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第十一話 数多の世を経て

『このアルケーでミスリルの研究が行われていたとこは知っているんだろう?』

「ああ、知っているさ。ついでに言うなら、お前がこの巨大なミスリルと同調した所まで知ってる」


 それはレイの見てきた記憶だった。


「どういうことなんだ。ただの人間であったお前が、この世界を創造しただと?」

『その通りだ。見せてやろう、全てを』


 レイの視界が、一気に切り替わった。


『これは、かつて人間だった時の私…今のこの人格の大元となった私だ』

「…これが」


 生命力のなく暗い瞳、血色が悪く表情のない顔。おおよそ何処にでもいる、陰気なタイプの人間だった。とてもじゃないが、これが一つの惑星や生命を創造したような偉大な存在には見えなかった。


『お前も知っているだろう。この頃の”私”は虐げられるばかりで、ただただヒエラルキーの最下層に甘んじるだけだった』

「……」


 レイは押し黙った。かつての自分も同じような境遇であり、その時を思い起こすだけで心臓に深い(おり)が溜まるような感覚に陥ったからであった。


『しかし私は一個の突破口を発見した。そう、それがこの研究所で秘密裏に研究されていたミスリルだった』

「…そうしてお前は、このミスリルと同調した」

『そう。その結果は驚くべきものだった。この巨大なミスリルと精神的結合を果たした私は、この世界の因果律に干渉し、人知を超えた力を持った。お前たちが言うところの”魔法”だ。だがそれは、人が測れるスケールを遥かに超えていた。凄まじい力を持った私は、”事象の坩堝”内にもう一つの宇宙を形成するに至った…周囲にあったいくつかの居住コロニーごとな』


 またしても映像が切り替わった。次に映されたのは、アルケーとその周辺コロニーの周りで、神々しい程の眩い光が轟音と共に爆発し、その後に辺り一面に(もや)のようなガスが満ちた場面だった。

 そのガスは拡大され、電子顕微鏡のミクロな視界が映し出された。その原子核は次々と衝突を繰り返し、破壊や融合を繰り返していった。やがてそれは一つの塊となり、どんどんと巨大化していった。


「ザイオンやラムダは、別の宇宙から来たってことか?」

『そう。加藤玲も、違う宇宙からの魂が運ばれてきたケースだ。それと同じことと考えればいい。

 そうして私は”神”として今いるこの宇宙に降臨した。そして元の世界から転移してきた人間たちは、みな私に平伏したよ。私の力は絶対、逆らえば死であることが決まっている上に、私は人の心にも干渉する力を得た。全ての人間が、私を見下してきた人間でさえ、私に跪いたのだ。

 だが問題が起こった。この力は人一人で制御するには些か大きすぎた。神の力は人間一人が持つというのは、灯火として釣り合わなかったのだ。

 そうして私は周辺コロニーを含めた全ての人間を、私への供物とした』

「…供物?」


 すると今度はアルケー内部の映像に切り替わった。そこには巨大なミスリルの結晶と、その中に”神”となった男が胡座を描いて座っていた。

 その外周には、コロニーの住人と思しき物達がずらりと並んでいた。皆その両目はどこか虚ろで、狂気を孕んでいるようにさえ見えた。


『そう、供物。生贄と言っても良いだろう。居住コロニー群の住人たちは、全て私…つまり、このミスリルと同一化した。私と精神的、肉体的に接合したのだよ。もっと簡単に言えば、彼ら全員を吸収し、また制御しきれない情報処理を”Divus”に接続することにより解消し、さらにはそのデータベース上に存在する膨大な知識を我が物とした。真に私は高次元の存在となったのだ』


 すると信じ難い出来事が起こった。人々が次々に歩き出し、ミスリルの結晶に触れたかと思うと、そのままその身体は結晶内に取り込まれていった。その姿は徐々に崩れ落ち、ただの肉塊になった後に、”神”に吸収された。そしてその神も人々をドンドンと取り込む内に、その姿を変容させていった。そして最後には、その姿は今のように巨大な円形の脳髄のような、醜悪な姿に変わっていった。

 その無残な光景に、レイは吐き気を催した。


「…だから、どこにも住人の遺体すら見当たらないのか。」

『そういうことだ。しかし結果として、私はこの宇宙に一人漂うだけになってしまった。

 だが、それではいけない。それは私の望む所では無い。私が望んだのは、全ての者が私に(こうべ)を垂れる世界。神の力を以って私が全て支配する世界だ。下位存在とでも言うべき存在…強大なる創造主の力を振るう相手がいなければ、私がこうして生まれ変わった意味がない。だからこそ、私は私がいた宇宙の歴史を、私なりに再現しようとした』

「再現? どういうことだ」

『そのままの意味だ。徐々に膨張していく宇宙、その中に何度も小惑星がぶつかり合って、やがて大きな天体になる。そう、生命が住う水の星…地球創造の再現さ』

「……‼︎」


 さらに景色は移り変わり、再び宇宙空間となった。そこにはとてつもない速度で惑星同士がぶつかり合い、燃え盛る恒星へと変貌していく。そしてその近くに、太陽に照らされて輝く惑星…それがレイのよく知る惑星”地球”が現れた。そして最後に形成された、一際小さな星。隕石が衝突してできた、地球の片割れ。恐らくそれが月だった。


『長い年月をかけて、水の星には陸地が出来た。そして幾つかの始原生命体が生まれた。それらは数を順調に増やし、また主として多様化の一途を辿っていった』


 周囲の映像は、いつしか原始の地球上へと切り替わっていた。見渡す限りのマグマの海、超高温の世界は冷やされ、大気圏を生んだ。そうして気が遠くなるほどの年月をかけて、地球は地殻を形成し、やがて陸地へとなっていった。そしてその頃、海の中では有機細胞が幾つも分裂を繰り返し、一つの生命体に変化しようとしていた。

 米粒よりも遥かに小さいそれは、月日を重ねて大きくなっていった。そして長い時間をかけて始原生命体は進化し、やがて陸地へと降り立った。


『私の計算が正しければ、そこから類人猿が生まれ、順調な進化を経て人間が誕生するはずだった…』

「はずだった?」

『しかし待てど暮らせど、霊長類となるべき高い知能を持った生命体は現れない。やがてDivusによる緻密なシミュレーションにより、このまま行っても知的生命体は生まれないということが判明した。自然の進化に任せていては、私の僕となるべき者たちは生まれないということだった』

「人間が、生まれなかった?」

『私が作り出した地球は、私やお前が住んでいたものとは微妙に違う進化を辿っていった。そもそも、始原生命体が我々のような知的生命体になる確率でさえ、非常に低い確率なのだ。それを知った私は、この進化のサイクルに少し手を加えることにした。そう、私の複製とも言うべき者たちを、地上に派遣したのだ』


 それは地表に降り立った、初めての人間。いわばこの世界のアダムとイブとでも言うべき存在だった。各地にその男女は存在し、順調に数を増やしていった。そしてそれらは集落を形成し、いつしかヒエラルキーにも似た社会体制さえも作り出していった。


「複製…つまり、人類の大元ということか」

『そう、雄と雌の区別を持ち、進化した脳を持つ、知的生命体…人間だ。順調に数を増やしていった人間は、やがて集落を作り、そして争いも産んでいった。

 頃合いだとすぐに感じた。人が簡単にであれ文明を築き上げるラインまで行けば、私はそのトップに立ち、人間たちもそれを敬うだろうとな』

「現人神…つまりお前は、人の体を使って世界に降り立ったと言う事か」


 そしてまた風景は切り替わり、一気に文明的な世界へと変わっていった。一人の男が剣を片手に、次々と敵を殺していく。そして時には魔法を行使し、どんどんと死体の山は積み重なった。

 その武勲に大衆は彼を称え、女たちは常に彼の周囲にあった。まさしく彼はこの世の楽園を謳歌しようとしていた。

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