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第三十六話 狂気、その臨界

 


 しばらくすると、運搬用の通用門が見えてきた。

 強固な鉄の扉は、腕力ではおろか生半可な魔法でもびくともしないことが、容易に想像が付く。


「お、おい、あれは…」

「て、敵襲だっ!」


 警備兵がこちらの存在に気付くのと同時に、カインは剣を垂直に振り下ろした。


「砕け散れやっ‼︎」


 その瞬間、剣から無数の波動が放たれた。

 恐らくそれはミスリルを通して攻撃魔法が増幅されたものであろう、眩く光り輝くそれらは、眼前の警備兵たちをバラバラに切り裂いた。


「ぐぁっ!」

「がはああっ!」

「おら、あの門から強行突破だ! 俺の力とお前の魔法なら、あのくらいの扉くらいワケないだろ⁉︎」


 つまりはレイの魔法とカインの大剣とで門をこじ開け、正面から戦うようだった。

 戦略もへったくれもない、突撃スタイルというわけである。


「マジかよ、こいつ!」


 悪態をつきながら、重力系術式を展開する。

 これならば分厚い鉄の扉でも、問題なくこじ開けられるはずだった。


「いけっ!」


 巨大な重力球が放たれると、扉は嫌な音を立ててねじ曲がった。


「おらああああっ!」


 そして凄まじい速さで、カインは大剣を何度も扉に叩きつけた。

 高濃度の魔力を宿したそれは、すでに半壊しつつある扉であるならば、容易く斬れるようである。

 数秒後には乱暴に切り裂いた粘土細工のように、鉄の欠片と化した扉が崩れ落ちていった。


「さぁ、パーティの始まりだぜぇ!」






 そこからは阿鼻叫喚の連続だった。

 カインはひたすらに大剣を振り回し、敵兵をひたすらに切り刻んでいった。

 その巨大な鉄塊にも似た剣により、敵は皆脳漿や内臓を撒き散らしながら、悲鳴をあげる間も無く死んでいった。


「がっ!」

「ぎゃあっ‼︎」


 それ以外の兵はひたすらに後方支援に回り、そしてただ殺されていった。

 レイはその能力の全てを使い、360度全ての敵を確実に殺していった。

 勤めて味方の兵を防御するようにもしたが、遺憾せん敵陣のど真ん中ということもあり、守りきれないのが現実である。

 いたる所で巨大な爆煙が上がり、敵兵の四肢が散らばった。

 その度に響く敵味方の絶叫が、レイの鼓膜にこびりついて離れなかった。


「ギャハハハハ! 死ね、シネェ‼︎」


 カインはただ狂喜しながら剣を振るった。

 その度に大剣も魔力を帯び、ギラついた輝きを放っていた。

 味方が死んでも、敵が死んでも、全身が血に塗れても構わず、カインはただひたすらに殺し続けた。

 高笑いしながら人を切り刻む様は、この世の何よりも狂気的に映った。










 約3時間後。


 敵兵の姿は見えなくなり、完全に抵抗は止まった。

 数多くあった兵舎や武器庫も爆破され、ほぼ真っ平らに近い状態だった。

 ただそこには血肉の塊や、かつて建物であった瓦礫の山、そして未だブスブスと燻る黒煙だけが残された。


「はぁ、はぁ、はぁ…うへへ…」


 全身を血で濡らし、カインは下卑た笑いを浮かべた。

 そしてレイはその胸ぐらを思い切り掴んだ。


「この野郎、何考えてんだ!」

「おいおい、随分とご立腹だな。どうしたよ?」

「どうしたじゃねぇよ! こんな攻め方して、何人犠牲が出たと思ってんだ‼︎

 おまけに相手は最後には降伏して、白旗まで降ってたんだぞ! それを何でわざわざここまで…‼︎」


 他の隊員の半分以上が死亡、運良く生き残ってもほとんどが手足を失い戦闘不能に陥っていた。

 おまけに戦いの途中からは半分以上の兵が両手を上げ、中には手製の白旗を振ってまで降参のジェスチャーを示していた。

 にもかかわらず、カインはそれらを皆殺しにした。高笑いと共に。


「だからどうした、基地は陥落したんだから作戦は成功だろ?

 最初から犠牲が出るなんてわかりきってた事じゃねーか。

 一応これは殲滅戦だからな、犠牲が出てもやらなきゃならねぇんだよ」

「だからって、ここまでの真似をしなくたってよかっただろ‼︎」


 そう言うと、カインはゲラゲラと高笑いし始めた。


「自分の身くらい自分で守れなきゃ、死ぬだけだろうが?

 俺たちは一秒でも長く生きて、一匹でも多く殺す。それが兵士だ」

「違う! 俺たちはお互いを守るために戦ってるんだ‼︎ お前みたいな殺すだけの奴とは違う!」

「おーおー、ご立派だな。じゃあお前は自分や仲間を守れたか?」

「…!」


 何も言い返す事が出来なかった。


「殺さなきゃ殺される、だから殺す。

 それが戦場にいる前提条件だろうが?

 自分の身も守れない奴は死ぬだけだ。

 ご大層な理想論や騎士道精神なんて、クソみてぇなもんだぜ。

 それにどうせ、この規模でこの頑強さだ。

 どんな作戦を立てたところで無駄だったよ。

 とにかく結果オーライだろ、さっさと向こうの結果を聞こうじゃねぇか」


 カインは通信用の術式を展開した。


「こちら第1班だ。こっちは制圧完了したぜ。そっちの様子はどうよ?」


 すると、マリアの声が響いた。


『こちら第2班、こちらも制圧完了だ。特に大きな犠牲はない』

「上出来だ。敵兵は全員殺しただろうな?」

『……ああ』


 マリアの声に苦々しい響きが混じった。


「OK、そんじゃそっちも撤収していいぜ」


 気味の悪いニヤニヤ笑いを浮かべながら、カインはそう命令した。


「よし、撤収するぞ! 無事な奴は負傷兵を運べ‼︎」


 そうして基地は壊滅し、魔界の主戦力は消滅した。

 これであとは、魔王を倒すだけとなった。

 なのに、心はちっとも晴れやかではない。


(俺は…何をやってるんだ?)




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