにも最後の戦いの場といった趣だった。


「へっ、古臭い城だな。陰気クセェ魔族にはお似合いだぜ」


 カインは苦々しい表情で、地面に向かってペッと唾を吐いた。


「俺が先陣に立つ。みんなは援護に回ってくれ」


 レイ自らが道を切り開く役目を負った。


「俺、カイン、マリア、ライリーで乗り込む。エレナは後方で待機しているんだ。

 俺たちが突入して3時間後に総攻撃を仕掛けるんだ。俺たちが道を作った後の方が犠牲は少なくて済む」

「おいおい、最初から全員で攻め込みゃいい話だろうが?」

「その他大勢なんて、俺にとっては足手まといだ」


 遠慮なくレイは言い放った。しかしそれは紛れもない事実である。

 カインは苦笑しながら、肩をすくめるだけだった。


「わかりました…では、皆さんにありったけの加護術式をかけておきます」


 すると前線メンバー全員の体に術式が浮かび上がり、やがて消えた。


「これで多少の事では傷一つつかないはずです。皆さん、どうかご無事で」

「ああ、必ず戻ってくるよ」


 エレナの瞳を見つめながら言った。その言葉を違える気は無かった。

 そしてマリア、ライリーとアイコンタクトを取り、お互いに頷きあった。


「…行くぞ」






 門の前には頭が三つある龍の様な生物が二頭、それぞれの頭をうねらせていた。


「ありゃあ本物の魔獣だな…とてもじゃねぇが、人間が使役できるレベルのもんじゃねえ」


 魔獣は通常、人間の使う魔法によって使役され、そして物によっては家畜化される。

 しかし目の前の二頭は、通常の魔法レベルでは到底操る事のできない、とてつもない魔力と凶暴性を併せ持った魔獣だった。

 もはや基地を襲ったような半魔獣化した者たちとは、比べ物にならないことは明白である。

 だがそんな事も、レイの前では関係のない事だった。


「だからどうした。障害は排除する、それだけだ」


 レイは身を隠していた茂みから出て、ゆっくりと二頭の魔獣の前に仁王立ちした。



「「「グゲェァァァァ!」」」



 六個の頭が全てレイの方を睨み、空気を振るわせるほどの雄叫びを上げた。

 しかしそれにもレイは全くと言っていいほど動じなかった。

 眉一つ動かさずに、敵を冷静に見据えるのみである。


「さっさと来い。終わらせてやる」


「「「ガァァァァァ‼︎」」」


 獣達はそれぞれ色の違う炎を吐いた。

 それは常人なら既に骨の髄まで消し炭になるほどの超高温であり、事実それはレイの体を包み込み、後ろに控えているマリアやライリーのさえ火傷を負わせかねないほどの熱を放っていた。


「デズモンド!」

「おお、こりゃピンチか?」

「レイ…」


 しかしレイの防護術式の前には無意味だった。

 障壁を張ったレイに対して、高魔力の炎を以ってしても火傷一つ負わせることは出来なかった。


「悪く思うな」


 サーベルを抜き、一閃した。


「「「グギェェェェ!」」」

 

 次の瞬間、六つの首に血の線が走り、やがて血を吹きながら落ちて言った。


「突入するぞ」


 それが開戦宣言となった。





「グガッ!」

「ギェェッ!」


 城内では人の姿に近いもの、獣の様なものまで、様々なものがレイたちに牙を剥いた。

 しかしレイにとっては相手の姿形など、どうでもよかった。立ちはだかる者は即座に殺す、それだけだった。


「ば、化物…ウギャァっ!」

「ヒィぃぃっ! た、助け…グボァっ!」


 レイはカインの様に痛ぶって殺す様な真似はしなかった。

 出来る限り、死んだことにも気付かせない様に、一瞬にして殺した。

 360度上下左右、レイに死角は存在しない。

 敵の攻撃はレイの防護術式に傷一つ付けれず、また敵はレイの攻撃を防ぐ術は皆無だった。

 ただただ殺し、守る。それがレイの行動の全てだった。




 上層階に近づき、敵兵力も8割以上を片付けただろうか。

 他の3人はほぼ何もする暇もなく、ただレイが八面六臂の如く敵を殺すのを見ているだけだった。


「…すごい」

「これが…デズモンドの本当の力か」


 マリアとライリーは驚愕していた。

 未だ100%の力を解放したレイを二人は知らなかった。


「おーおー、こりゃすげぇ。あんたに任せてよかったかもな」


 カインは相変わらずヘラヘラと笑っていた。

 辺り一面に満ちる死の空気など気に求めていない様だ。


「さっさと行くぞ。魔王は最上階だ」


 最上階の玉座にて、魔王は待っている。

 この戦乱の根源となった者。

 それを倒しに、レイは向かった。




 そして最上階。

 3メートルを越す巨大な扉があった。

 その向こうに魔王がいることは明白だった。


「…ここのようだな」


 レイはその扉の前に立った。


「準備はいいか?」


 全員頷いた。


「…さあ、行こう」


 ギィィと嫌な音を立てて、扉が開いた。

 そしてその中に入っていった。





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