表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/147

第三十八話 見えない未来

 

 レイが兵舎に帰ってくると、少女達は全員殺されていた。

 彼らはレイ達の態度にシラけたと言って、全員が銃を乱射して一瞬にして殺したそうだ。

 エレナ、ライリーは二人とも、ただ泣いていた。

 マリアは憤りに震えながら、拳を握り締めていた。

 レイは、たまらずその場に膝をついた。ただ呆然となるしかなかった。


「もう嫌…イヤです…人が死ぬのは…」


 エレナは泣きながら呟いた。

 そんな彼女をいつものように、レイは抱き締めた。


「ごめん、俺……エレナのことが大好きなのに、どうすればいいのかわからない」

「…いいんです。私こそ、泣いてるだけでごめんなさい」


 しばらくすると、その左腕にライリーが近づいて来た。


「これが、私たちの戦いなの…? なら、もうイヤよ」


 するとライリーは横からレイの体を抱いた。

 ライリーもまた涙を流している。

 目の前で起こる事の理不尽さと禍々しさに、怒りと悲しみが収まらないのは、恐らくはこの場にいる人間は全員一緒だった。


「ごめん、やっぱりさ…私も、レイに側にいてほしい…ごめん、エレナ」

「仕方ないですよ…こんな状況だし、少尉の気持ちはわかってますから」


 そしてマリアもレイの側に立ち、握っていた拳を開いた。


「カインから何も報告を受けていない以上、そちらの事は関知しないとさ…要するに見て見ぬ振りだ」

「そんな…ここまで人が死んでるのに…」


 マリアはその開いた掌で、レイの右手を包み込んだ。


「上官が部下に向かって、あるまじき行為だとは思うが…許してくれ」


 マリアも二人と同じく、レイに体重を預けてきた。


「すまない、少尉、コーヴィック…私は…」

「いいんです、大佐。私もエレナも一緒です」


 右にエレナ、左にライリー、後ろにマリアの暖かさを感じた。


「ごめんなさい…私、レイ様と離れたくない…

 大好きだから…今は、一緒にいないとおかしくなっちゃいそうだから…」


「不安で不安でしょうがないの…立っていられないほど苦しいの…

 だから、そばに居てほしい…愛しているから」


「好きな男にすがりつくなんて情けない事だと思うが、私は…すまない…」


 彼女達の存在を感じながら、レイは言葉を絞り出した。


「俺も…みんなが大好きだ…離れたくない」


 いつの間にか、レイは涙を流していた。

 悲しいからなのか嬉しいからなのか、最後までレイ自身にすらわからなかった。





 その夜、四人で激しく求めあった。

 全員と身体を重ねあった。

 それは傷の舐め合いかもしれなかった。

 現実は変わらない。

 それでも、そうしなければ壊れてしまいそうだった。

 狂いそうな現実を前に、心と身体と繋ぎ止めたかった。


 レイ達は一つだった。


 全員と絆を深く結び合った。









 翌朝。


 魔界の中枢、魔王城への突入が決定した。

 今ある兵力と物資を総動員し、一気に叩き落とす作戦だった。

 最後の戦いは近かった。



 最終決戦の朝が来た。にも関わらず、皆奇妙な程に落ち着き払っていた。

 それは昨夜、お互いの絆を全員と確かめ合った事が理由かもしれない。


「これが正真正銘、最後の戦いね」

「…ああ、この戦いで終わらせるんだ」


 ライリーは言った。

 これが終われば、本当に魔界は平定され、戦争は終わる。

 それはレイ達の戦いが終わる事を意味していた。


「これを乗り切れば、もう人が死ぬ事も無くなるんですね」

「そうだな…」


 エレナの言葉は事実のはずだった。

 戦争が終わりさえすれば、死傷者はこれ以上出るはずもない。

 もう彼女が悩まされる事は無くなるはず。そう信じたかった。


「すまない…最後まで上官らしい事が出来なかったな」

「何言ってるんですか。大佐がいなければ、全滅してましたよ」


 それは事実だった。

 純粋な戦闘能力では、レイに次ぎカインとマリアという図式のはずである。

 何度も彼女に助けられた事はあるはずだった。


「帰ったら、何をしたい?」


 レイは皆にそう問いかけた。まだ決行までは時間があった。

 それまでは彼女達と一緒に居たいというのが、せめてもの願いだった。


「私は、今まで通り医療補助の仕事をして…それから正式に医師を目指すと思います」

「まあ、私は実家の跡を継ぐことになるのかなぁ」

「私は職業軍人だが…除隊するかもしれんな」


 答えは三者三様だった。


「レイ様はどうするんですか?」


 ふとエレナが問いかけた。


「俺は…」


 レイは言葉に詰まった。考えてみたことも無かったからだ。

 前の世界では、ただ目的もなく生きるだけだった。

 こちらに召喚された後も、役目を与えられただけで、こちらの意思など存在しなかった。


「わからない…帰った後で考えるよ」


 生き残ればの話ではあるが、それでも今は考えつかなかった。

 今はただ四人を全員守って、魔王に勝つことに全神経を集中したかった。


(ジャマール、リナ…お前らに恥じない戦いをするよ)


 今はいない二人に語りかけた。

 もう誰も失いたくはなかった。


 絶対に、全員で生きて帰る。


 その思いがレイを奮い立たせた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ