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第二十六話 唐草模様

※グロ表現が少し含まれます。苦手な方はご注意下さい

 山の中腹に、総勢約200名が集結している。

 かつての中隊に補充人員が加わり、マリアが率いる隊の規模は拡大していた。

 眼下に広がる集落を肉眼で確認した後、彼女は全員に指揮を取った。


「この集落は民兵ゲリラの巣窟との報告を受けている。殲滅作戦により、完膚なきまでに叩き潰せとコンドレン将軍からの命令だ。

 360度、周囲を囲った後に一斉攻撃で完全に制圧する」


 集落自体の規模はそこそこではあったが、周りを取り囲むことが困難なほどではなかった。

 奇襲により相手の意表を突き、対応を遅らせることが出来れば、制圧は容易いだろう。


「散開!」


 マリアの号令により、兵が動き出した。

 レイたちの前衛小隊を除き、ほぼ全員が集落の包囲に当たった。

 ガサガサと音を立てながら、全員が指示された所定の位置まで向かっていった。

 約10分ほどすると、術式を介してマリアに連絡が入った。


『大佐、全員配置完了しました』

「よし、デズモンド伍長による先制攻撃を待て。

 音が聞こえたら、第2・第3小隊と連続して波状攻撃を仕掛けろ。敵軍を混乱させ、抵抗する間も無く叩き潰す」


 マリアの横で、レイは指示を待った。

 自らの一撃が、攻撃の狼煙となる。

 レイの銃を持つ手に、否が応でも力が入る。


「全員による射撃の後、術式による爆撃で粉微塵にせよ」

「了解」


 レイは短く頷いた。



「撃て‼︎」



 それが合図となり、レイとジャマールの機関銃が火を吹いた。

 そこから少しだけ間を置いて、反対方向からも銃声が響いた。

 たちまち辺りが絶え間ない発砲音で埋め尽くされ、悲鳴や絶叫すら掻き消している。

 妙だ、とレイは不意に感じた。

 隣のジャマールを見やると、同じように怪訝な表情を浮かべていた。


「おい、奴ら全然抵抗してこねぇぞ?」

「確かにな……どうしますか、大佐?」

「妙ではあるが、万が一のこともある。予定通り、デズモンドとデュボワで薙ぎ払え」


 命令通り、ジャマールが下がりライリーが前に出た。


「発射!」


 それを合図にして、レイとライリーによる爆撃が始まった。

 事前に建物の位置は確認しており、二人は正確に建物のみを破壊できた。

 辺りに爆煙があがり、肉と木材が焼ける嫌な臭いが辺りに立ち込めた。

 ライリーは顔をしかめる。

 それは恐らく、この強烈な臭気だけが原因ではないはずだ。


「…ヘンだわ、発砲さえしてこないなんて」

「ああ、俺もそう思ってた」


 もちろんこの集落に潜んでいるのは民兵ゲリラであり、レイたちのように専門的な訓練を受けたわけではないが、それにしても状況があまりにおかしい。


「…そうだな、いずれにせよ状況確認が必要だ。

 各小隊は警戒態勢と維持しつつ、敵の損害状況を確認せよ!」


 全員が銃を構えたまま、ジリジリと歩みを進める。

 レイたちが破壊した家は、未だブスブスと黒煙を上げている。

 蜂の巣にされ、破壊された家を覗き込んだ。





 それは地獄絵図だった。





 全身を蜂の巣にされ、内臓がはみ出た右頰に古傷のある老婆の死体。

 黒く炭化し、性別すらわからない骨格がひとつ。

 若い男女と思しき死体が一組、いずれも緑色の目をしていた。

 中には赤ん坊や小さな子供をと思われる死体もあり、それらの遺体のダメージも凄まじかった。

 家族全員体に鱗があり、魔族である事は明らかだが、戦闘員とは到底思えなかった。


「そんな…バカな」


 レイは思わずそう呟いた。


「な、なんだよこりゃあ…」


 ジャマールも明らかに動揺していた。

 ここまで狼狽する彼は初めてだ。


「じょ、冗談でしょ……う、ぉええっ」


 たまらずライリーがその場で嘔吐した。

 レイも必死で胃液が逆流するのを堪えていた。


(こいつらは、民兵ゲリラじゃないのか?)


 辺りを見回してみても、武器になりそうなものはない。

 小さな槌が置いてあるが、凶器には不向きである。

 隅の方に集られている工具や窯を見るに、銀細工か何かを作っていたようだ。

 現に遺体は、特徴的な唐草模様のような装飾のついた指輪やロザリオをしていた。


「う、嘘だ…そんな、そんな事が…」


 後ろのマリアは、ガタガタと震えていた。

 ここを含むすべての民家が銃撃され、最後には爆破された。

 そしてそれは紛れもなく、マリア・アレクサンドル大佐の指示によるものだ。


「大佐‼︎ 一体これは…先遣隊によれば、ここはゲリラの巣窟なのではなかったのですか⁉︎」

「そ、そうだ! 報告に間違いは無いはずだ! 武器弾薬の類が無いか、草の根分けて探し出せ‼︎」










「報告します!」


 別の小隊も一兵卒が、マリアに向かって敬礼した。


「すべての民家をくまなく捜索したところ、全く武器になりそうなものは発見されませんでした…。

 ここにいたのは、全員が間違いなく只の民間人です…」

「な…」


 マリアは絶句した。

 兵士たちの間にも動揺が走った。


「大佐…我々は一体何を…」

「うるさいっ! 黙っていろ‼︎」


 全員が水を打ったように静かになった。


「私がコンドレン将軍に確認する…それまでは全員待機していろ」


 絞り出したようにマリアが言った。それが精一杯の返答である事は、皆が承知していた。





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