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第三十一話 終わらない

「嫌、嫌あっ! こんなのやだよおっ! リナ‼︎」


 エレナは既に命の無い彼女を抱きかかえ、号泣した。

 かつては彼女と仲の良かったエレナであったから、その悲しみは容易に想像できる。

 そんな彼女に対して、レイはただその肩を抱きしめるだけで精一杯だった。


「…っく、うっ…ひっく…」


 ライリーも泣いていた。

 同じ部隊の犠牲者が、無邪気で明るいリナというのは、殊更に酷い話でもある。


「…ちきしょう」


 ジャマールは俯いていた。

 ただ拳を握りしめているその姿は、レイと同じく自らの無力さに憤っているようにも見える。




 リナの遺体は、他の隊員と同じく本国に移送され、火葬されるという。

 すでに多くの亡骸を乗せた飛空挺は飛び立った後だった。


 昨夜の襲撃で、マリアたちは約半数の戦力を喪失した。

 レイとマリアの奮戦により何とか敵を退けられはしたものの、一般兵との戦力差は大きく、多くの兵が死んだ。

 これを上層部は憂慮し、以前よりも殲滅戦を中心に作戦を立てる方針を打ち立てた。

 マリアは最後まで反対したが、結局は上からの圧力に負けた。

 そして賛成者にはモーガン・デズモンド元帥もいたそうだ。


(元帥…あんたまでもが…)


 その事は、レイに少なからずショックを与えた。

 義理の父親が殺戮に加担しているというのが信じられなかった。

 人種差別にも反対し、異世界の住人であった自分を義理の息子として扱ってくれたデズモンド元帥が、一方的な殲滅作戦を支持しているのである。

 現実を前に、レイはただ項垂れる事しか出来なかった。


(リナ…)


 未だに覚えている。

 無邪気で幼い笑顔、低い身長、レイの名を呼ぶ声。

 それらは脳裏に焼き付いたように離れないものだった。

 もうリナは永久に笑いかけてはくれない。写真の中でしか顔を見ることはない。

 永遠に歳を取ることはない。

 声を聞くことさえ、叶わない。

 これから先触れる事もできない。

 そう考えるだけで、レイの目から涙が出た。

 昨夜は全員で泣き喚いたのにも関わらず。


『ゆ、許サナい……か、母ちゃンを…村ヲ…返せ…』


 なぜリナが死ななければならなかったのか、レイはふと理不尽な思いに駆られた。

 彼女はあくまで伝令兵であり、今回の作戦には参加していない。

 戦闘能力自体が乏しいのにも関わらず、軍人の一人として殺された。

 しかし大元を作ったのは、間違いなくレイたちである。

 そして向こうからすれば、同じ軍属である彼女を殺すことに対して、抵抗はないだろう。

 そしてそれを咎める資格が自分たちにないことも、レイは十分に承知していた。


(…俺は、無力だ)


 誰よりも強い力を持っていながら、大切な仲間を守れなかった。

 そしてこの喪失感を埋める術さえ知らない。


「俺が死ねばよかったんだ…!」


 手を下したのはレイたちだった。

 しかし仲間が死ぬのは耐えられない。

 ならば自分だけが死ねばいい。レイはそう考えた。


「それは違うわよ、レイ」


 いつの間にか隣には、ライリーが立っていた。


「あれは私たちの罪、貴方だけが背負っていいものじゃないわ。

 リナが死んだのは…きっと私たち全員の責任よ」


 そうして彼女はレイの隣に座った。


「死ぬときは私も一緒よ。あなたと共に逝きたい」

「そりゃ俺もだぜ」


 いつの間にかジャマールも現れた。

 彼もまたレイの隣に腰かけた。


「お前一人で背負うんじゃねぇよ…俺だって辛いんだぜ」

「…そうだな」


 そこには確かな温もりがあった。それだけが、レイの支えだった。

 そしてレイの全てだった。






 エレナの目の下のクマは日に日に深くなっていった。

 犠牲者は毎日大なり小なり出る。運良く生き延びても、腕や足を片方か両方失なう者も珍しくはなかった。

 特に今回の戦闘では、何十人もの兵士の治療を担当し、半数以上が死亡し、さらにはエレナが特に心を許していたリナまでもが死んだ。

 レイをはじめとした何人かが補助に回ったが、大抵の場合は無駄だった。

 軽傷の患者はレイやエレナの魔法で何とかなったが、重傷者はほぼ死にかけの場合が多く、回復の甲斐なくショック死か失血死した。


「…あと何人、死ぬんですか?」


 レイは何も答えられなかった。


「私は…誰が救えるんですか?」


 もはや眼の光の消えたエレナを、ただ抱きしめた。

 それしか何も出来なかった。


「リナ…どうして、どうして…!」

「ごめん…俺が、無力だから…」

「うっ…ひっく…」


 時だけが、無情に流れていった。


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