表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/147

第二十九話 鉤爪

 宿舎の一つはすでに火の手が上がっていた。

 すでにあちこちで戦闘が始まっており、あちこちに味方の死体が転がっている。

 そんな中を、レイとマリアは駆け抜けていった。


「ち、ちきしょう、来るな…ぐばぁっ!」

「ひぃぃっ、助け…ぎゃっ!」


 何人もの兵士が弾を連発したが、傷一つ付ける事なく鉤爪で体を切り裂かれていった。

 敵は人型の竜に近い形態に変身しており、かなりの耐久力や攻撃力を持っているようである。

 並の銃弾や魔法で中々ダメージを与えられないらしく、皆が次々と体をバラバラにされていった。


「どいてろっ‼︎」

「た、大佐!」


 残った兵卒たちを後ろに下げ、マリアの両手に術式が輝いた。

 すると次の瞬間には、数体の敵の腕や翼が一瞬にして凍りつき、砕け散った。


「グギャアああアアア!」

「な、ナンだ⁉︎」

「ア、新手ノ敵だ!」


 突如として現れた強敵に、全員が狼狽した。

 恐らくは氷結魔法の術式だろうが、ここまで威力が高いものはレイも初めて見る。

 まさしく王国騎士団のトップに立つにふさわしい実力である。


「こいつら…獣化術式で、生体感応値や魔力係数を倍増させているようだな」


 獣化術式。

 レイの知っている限りでは、亜人や魔族といった種の中に眠る野生動物の遺伝子を覚醒させ、非常に強大な力を得るという魔法である。

 そして一度でも使えば最後、人間には戻れない事もレイは知っていた。


「ここは私一人で十分だ、デズモンドは小隊の仲間を全員救い出せ!」

「了解しました!」


 そういって、レイはジャマールたちの宿舎に駆け出した。


「行カセると思うカ!」


 まだ残っていた数体の敵がレイを追おうとした。

 しかし次の瞬間、マリアが居合い抜きのような素早さでレイピアを抜き、それとほぼ同時に敵の腕や脚が何本も同時に切り離された。


「グゲアッ‼︎ ガアああああッ!」


 マリアは正確に、強靭な鱗による装甲の無い関節部分を狙っていた。


「き、貴様…ギャァっ‼︎」


 続け様にマリアはホルスターから素早くハンドガンを抜き、相手の口や両眼を寸分違わずに射抜いた。

 いくら防御力が高くても、守られていない部分は脆いというわけである。


「た、大佐…!」

「お前らは援護に回れ。デズモンドほどではないが、私も王国軍将校だと言うことを思い知らせてやろう」


 明確な殺意と闘志を両眼に宿し、マリアは残っている十数体の敵に向かい合った。







 レイたちの宿舎も炎上していた。

 慣れ親しんだ建物からあちこち火の手が上がり、レイは強く焦りを感じた。


(みんな…無事でいてくれ!)


 しばらくすると、交戦中のエレナ、ライリー、ジャマールの姿が見えて来た。


「くそぉ、硬すぎてロクに傷がつかねぇぞ!」


 ジャマールは敵の攻撃を必死に避けながら、肉弾戦を繰り広げていた。

 既に身体には手傷を幾つも負っており、敵の数とパワー、耐久力に圧倒されているのは目に見えて明らかだ。


「ハハハ、その程度で俺たチをコロスつもりカ?」

「こ、この野郎!」


 挑発する相手に放った渾身の蹴りも、相手の装甲にダメージを与える事は出来なかった。

 それほどまでに相手の防御力は強固なのである。


「こんな強い奴らが一気に攻めてくるなんて、想定外よ!」

「私の加護を最大にしても、殆ど歯が立たないなんて…今までの兵の比じゃありません! これは一体…」


 ライリーは後方でエレナを守りながら、火炎魔法を展開して応戦していた。

 同時に防護術式でエレナと二人で身を守りながら戦っていたが、防戦一方である。


「二人とも、退がれっ!」

「レイッ!」

「レイ様!」

「レイ‼︎」


 レイは爆破魔法は使わず、重力魔法の術式を展開した。

 3人を巻き込まずに仕留めるには、範囲が限定される術式がベストだからである。


「ギャァ!」

「ウグァっ!」


 敵は黒い重力球に包まれ、全身があり得ない方向に曲がり、血を吐きながら死んだ。


「みんな、大丈夫か⁉︎」

「ええ、だけどリナが!」

「あいつだけ無事かわからねぇ、早く行ってやってくれ!」


 踵を返し、すぐにリナの宿舎に向かった。







 リナの姿はすぐに見つかった。


「あ…ああ…」


 次々と味方が倒されていき、最後には壁際に追い詰められていた。

 非戦闘員に近いリナであるなら、致し方ない話である。


「俺の部下に、手を出すなっ‼︎」


 すぐさまレイは、両手に重力魔法の術式を展開した。


「観念してモラお…グゲっ!」

「ひギイっ!」


 レイが放った黒球で、敵は一瞬にして屠られた。


「伍長!」

「リナ‼︎」


 リナは一瞬にしてレイの存在に気付き、駈けてきた。

 そしてそのままレイは彼女を抱き止める。






 そのはずだった。







 ドシュッ。




「あ…」


 彼女の横腹に、鉤爪が貫通した。


 胸にも、腕にも。


 真横から新たな敵は、リナに刃を突きたてた。


「え?」


 レイは一瞬、現実を認識出来なかった。


「ご、ごちょ…う…」


 口の端から血を流し、リナは呟いた。


「ごめん…なさい…」


 そう言うと、彼女の腕は力無く垂れ下がった。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ