最終話 紅雲
あれから長い月日がたち、田舎の中専の校長となった男は、亡命し名誉ある賞を受賞した女に気づく。
あれから21年の月日がたった。龍国は目覚ましい経済発展をしていたが左北党の支配は相変わらずだった。
「あなた。そろそろ行かないと、遅れますよ」
「ああ、今いいところなんだ。もうちょっと」
「なんですか。もうすぐ定年の校長先生が遅刻したら恥ずかしいですわよ」
「ああ、わかってる」
今年のモゲール文学賞は、葡国のテレサさんです。「ありがとうございます」「テレサさんは龍国出身の作家で、龍国語での作品の受賞はこれが史上初めてです。それでは喜びの声をどうぞ!」
その男はパソコンでインターネット中継を食い入るように見ていた。
「とても嬉しいです。みなさんに感謝します。21年前に皇大門でデモをしていた市民に対して龍国の解放軍が行った行為は極めて残虐でした。私は友を失いました。その後亡命して、「紅雲」という小説を書きました。ここに至れた支えてくれた全ての人に感謝したいです。受け入れてくれた葡国の人たち、4年前に病死した親友の玲、龍国の両親、愛する夫と子どもたち、亡命を助けてくれた船員さん...あと玲を撃ったけど殺さなかった人とか。おかげでこんなに素晴らしい賞を獲ることができました」
受賞したのは琳だった。なんと玲は死んでいなかったのだ!当時薄が撃ったのは対人用麻酔弾で、しかも海に落ちてすぐに船員が救出したので、水を飲んで辛国で数日入院したものの、回復し、琳と一緒に葡国亡命したのだった。しかし玲は4年前に癌になり、亡くなっていた。
「あなた、そろそろ」
「そうだな。行ってくる」
「お気をつけて」
★
「校長先生おはようございます!」
「おはよう!」
「おはようございます!!」
「おはよう。今日も元気いいね」
男は谷西村の中専の校門の前で生徒に毎日挨拶していた。
「薄先生が校長になってから本校はものすごく良くなりました」
「教頭先生、何をおっしゃる」
「王府で軍の幹部候補だったお方が、こんな片田舎で教師になられて、本物の教育を分かっていらっしゃって子どもたちに指導してくださり本当にありがたいです」
「いやいや。未熟者です。龍国は昔よりはだいぶ良くなりましたね。それでも将来何が起こるかわからないから、子どもたちにはよく学んでほしいです」
「薄先生が龍国の主席だったらもっと良くなっていたでしょう」
「とんでもない。私は古くさい、何も成し遂げられなかった小物です。今の子どもたちに龍国にとどまらず、世界に羽ばたいていってほしいと願っています」
青い空に白い雲が浮かんでいる今日も、いつもと変わらず、授業がはじまった。
おわり
◎登場人物
玲 美人女神 故人
テレサ(琳) マジメ博士女 42 作家
薄 谷西村中専校長(元戒厳部隊中尉) 59
あの日、多くの罪のない若者が血を流した紅い雲はいつまでも龍国の人たちの胸の奥にいきつづけている。