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第三十二話 誤射

 

 残された兵たちは、皆一堂に砂漠地帯を歩いていた。

 情報によれば、この一帯を抜けた先に魔族のミスリル採掘場があり、そちらを制圧して魔族の軍備供給を断つとの事だった。

 ミスリルとは魔力に反応する金属であり、銃弾や剣の製造に使われる。

 魔力の導体とも言えるミスリルで造られた武器は皆ケタ違いの強さを誇り、魔族たちの戦力増強に役立っていた。

 しかし兵士たちは、皆一同に躊躇い戸惑っていた。

 またさらに一般市民を殺すのでは無いか?

  無用な破壊をせねばならないのではないか?

 そんな思いが皆を支配していた。


 そして、レイを始めとする全員が砂丘地帯に辿り着いた。

 ここまでくれば、目標の採掘場は肉眼で確認できるほど近付いていた。

 しかしそれは敵に遭遇する危険性が増えるということも意味していた。

 全員での行軍中、突如としてボンッという炸裂音が鳴り響き、爆煙と砂塵がそこかしこで舞った。

 それは敵の放つ爆発魔法によるものだと、全員が瞬時に気が付いた。


「散開しろ!」


 マリアの号令で、皆即座に散りじりになった。恐らく完璧に孤立すると個別撃破される恐れもある。

 そのためレイとライリーが二人一組になり、二人は小高い砂丘の影に隠れながら、周囲を警戒した。


「どうするの? 敵が何処から来るのか、ここじゃ肉眼で確認できないわよ?」

「ちょっと待っててくれ…」


 砂丘が乱立するここでは、敵は巧妙に姿を隠せる。

 頂上に登れば敵を把握できるかもしれないが、代わりに敵全員から集中砲火を浴びる可能性も高い。

 それならば、とレイは考えた。

 視界を赤外線カメラのようにする術式を展開すれば、敵の位置は手に取るようにわかる。

 かつての戦闘でそれをレイは独自に編み出していた。

 そして術式を展開しようとした瞬間。




 ザクッと砂を踏む音がした。


「くっ!」


 足音を聞くや否や、ライリーは火炎魔法を放った。

 その判断自体に間違いはなかった。



「ぐがぁっ‼︎」



 火炎魔法は見事にクリーンヒットした。


 ただ相手だけが間違いだった。


 食らった相手は坂を転げ落ちてきた。


 その姿には見覚えがあった。


 黒い肌、隆起した筋肉、それらはレイがよく知る者だった。




「…ジャマール!」

「いやああああっ!」


「! こっちだ、こっちに隠れているぞ!」

「へへっ、バラバラにしてやるぜぇ!」


 すると悲鳴を聞きつけた敵が何人も現れた。

 どうやらこの部隊は爆発魔法が得意らしく、レイたちに向かって爆炎をひたすら弾幕のように打ち付けてきた。

 そうして反撃の隙を与えないという寸法である。

 レイの防護魔法でなら容易く防げたが、しかしそれは反撃のチャンスが少なくなることも意味する。

 だがしかし、すぐに攻撃は止んだ。

 一瞬にしてあたりの空気が冷え込んだかと思うと、丘の上に現れた敵は全員即座に凍りつき、バラバラに砕けた。


「ぎゃあっ!」

「ぐわあああっ!」


 マリアの非常に強力な氷結魔法によるものだ。

 あちこちで銃声が聞こえることから、残った敵もじきに掃討されるだろう。


「うぐ…が…‼︎」


 ジャマールは右半身にマトモに火炎魔法を食らったようだ。

 腕はほぼ消し炭に近い状態であり、絶望的状況だ。

 既に全身が痙攣をはじめているところを見るに、明らかに危険な兆候である事が伺えた。


「エレナ‼︎ 早く来てくれ、ジャマールが!」

「いやっ、しっかりしてっ‼︎」

「落ち着けっ、少尉‼︎ 一時撤退だ‼︎」


 既にライリーは軽い錯乱状態にあった。

 彼女とジャマールだけでも、戦線から引きなはす必要があった。








 基地内の簡易ベッドにジャマールは寝かされていた。

 時折ジャマールの腕に注射をしながら、エレナは懸命に治癒魔法の術式をかけ続けた。

 その様子を、レイは固唾を飲んで見守っていた。

 ライリーはただ震えていた。


「私のせいだ…私のせいでジャマールが…」


 ただひたすらに自分を責め続けていた。

 彼女の立場になって考えれば、それも当然だった。


「それは違う。あの時は敵味方共にバラバラに散らばっていたんだ。

 確認している間にやられていたかもしれない。

 ライリーの行動は間違っていないし、仕方のないことだったんだ」

「でも…でもジャマールが…」

「大丈夫、エレナだってついてるんだ。死にはしないさ」


 レイも手伝うといったが、エレナが要らないと言った。


「ライリー少尉のそばに居てあげてください。

 パニック状態の彼女には、レイ様が必要です」


 自らも大いに動揺しそうな時に、他者を気遣うセリフがでる辺り、エレナらしいとレイは思った。

 しかし治療に専念する彼女を見るに、状況は予断を許さなかった。











 どれくらいの時間が経ったのだろうか。

 ドアが開き、エレナがゆっくりとこちらに近づいて来た。

 恐らく治療が終わったのだろう。


「ジャマールは⁈」

「ねぇ、どうなったの⁉︎ ねぇ⁈」


 ライリーがエレナの肩を揺さぶった。

 二人とも気が気では無かった。


「お、落ち着いてください! 一命は取り留めました。ただ…」

「ただ?」


 エレナは悲しげに目を伏せた。


「右腕は既に半壊していたため切除…さらに魔法の中の僅かな毒の術式が組み込まれていたため、右半身全てに生涯麻痺が残る形になります…」

「…そんな…」


 ライリーは膝から崩れ堕ちた。


「わ、私がジャマールを…私が…」


 ガタガタと震えだした。

 あまりにも痛々しい光景だった。








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