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第三十五話 戦いという毒

 


 魔界掌握もいよいよ大詰めといったところまで来ていた。

 すでに魔王が潜む城までは、数100キロ圏内という位置まで前線は広がっていた。

 それは同時に補給線が大きく伸びている事を意味し、物資運搬などの後方支援が困難になりつつあるのが現状である。

 ともすれば、物資が尽きる前に敵を一気に殲滅し、こちらが疲弊する前に決着をつける。

 短期決戦が上層部の意向だった。


「大規模な基地は、この二つだ。

 ここらを潰しちまえば、あとは魔王のいる城まで一気に攻め込める。

 耳やらツノやら尻尾やらがついてるやつには容赦すんな、皆殺しだ」


 皆殺し。


 その言葉を聞いて慄く者もいれば、ニヤニヤ嗤う者もいた。

 南方戦線からきた人間は、みな例外なく血の気が多く、また戦争に毒されている雰囲気である。

 数日間彼らと話す機会があったが、口を開けばみな何人殺しただの、どんな風に女子供がもがき苦しんで死んだだのといった話をゲラゲラ笑いながらした。

 それをレイたちは唖然として聞いていたが、彼らは何も気にする様子が無かった。






「大佐…あのカインっていうのは、何者なんですか?」


 レイたち小隊のメンバーは、ブリーフィングルームで彼らについて話し合っていた。

 その風体や背負った大剣、何よりも身に纏う陰湿で告白な雰囲気は只者ではない。

 指揮権を譲渡されたという点からも、軍の中で高い地位の人間である事は間違いなかった。


「私も聞いたことしかないが…南方戦線で軍功を上げた男らしい。

 たった一人で何百人もの兵を相手取って生き残った、強者との事だ。

 背中の剣は純ミスリル製の特注品の様だ…功績を称え、さらなる強敵を屠る為に上層部から支給された物と聞いている。

 とにかく敵を殺す事にひたすら執着する、人によっては”殺戮機械”とまで呼ぶほどの男だそうだ」

「殺戮機械…」


 ライリーは不愉快そうに眉をひそめた。


「怖い…」


 エレナはさも恐ろしいと言ったように身震いした。






 そして作戦決行日。


 ライリーとエレナはレイとは別行動を取るよう支持された。

 マリアの指揮のもと、比較的小さな基地を攻め落とす手はずとなっていたが、その命令権はカインに移っていた。

 そしてレイはカイン直属の兵として、魔界本土で一番大きな基地を攻め落とす事となった。

 カインによればここは魔界にとって国防の中枢であり、ここを攻め落とせば後の攻略は大分容易になるとの事らしい。


「とにかく魔王はチート級に強い。ひょっとしたら、お前と同じくらいかもな?」

「…俺が知るかよ」


 レイは彼が好きになれなかった。

 陰湿で気味の悪い笑い方、粘着質な声、そして残虐性を隠そうともしない両眼。

 その全てにレイは生理的嫌悪感を感じた。

 馴れ馴れしく話しかけるカインに、敬語さえ忘れるほどレイは苛立った。


「それで、どう攻め込む気なんだよ? こっちは詳しい作戦内容さえ知らされていないんだぞ」


 遠方から確認した限り四方を巨大な壁に囲まれており、また規模も直径5キロといったところである。

 これまで見たどの基地よりも規模は大きく、また兵の数も段違いだ。

 2メートル以上ありそうな体躯の大男たちが、確認できるだけもでも数十人フル武装で警備に当たっていた。

 恐らくはここの人員全員が挑めば、騎士団全員を潰せるかもしれない。そう思わせるほど圧倒的だった。


「へへへ…なぁに、手はあるさ」


 そう言うとカインはガンメタルの大剣を抜いた。柄にも過剰な装飾はないが、ただ妙にギラついた輝きを放っていた。


「こいつは純ミスリル製の剣だ。見た事あるか?」

「…いいや」

「知っての通り、ミスリルは魔力を伝達させる性質を持つ。

 ミスリル合金は今や大体のものに使われているが、純粋なミスリルは、ただ伝えるだけじゃない。

 よーく見てみな」


 その刀身に術式が浮かび上がった。


「その純度が増せば増すほど、ミスリルは魔力を増幅させるブースターになる。

 その丁度いい例を見せてやるよ」


 そう言うとカインは駆け出した。


「な、おい!」

「全員援護しな! 突っ込むぞ‼︎」




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